シネマピア
チャッピー
奪われた人口知能は、独自の進化を遂げた――! 『第9地区』で鬼才の名を欲しいままにしたニール・ブロムカンプ監督の最新作。同作で俳優デビューを果たした盟友シャールト・コプリーを人口知能「チャッピー」の声優に起用し、新たなるブロムカンプ・ワールドを炸裂させる。
兵器企業勤務のディオン(デーヴ・パテル)は、会社に内緒で兵器ロボットを開発中だ。そのロボットとは、自分自身で感じ、考え、成長するAI(人工知能)搭載の最新型兵器。その偉大な発明を上司のミシェル(シガニー・ウィーヴァー)にプレゼンするも、あえなく却下。あきらめきれないディオンは、廃棄用ロボットにそのAIを利用するが……。
実は、日本では公開を目前してある騒動が巻き起こっている。配給側のソニーは本編に含まれていた過激な映像を監督の賛同を得たうえでカットし、そのPG12版を日本で公開するという 。ここまではよくある話で何ら問題はない。ところが、そのことを日本の映画ファンがTwitterで監督本人に聞いたところ、監督はカットの事実を知らなかったというのだ。実際、ハリウッドでは最終的な編集権が監督にない場合が多いので、本件の場合も恐らく契約上はまったく問題がないのだろう。
だが、配給側は(恐らく監督と米国本社と日本とのラインのどこかで意思伝達の何らかの問題が生じ)「監督の賛同を得た」と言い、監督は「知らない」と言う。そこに憤慨した日本の映画ファンの中から、無修正版の上映を願って署名サイトで賛同者を募る人も現れている。
では実際に修正後の本編を見てそのシーンに違和感があるかどうかだ。まぁ確かに、カットされた部分が「恐らくここ」というのは観ていて確実に分かる。つまり違和感は「ある」。その違和感の程度が多いのか、あるいは少ないのかは観る者の感性に寄ってくる部分だろう。
配給側としては、ISISによって日本人2名の尊い命が奪われたという経緯も鑑みての判断でもあるだろうから、その立ち位置も理解できる。逆に、監督の意図しない編集によって不自然になってしまったシーンを許せない映画ファンの気持ちも、これまた充分に理解できる。どちらが正しいのかなどとは、安易に結論が出せない。ただ、興行をまったく無視した作品の出来だけの観点から言えば、私個人としては勿論、無修正版を観たいというのが本音だ。
と、話題のニュースに触れるのはこれくらいにして、本編についてちゃんと語ろう。『第9地区』の一撃を映画界にかましたブロムカンプ監督は、2作目の『エリジウム』で大資本がバックに付き、マット・デイモンらの大スターを起用。だが意表を突く発想はそう何度も続かないのか、はたまた大資本ゆえの制約がストーリングにもかかってしまったのか、その2作目は『第9地区』の衝撃を超えることはできなかった。
そして3作目の本作。結論から言えば、やはり『第9地区』という偉大なるバイブルを超えてはいない。『第9地区』が素晴らしかったのは、「宇宙人はイケてるはず」という今までの常識を真っ向から覆したからだ。だが本作も『エリジウム』同様、設定はよくあるパターン。個人の記憶やらデータをどこか物質に転移させれば「意識」までもがそこに移動する、という設定は現状の科学の超えられない壁をいともたやすく超えてしまっている。「意識」というのは今もまったく解明されていない分野なのだが、それを観客に納得させる説明や描写がまったくない。『第9地区』に説得力があったのは、様々な超科学的行為を行っているのが地球外生命体だったからだ。『チャッピー』はすべて地球で完結しているので、そのあたりが割愛されていると観ている途中で急に現実に引き戻されてしまう。SF(サイエンス・フィクション)というよりは、SF風のファンタジー、サイエンス・ファンタジーと解釈して観るほうが適切かもしれない。
このままではシャマラン道まっしぐらなのではないかとヒヤヒヤしてしまうブロムカンプだが、心配は無用のようで、次作は『エイリアン』の新作を監督することが決定しているとのこと。確かに、戦闘シーンは初作から一貫してかなりの見応えなのだから。
監督の映画愛が随所に見受けられるのも楽しい。『フォレスト・ガンプ』や『ロボコップ』といった往年の名作へのオマージュをふんだんに使っているあたり、映画ファンの心をグッと掴むのが上手いのだ。『第9地区』という高いハードルを意識せず、作品自体を純粋に楽しむなら、チャッピーの悲哀や社内のライバル(ヒュー・ジャックマン)との軋轢など、ドラマ性も網羅している。大人も子供も楽しめる、バランスの取れたSF童話なのだ。
監督:ニール・ブロムカンプ
脚本:ニール・ブロムカンプ & テリー・タッチェル
出演:シャールト・コプリー(声の出演)、デーヴ・パテル、ニンジャ、ヨーランディ・ヴィッサー、ホセ・パブロ・カンティージョ、ヒュー・ジャックマン、シガニー・ウィーヴァー、ブランドン・オーレット
配給: ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公開: 5月23日(土)より丸の内ピカデリー他全国ロードショー
公式サイト:Chappie-movie.jp
©Chappie - Photos By STEPHANIE BLOMKAMP
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