シネマピア

フォックスキャッチャー

20150130cpicm.jpg大財閥の御曹司がオリンピックの金メダリストを殺害――衝撃の実話を綴ったこの物語は、カンヌ映画祭で最優秀監督賞を受賞し、アカデミー賞でも監督賞、主演男優賞他にノミネート。『G.I.ジョー』シリーズ、『マジック・マイク』のチャニング・テイタム、『アベンジャーズ』のマーク・ラファロ、そして『リトル・ミス・サンシャイン』のスティーヴ・カレルといった実力派トップ俳優らが戦慄の演技で魅せる人間ドラマだ。とりわけ、喜劇俳優のイメージが強かったスティーヴ・カレルの怪演には、呼吸をするのも忘れそうになるほど魅入られてしまう。華やかな表舞台に隠された闇と狂気に、容赦なく切り込む問題作だ。

20150130cpic_a.jpgレスリングのオリンピック金メダリストという華やかな経歴を持つマーク(チャニング・テイタム)。だが、妻と子供を持って幸せに暮らす兄(マーク・ラファロ)とは正反対に、貧しく孤独な生活を送っていた。そんな折、突然にデュポン財閥の御曹司ジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)からレスリングチーム「フォックスキャッチャー」への誘いがかかる。溢れるほどの潤沢な資金を持つデュポンからレスリングへの情熱を聞き、夢見るかのようにデュポンの力になろうとするマークだったが……。

狂気。この映画を一言で表すとすればこれに尽きる。しかも、あからさまに血なまぐさい言動を取る殺人鬼とは違い、本作が示す狂気は一人の人間の知力の足りなさに容赦なくフォーカスする。デュポンは統合失調症との診断を受けたが、それのみならず何らかの知的障害、人格障害も併せ持っていただろう。演説原稿や筆跡のくだりからも彼の“鳥類学者”などの知的肩書きが金で買われたものだと容易に想像させる。言葉は悪いが敢えて使わせていただくことをご容赦願いたい――「気違いに刃物」という諺があるが、デュポンの持つ財力は刃物と化して周囲の人々を傷つけ、デュポン自身をも切り刻んでいく。音楽を多用しない“沈黙”の演出がその狂気をさらに際立たせ、デュポンの空虚な内面を観客にさらけ出す。観ているこちら側の内面をも、彼の刃物でザックリと刺すかのように。

各方面からも絶賛された本作だが、驚いたことにアカデミー賞主要賞のノミネートは監督賞、脚本賞とスティーヴ・カレルの主演男優賞、マーク・ラファロの助演男優賞。作品賞へのノミネートはなかったのだ。ジョージ・ルーカスもTVショーで「アカデミー賞は政治のようなもので、芸術とは無関係。むしろ有害だと思う。わたしはこういったことが理由で(映画芸術科学)アカデミーには属していない」と述べて話題となった。本作が作品賞にノミネートされなかったことも、作品力ではなく何らかの政治的要因が働いたのだとしか私には思えない。それほどまでに群を抜いた、近年の最高傑作なのだ。


監督:ベネット・ミラー(『マネーボール』『カポーティ』)
脚本:E・マックス・フライ、ダン・フッターマン
出演:スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、シエナ・ミラー
配給:ロングライド
公開:2月14日(土)全国公開
公式サイト:www.foxcatcher-movie.jp

 

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エンタメ シネマピア   記:  2015 / 01 / 30

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