シネマピア
ビザンチウム
1994年に吸血鬼物語の金字塔『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア 』を世に送りだしたニール・ジョーダン監督が、満を持して再びヴァンパイア・ストーリーに挑んだ本作。『つぐない 』で弱冠13歳にしてアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ローナン、そして『007 慰めの報酬 』でボンドガールを務め、『アリス・クリードの失踪』で圧倒的な演技力を見せつけたジェマ・アータートンの2人の女優を主役に据え、ヴァンパイアの性(さが)が織りなす悲哀なドラマの幕を開ける。
16歳のエレノア(シアーシャ・ローナン)と、8つ年上のクララ(ジェマ・アータートン)。2人は街から街へとあてどなく移り住み、定住の地を持たずに放浪の旅を送っていた。とある浜辺の街でフランク(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)という青年に出会ったエレノアは、自分と似た孤独の影を持つ彼に徐々に惹かれていくが……。
『アリス・クリード〜』のときもそうだったが、ジェマ・アータートンの悪女っぷりは見事だ。モラルも良心もなく、ただ自分自身と身内を守り、「生き抜く」ことだけに専念するその生き様。女子力が極まりすぎてもはや男子の力強ささえ身に着けた感さえ漂う。翻って、シアーシャ・ローナン演じるエレノアは、感受性が強く、繊細で、人の命を奪ってしか生きられない自分自身を嫌悪する思春期のオンナノコ。本作で特筆すべきは、まずはこの真逆の2人の対比の見事さだろう。
そして今もなお、ヴァンパイアものというジャンルを超えた圧倒的なドラマ力でヴァンパイアファンたちの心を掴んでやまない『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』。何を隠そう私もそのうちの1人なのだが、配役もストーリーも時代設定もまったく違うにも関わらず、本作は『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のテイストをそのままに再現することに成功している。歪んだ人間関係、それぞれが隠し持った秘密、常に陰鬱さが支配するスクリーン、希望とも絶望ともとれるラスト。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』はトム・クルーズとブラッド・ピットの配役で男性が主にストーリーを主導したが、本作は2人の女性により物語が展開していく。雰囲気的には女性版『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』といったところだろうか。女性が主役だけに、男尊女卑で虐げられたことへのネチっこさたるやハンパなく、また、思春期の悩み、自身のアイデンティティへの問いかけといった一筋縄ではいかない要素が画面上でこれでもかこれでもかと掻き回され、光を通さぬくすんだ色へと変貌を遂げる。また、女性だからこその強さ、生への情熱、母性本能といった一見前向きな要素を持ってしても物語を明るい方向へは向かわせず、ただただ狂気の淵へとその帆を進める。決して奇をてらわず、そしてあからさまではない、実世界に根差した、まるでいぶし銀のようなこの狂気。これこそが、『クイーン・オブ・ザ・ヴァンパイア』ではない、真の『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』続編を待ち望むファンの心を満たすものなのだ。
監督:ニール・ジョーダン
脚本・原作:モイラ・バフィーニ
出演:シアーシャ・ローナン/ジェマ・アータートン/サム・ライリー/ジョニー・リー・ミラー/ダニエル・メイズ/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
配給:ブロードメディア・スタジオ
公開:9月20日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー
公式サイト:http://www.byzantium.jp
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