シネマピア
レッドファミリー
ハッピーエンドなのに、超ニガイ後味。
なんかクチの中がサビの味がするような、そんな感じの『レッドファミリー』。なんなんでしょうね、この後味は。
ストーリーはきわめてシンプル。
シニア世代、若夫婦、学生と、各世代をミックスさせた偽の家族として、韓国内に潜伏する北朝鮮のスパイ一家。
そして、その隣に住んでいるのがどうしようもなくだらしない、北朝鮮的に言えば「資本主義に毒された」家族。
旦那の稼ぎは悪く、すぐぶち切れてゴミ出しのマナーも守れないDQN妻はやくざから金を借りて無駄使いしまくり。その息子は学校でイジメられてカツアゲされ放題。おばあちゃんはため息をつきながらそんな家族を見守るしかない。
しかし、そんな堕落した「韓国人」の生活に、少しずつあこがれさえ抱くようになる「北朝鮮」のスパイ偽一家。どんなにバカでヒドい連中でも家族でいられるのがイチバン幸せだと、なんとなく気がついていくが、「韓国人」一家はそんなことに気がつきもせず揉め事ばかり。
そして「北朝鮮」に残してきた「本当の家族」を護るために手柄を焦ったスパイ偽一家は、とんでもない失態をやらかしてしまう。それを挽回するための最終指令が北朝鮮本国から下される。それは「となりのバカ家族抹殺指令」。この命令を成功させなければ、偽スパイ一家は処刑されてしまうのだが、はてさてどんな結末になるのやら……。
とまあ、シチュエーションだけ取り出してみると、これはもしかして「ブラックなコメディ」なのか、と思えてくる。もうガチガチの規律で馬鹿馬鹿しい事でも大まじめに取り組んでしまう「北朝鮮の人」と、ちょっとした事で揉め事を起こし、なんでも人のせいにしてしまう「韓国の人」と、ウソ臭いほど大げさに描きわけて、その対比は観ていて確かにコメディ的で面白い。面白いのだが、観てゆくうちにどんどんもの悲しくなってくる。何もこんなに自虐的な描き方しなくてもいいんじゃないか、と。
もちろん、これは映画だし、フィクションなのだからウソ臭くってもいいんだけれど、実際「韓国」と「北朝鮮」は未だ戦争状態なわけですよ。今はただ「休戦」してるけど、事実上両国は「敵国」どうし。ココまでお互いの「マイナス面」を繰り出しあってのdisり合いってのは、どうよ?と思ってしまう。まるで自分の病気自慢をしている中年のオッサンの飲み会的な感じ。より具合が悪いほうが「勝ち」みたいな(笑)。
とまあ、それをなんとかエンタテインメントとして観せてしまうのがこの映画のチャームポイント。それは若手の監督イ・ジュンヒョンの腕もさることながら、制作/脚本/編集、そして総指揮のキム・ギドクの手腕によるところが大きいだろう。
元々キム・ギドク監督の作品は、何か苦めの、すっきりしないけど心に残るモノが多いだけに、ファミリードラマ仕立てのストレートな作品を作るのには無理があったんだろうな、と推察する。その点、若いジュヒョン監督は、ギドクの毒っぽい部分を活かしつつ、レーティングのかからないエンタテイメントとして成立させている。
もちろん少々グロっぽい部分もあるし、南北問題を取り上げているだけに、いろいろ考えさせられる点も多い。
ただ、最初に書いたように、映画そのものはとてもステキなハッピーエンド。これからの若い世代の希望に満ちたステキな終わり方だと思う。しかし、そこに至るまでの道のりが、もう、やっぱり、クチの中がサビの味っぽくなっちゃうのが、なんとも。出てくる連中みんな結構流血するし。まったくハードなファミリードラマだぜ。幸せは歩いてこない。だから歩いてゆくんだよ、と、昔のヒット曲でも唄われているように、幸せになりたかったら待ってちゃダメだな。
監督:イ・ジュンヒョン
制作総指揮/エグゼクティブ・プロデューサー/脚本/編集:キム・ギドク
出演:キム・ユミ/チョン・ウ/ソン・ビョンホ/パク・ソヨン
配給:ギャガ
公式HP:http://redfamily.gaga.ne.jp/
公開:10月4日(土)新宿武蔵野館他全国順次公開
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