シネマピア
エンダーのゲーム
1977年に誕生し、SF賞の権威であるヒューゴー賞とネビュラ賞のW受賞という快挙を成し遂げた伝説のSF小説を、同タイトルで実写化した本作。そのストーリーの大きな魅力から何度も実写化のプロジェクトが立ち上がったが、壮大な舞台設定、複雑かつ繊細なストーリーから幾度も頓挫して日の目を見なかった。満を持して今、原作者もプロデューサーとして参加した念願の映画化作品だ。
今から70年後の近未来。人口増加を抑えるために2人までの子供しか持てないこの世界で、どうしても3人目の子供が欲しい家庭は政府の許可付でようやく出産を認められる。だがその第三子は政府の所有であり、政府の要請にいつでも従わざるをえない運命にある。10歳の天才少年エンダーもまた、「サード」と呼ばれ蔑まれるその1人。政府からの無慈悲な召喚で向かった先は、昆虫型異形生命体からの再襲撃に備えるためのバトル・スクールだった......。
主演は『ヒューゴの不思議な発明』のエイサ・バターフィールド。当時の14歳から2年くらいしか経っていないのに、あのころから比べたら随分と成長して美少年になっている。「そぉいやっさー」と歌ってお茶の間を賑わす消臭剤の2人組もそうだが、子供の成長とは本当に早いものだ、と妙に感心してしまう。繊細なのに天才でそれに苛められっ子という難しい役どころを、憂いを含んだ悲しげな表情で演じるエイサくんに思わずグッときてしまう。また、ハリウッド重鎮のハリソン・フォードや、『ヒューゴ』でもエイサくんと共演したベン・キングズレーという大御所が脇を固めているあたりも、安心して芝居に没頭できる。ゲームのシーンも技術が発達した現代の映画ならではというところで、もし何年か前に実写化されたとしてもここまでのリアル感は出せなかったかもしれない。そうした意味では、この時期に本作が作られたことは大いに意味があるといえよう。
こうした大作の場合に時々あるのが、試写の前に「私はネタバレ記事を書きません」という旨の誓約書にサインが必要なパターン。まさに本作はそれだったわけで、一体どんなラストなのかと期待に胸を膨らませて鑑賞に臨んだ。映画でも小説でも歌の歌詞でもあらゆる物語にネタバレは厳禁であるが、確かに本作のこのラストを知ってしまったら元も子もない。ないのだが、その驚愕の真実が台詞だけでの明かされたのは少しあっさりし過ぎだったろう。関連のイメージシーンがあるにはあるのだが、驚愕の真実の割には驚愕の映像が出てこない。題材からして若年層も鑑賞するからというのが上層部の理由付けなのだろうが、大人が観るにはなんとも物足りない。実際には胸を抉られるような真実なのだが、それを彷彿とさせる映像がないため、登場人物の傷心も役者の演技力だけが頼りとなる。その演技は迫真ものでなかなかいいのだが、加えて衝撃映像があったなら、なおさらその傷心が伝わって観客の心を大きく揺さぶっただろうに。台詞で真実を告げる前に、それを匂わせる映像をいくつか付けて、観客に「あれ? もしかして?」と徐々に疑念を抱かせてからのほうが、よりストーリーを印象づけられたかもしれない。
また、本作のプレス(マスコミ向けパンフレット)には50ページほどの文庫サイズの原作小説の試し読み版が付属していた。小説では兄弟間の屈折した心理描写もあり、少ないボリュームながらなかなか読みごたえがあったのだが、2時間弱の映画サイズでそれをすべて表すのは物理的にも無理というものだ。この縮小版を読んで行ったからなんとかストーリーに付いていくことができたが、もしこれがなかったら何がなんやらよくわからずに終わってしまった可能性もある。かといって、ラストを知っていては映画の魅力が半減してしまう。原作を先に読んでから映画を観るか、それとも読まずにまっさらの状態で観るか。実に悩ましいところだが、もし先に映画を観るにしても、原作小説を途中まで読んでから本作を観たほうがより楽しめるものとなるだろう。
原作:オースン・スコット・カード「エンダーのゲーム」
監督・脚本:ギャヴィン・フッド
出演:ハリソン・フォード/エイサ・バターフィールド/ヘイリー・スタインフェルド/ヴィオラ・デイヴィス/ウィッギン・アビゲイル・ブレスリン/ベン・キングズレー
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
公開:1月18日(土)、全国ロードショー
公式HP:http://ender.jp
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