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第86回 ikkieのロック用語解説編 スラッシュメタル&デスメタル
――あたかも"笑うほどのスゴさ"いろいろ
2013 / 09 / 03
いつの間にやら9月になりましたねえ。暑い夏は大嫌いですが、終わるとなるとちょっと寂しいのはなぜでしょう……。さて、前回ようやくHR/HMから離れたわけですが、今回はまたヘヴィメタルの細分化について解説しちゃいます。スラッシュメタルって何? デスメタルって何ぞや?
松本●またもヘヴィメタルに関する言葉が何個か出てくるわけなんですけども。
ikkie▲俺はやっぱりHR/HMのことを(音楽総研に)書くことがいちばん多いと思うので、そのへんはくわしく説明しておきたいと思ってまして。まずはスラッシュメタル。ヘヴィメタルが出てきたころに……ドカンと売れたのはLAメタルとかだったわけですけど、それを良しとしない人たちももちろんいたんですよね。LAメタルはヘヴィメタルではあったけども、ポップな曲や明るめの曲もあったりと、ちょっとまあ、言わばカリフォルニアの人たちらしい音楽になっていったので、同じヘヴィメタルでも、元々の……JUDAS PRIESTやIRON MAIDENみたいな硬派なバンドが好きで、(LAメタルのように)女みたいな化粧して、ラヴソングなんか歌いたくないんだよ、という人たちがやっぱりいたんですよ。で、それに加えてパンクも好きだと。激しくて攻撃的なものが。そういう人たちが始めたのがスラッシュメタルです。テンポが速くて、ザクザク刻むギターリフが多いのが特徴ですね。
で、たぶんね、最初はきっと子供っぽい発想だったと予想してるんですよ。「これ、もっと速くしたらカッコよくねー?」って始まったんじゃないかと。極限までテンポを上げて、いちばん速いのでやってみようぜ、っていうちょっと乱暴な感じだったんじゃないかと思ってます。その最初のバンドのひとつがMETALLICA。
松本●ああ!
METALLICA『Fight Fire With Fire』
初めて聴いた時、ikkieが思わず笑っちゃった速すぎる曲。
でも、今聴くとさほど速い感じがしない……慣れって怖いですね
★ikkie★
METALLICA、SLAYER 、ANTHRAX と、いまや日本のお茶の間で人気者になってしまったマーティ・フリードマンがいたMEGADETH が代表的で、その4バンドで「ビッグ4」と呼ばれています。
ikkie▲METALLICA、今はどっしりとしたスローな曲もやりますけど、昔はほんと早送りしてるみたいな感じがあって。俺なんかは、最初聴いたときは笑っちゃったんですけどね。冗談みたい、と(笑)。
松本●早送りですか(笑)。
ikkie▲とにかく速くて、それまで俺が知ってたHR/HMよりも攻撃的だった。歌詞もパンク寄りというか、アジテーションしている感じで。もちろんバンドによるんですけど、基本シリアスで、能天気なことは歌ってない。例えばメタリカの有名な曲で、『Master Of Puppets 』って曲があるんですが、操り人形の主人、みたいな意味ですけど、それはドラッグに操られて、っていうことで。そんなふうにどこか社会的なことを歌うバンドもいますね。LAメタルのバンドって、どちらかというと、あんまりそういうことを歌わないんですよ。
松本●なんかそんな感じしますね。
ikkie▲もうね、女の子とどうこうしてだの、ハーレーに乗ってだの。
松本●海岸で恋に落ちて、ぐらいの。
ikkie▲あはは。そんな曲が多いですね。スラッシュメタルは……ヒゲ面の強面の男が、かわいい女の子に恋しちゃったって歌っちゃったらねえ。
松本●台無しですよね(笑)。
ikkie▲彼らが、「彼女はまだ17歳〜♪」なんて歌うと、違う意味になっちゃうでしょ。ニュアンスがもっとやばいほうに(笑)。だからそういうのではなくて、もっと硬派です。まあスラッシュメタルも……いろんな意味で、HR/HMってどんどん突き詰めていくしかないのかな、先に行くには。どんどん究極なほうに、極端なほうにいくんですよね。スラッシュメタルは極端なほうへ行ったんですよ。
松本●ははあ。いろんな音が融合してブリードさせていったらこうなっていった、っていうパターンなんですね。やっぱりそうなんだなあ。ヘヴィメタルというジャンルの中で、パンクというものに出会って、それが触媒になってまた今度、スラッシュメタルにまで行き着くという。でも、今聞いて思ったんですけど、皆さん……怒られると思うんですけど、単純ですねえ。音を大きくしたりとか、速くしてみようとか。そういうところからくるんですかねえ。
ikkie▲昔はみんな若かったじゃないですか(笑)。バンドを始めたころは特に。ロックって、初期衝動がデカいし、歳のいってる人が新しいジャンルを作るってことはたぶん無いんじゃないかなあ……。
松本●たぶん無いでしょうね(笑)。どっちかっていうと(そのジャンルの)重鎮として……。
ikkie▲より良くしていくというのは当然あると思うし、歳を取っても新しいことをやる人はもちろんいるでしょうけど、新しいジャンルを作っちゃうぐらいの人っていうのは、若いと思うんですよ。
松本●若気の至り的なことも含めて。ちょっと速くしてみるか、音を大きくしてみようか、ヴォリューム上げてみろよ、と。
ikkie▲絶対そうだと思う。
松本●……すごいなあ。
ikkie▲新しいジャンルが出来たときは、きっとそうだと思うんです。でも、30、40過ぎても変わらず続けてる人たちは、”深く”する。ちょっと意味合いが変わってくるんですよ。先にではなく、深く掘り下げるほうに行くんじゃないかなあ。だって若くないと速い曲弾けないですもん(笑)。
松本●なるほど(笑)。面白いというか単純というか……いや褒め言葉です、褒め言葉。
ikkie▲まあ、でもほんとそんな感じだと思いますよ。
松本●失礼を承知で言えば、音楽なんて単純なものだと思うんで。上手く弾いて上手く歌って。それをこっちが聴いていたいというのが根本にあるわけですからねえ。
METALLICA 『Master Of Puppets』日本語訳付き
シ、シビレる……!!
このカッコ良さがわからない人はメタル聴いちゃダメよ(笑)
★ikkie★
バンドを本格的に始めた高校生のころ、スローな曲を速いテンポで演奏するという遊びをよくやっていました(その逆も)。あと5分でスタジオから出なきゃいけないから、間に合うように倍の速さで演奏しちゃおう、とか(笑)。曲のテンポはイメージやニュアンスを大きく変えるので、非常に重要です。実際、新しい曲を作るときには、いろんなテンポを試したりしますし。そこから偶発的に新しいジャンルになりうる楽曲が生まれたとしても、全然不思議じゃないのでは……?
松本●デスメタル、ブラックメタルという言葉もよく聞きますが、どっちかっていうと、悪魔的な感じになっていくということなんでしょうかねえ。
ikkie▲うーん、必ずしもそういうわけでは……。俺はデスメタルが好きじゃないので、それぞれのバンドのことをくわしく知らないんですけど、スラッシュメタルをもっと突き詰めていくんですよね。速さがさらに尋常じゃなくなってきたりとか、人間業じゃないような……。
松本●そういう意味でも死んでるわけですね。
ikkie▲あはは! で、一番特徴的なのが、いわゆる”デス声”ってやつです。スラッシュメタルって、迫力のある太い声の人が多いですけど、基本は地声で歌ってるんですね。でも、デスメタルは、ヴおおおお! みたいな声をつぶした……今だと”グロウル”って言ったりもするらしいんですけど、歌ってるのか叫んでるのかわかんないんですよ。パンクだったりスラッシュメタルだったりは、メロディアスとまではいかなくてもメロディはあったし、なんていうのかな、ちゃんと曲の体をなしていて、ちゃんと展開があって……スラッシュなんて展開がありすぎるぐらいあってね。でも、デスメタルになると、曲の展開どころかメロディすら無くて。極端な例ですけど、2秒とか3秒とかの曲があって。Yeahhh! とかで終わって、それって音楽か?って思っちゃう。そこはまあ、ハードコアパンクの……パンクのもっとハードコアなやつの影響なんだろうから、俺なんかにはちょっと理解出来ないです。その道では凄いバンドらしいけど、意味がわからないですね。
NAPALM DEATH 『You Suffer』
噂の物凄く短い曲(?)。曲よりカウントのほうが長いじゃん!
ちなみに、彼らはグラインドコアなんて呼ばれ方もされています
★ikkie★
もしかすると、こういうジャンルの短い曲というのは、前回のコンセプトアルバムでいうところの、インタールードみたいなものなのかも? ……こじつけです、はい。
ikkie▲実は、(デスメタルとハードコアパンクは)クロスオーヴァーしてるらしいんですけどね、そのジャンルって。で、とにかく声をつぶしてるから、何を歌ってるのかわからない。歌詞がわからないんです。ちゃんとあるらしいけど、歌詞(笑)。言葉もわからない、メロディも……歌ってるのか叫んでるのかわからない。なので、俺からしてみたらあんまり音楽的じゃないなって感じなんですけど、そういうのを好きな人たちがいますねえ。それがまあデスメタル。で、そこでさらにもっと、速さとかそういうのだけではなくて、悪魔的な方向へ行って、はっきりとそういう悪魔信仰を打ち出している人たちをブラックメタルとか言ったりするらしいですけどね。
松本●前に聞いた北欧の今のひとつの流れになるかもしれないってやつですね。
ikkie▲そこはもう俺は正直わからないので、あんまり……。避けて通ってるかな。例えばね、デスメタルの中でも叙情的なバンド、とか言われてもよくわかんないんですよ(笑)。
松本●地獄なんだけど天国みたいな(笑)。すでに意味がわからなくなってきてるっていう(笑)。
ikkie▲でもまあ、そこが好きな人にはいいのかもしれないですね。なんかその、すごくキレイなギターソロが入ってたりするらしいんですよ。メロディアスな泣けるギターが入ってきたりするらしいです。
松本●いろんな意味で楽園的ですね。地獄の中に楽園が。より業が深い感じがします(笑)。
ikkie▲だからこう、ヘヴィなところにキレイなのが入ってくると、ぱあって(明るく)なるのかも。
松本●逆に目立つかもしれないですね。
ikkie▲そうですね。で、意外と上手かったりするんですよ。ギターが。でも、デスメタルっていうのは、上手いバンドは上手いんですけど、そうでないバンドもいて……パンクなんかにしても俺はそう思うんですけど、テクニックが上達すると、普通のHR/HMになるんですよ。
松本●ははあ。なるほど、なるほど。
ikkie▲……って俺は思っちゃうんですけどね(笑)。出来なくてこうしちゃってるって感じがするんですよ(※あくまでも個人的な見解です。ある程度の技術がないとあの演奏は出来ません)。歌えないから叫んでるんじゃないかと。そこから新しいスタイルが生まれたんでしょうけどね。
★ikkie★
反論が出るのは承知していますが、METALLICAも初期のころはあまりテクニックがなく、メロディも単調なものが多かったように思います。でも、その中でスタイルを磨いて、あのジャンルを極め、凄いバンドになった。そして、シンガーのジェイムズ・ヘットフィールドの歌唱力や表現力が上がると、バラードタイプの曲をやってみたり(元から叙情的な部分はあったバンドですが)、バンドそのものも、スラッシュメタルどころかヘヴィメタルからも離れたスタイルをやるようになりました。「新しい!」と持ち上げた人もいましたが、俺は「これって普通のロックじゃん。何が新しいの?」とがっかりしました。最近はまた、かなりヘヴィなアルバムを作っているので、ぜひその路線で続けてほしいものですねえ。
CANNIBAL CORPSE『Encased In Concrete』
デスメタルの代表的なバンド。
デス声ってやっぱりよくわかりません……
松本●逆はいますか? 出来てこうしてるっていう。
ikkie▲います、います。(スタイルを変えずに)長くやってる人たちっていうのは当然そうなんです。すごく上手い。最初から上手い人ってのは、俺はくわしくないから知らないんですが。長くやってるバンドの初期のころ、ファーストアルバムなんかを聴くと、演奏がとっちらかってたりするんですけど、だんだん上手くなって、すごくカチッとそれ(デスメタル)をやってる。でも……聴いてる人は、普通のHR/HMもそうなのかもしれないけど、音楽というよりも、どこかカタルシスというか、そういうのを求めてるんじゃないのかな、って思っちゃうんですよね。
松本●そうですよね……。
ikkie▲感動しないじゃんって、俺は好きじゃないから否定しちゃうんですけどね。好きな人からは俺が否定されそうですけど。
松本●なんか突き詰めていくとそうなる、っていうわかりやすい例のうちのひとつかもしれないですね。スラッシュメタルにしても、デスメタル、ブラックメタルにしても。当然その、自分の趣味嗜好、かつ自分の中のものを作りたくなってくると、ひとつ主流になるものがあって、そこからいろいろと流派が出てくるっていうのは当たり前なんでしょうけどね。その中で、極端なところまでいくと、ちょっと笑ってしまう対象になってしまう、というのもあるんでしょうか。
ikkie▲そうですね。
松本●笑うほど遅いカーブを投げる軟投派とか。
ikkie▲ああ(笑)。凄いのに笑ってしまうという。まあ、もしかしたら世代の違いはあって、それが初めてのヘヴィメタル体験だった人たちは、それに衝撃を受けるのかもしれないし。俺は古いHR/HMを知った上で、スラッシュとかデスを聴いちゃったので、笑っちゃったんですよね。
松本●ちょっとプッとなっちゃうと。その気持ちすごくわかるようになりました、今日で(笑)。
さて、今回はここまで。だいぶざっくりとした解説なので、スラッシュメタルやデスメタルが、プッと笑っちゃうジャンルだと誤解されていないかと不安ですが(笑)、違いますからね。次回は俺の愛するHR/HMを瀕死の状態にまで追いやった、グランジ、オルタナティヴの紹介です! 乞うご期待。
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