シネマピア
思い出のマーニー
病気がちの少女が療養先の入江で出会ったのは、金髪の女の子マーニー。少女の身の回りで起こる、不思議な出来事……イギリス児童文学の最高傑作と名高い同名タイトルの小説を原作に、舞台をイギリスから北海道へと置き換えて描かれる美しい海辺の風景。ジブリ映画としては初めて、高畑と宮崎の両監督が関わらずに製作された、幻想的かつドラマチックなファンタジー作品。
自分が嫌いで、学校では周囲から孤立している12歳の少女、杏奈(あんな)。悪化する喘息の療養のため、海辺の村でひと夏を過ごすことになった杏奈だったが、預けられた親戚宅でも気疲れしてしまう。そんな折、“湿(しめ)っ地(ち)屋敷”と呼ばれる古い屋敷を海辺に見つけ……。
不覚にも、何度か号泣してしまった。試写で私と同じ列に座っていた女性もまた、泣いていた。冒頭、療養に行く前に杏奈の性格、そして置かれている家庭環境やスクールカーストでの底辺模様をきっちり描写しているのだが、ここからしてすでに涙腺が緩みかけたのである。米林監督は上手い。そしてずるい。初盤から観客の心をガッチリつかみ、そのまま物語を進行させ、波打ち際から徐々に沖合に向かい、そしてクライマックスで感動の大波に投げ込む。「感動とはなんたるか」を存分に心得ている。個人的には、ジブリで泣いたのはラピュタが最後だ。だからここまで感情が揺り動かされたこの事実に、何やら宝物を見つけたような気分にもなったのだ。また、スケッチブックの消しカスやハガキに書かれていく文字、トマトの切り口等々、登場人物の所作のすべてがジブリらしく大変リアルであり、アニメーション技法ひとつ取っても高畑・宮崎時代と比べて引けを取らない。
原作が良かったからだろうか? 確かにそれもあるだろう。だが、ジブリの過去作『ゲド戦記 』は原作者にブチ切れされていたし、『借りぐらしのアリエッティ 』は「盗みぐらしの〜」として賛否両論だったし……と、原作をもとにしているからといって映画も良くなるとは限らない。そういった意味でも、高畑・宮崎なしでのジブリ第一作は、大大大成功と言い切っていい。
プリシラ・アーンによる主題歌は、主題歌というよりはBGM的色合いで、決してキャッチーなメロではなく、ボーカルも空気に溶けていきそうな声質と歌唱方法だ。だが、あまりにも主張の強すぎる曲ばかりがプッシュされている昨今、そのさりげなさこそが逆に心地よい。
米林監督は「もう一度、子どものためのスタジオジブリ作品を作りたい」とのことだったが、本作は少女たちだけでなく、過去に少女だったことがある、また少年だったことのあるすべての大人の心に突き刺さることだろう。
原作:ジョーン・G・ロビンソン「思い出のマーニー」(松野正子訳・岩波少年文庫刊)
監督:米林宏昌
脚本:丹羽圭子・安藤雅司・米林宏昌
声の出演:高月彩良、有村架純、松嶋菜々子、寺島進、根岸季衣、森山良子、吉行和子、黒木瞳
配給:東宝
公開:7月19日(土)より全国ロードショー
公式サイト:http://www.marnie.jp
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