ikkieの音楽総研

第234回 ロック映画編 THE METAL YEARS―― ヘヴィメタルの光と影を描いた問題作

2019 / 05 / 28

この間ゴールデンウィークが終わったばかりだというのに、連日の30度超え! 今からこんなに暑いと、夏本番はいったいどうなるんでしょう……。さて、今回の音楽総研は88年に公開された映画、『ザ・メタル・イヤーズ 』をご紹介! 以前紹介したMÖTLEY CRÜEの映画、『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』を観て、思わずこの映画を思いだしたんだよね。

100528metalyears.jpg 『ザ・メタル・イヤーズ』は80年代末のロサンゼルスの音楽シーンを取材したドキュメンタリーで、おバカロック映画『ウェインズ・ワールド 』などを手掛けたペネロープ・スフィーリスが監督。KISSAEROSMITHオジー・オズボーン、レミー・キルミスター(MOTÖRHEAD)などの大物ミュージシャンのインタビューに加えて、当時のクラブシーンで活動していたローカルバンドや、そのファンたちのインタビューも紹介されています。

この映画が公開された88年といえば、ロサンゼルスで勃発したLAメタル・ムーブメントが世界中を席巻し、HR/HMミュージシャンたちが我が世の春を謳歌していたころ。この映画に登場する人物たちも、成功しているミュージシャンだけでなく、ローカルバンドまでもが、かなり“はしゃいで”いるような印象を受ける……というか、そういう風に見えるように編集している気がするなあ。ただ、LAメタル華やかなりしころから30年が経過して、当事者たちがあのころを振り返るインタビューなんかを最近よく見かけるんだけど、やはり特別な経験だったらしく、素晴らしい時代だったと語るミュージシャンが多い。

ロサンゼルスの中心地にあるサンセットストリップにはたくさんのクラブがあって、派手なファッションに身を包んだミュージシャンや、そのファンたちが毎日のように集まり、夜毎ライヴやパーティが行われていたという。そりゃ楽しいよね。メジャーと契約していない、いわゆるアマチュアミュージシャンであっても、ライヴをやって動員が多ければギャラもそれなりに入っただろうし、ファンの女性たちの援助もあったとくれば……まあ、10代や20代の若者なら調子に乗っても仕方がないと思う。ただ、こう言っちゃなんだけど、この映画に出演しているアマチュアミュージシャンたちは、とても成功しそうには見えなくて、どうにも痛々しい。言っていることも演奏している曲も、彼らの若さを差し引いたとしても浅いんだよね。そんな彼らに対し、インタビュアーは「スターになれると思う? 成功しなかったらどうするの?」と、容赦がない。

『The Metal Years Intro』
映画、『メタル・イヤーズ』のオープニング。出てくるやつ、出てくるやつ全員頭悪そう……。
ちなみに、俺はHR/HMが大好きだけど、この映像でやっているようなステージダイヴやモッシュが大嫌いです。
 


それでも彼らは、「スターになってみせる」「必死にやってる。成功するさ」「成功しないなんて想像できないよ」と、自分たちの未来を疑っていないかのように答える。不安は絶対あるはずなのに、若者らしい純粋さで答える彼らに、もの凄くシンパシーを感じてしまう。俺も同じだったからね……。実はそのインタビューに答えるアマチュアミュージシャンたちの中に、VIXEN TUFF といった、後にメジャーデビューすることになるミュージシャンたちも混ざっている。何年かしてから見直した時に気付き、なんだか嬉しかったのを思い出した。とくに女性だけのバンドだったVIXENはかなりヒットしたし(来日もした)、男性ばかりのHR/HMシーンにおいて、かなり苦労したであろうVIXENのメンバーが映画で語っていたとおり、成功したのは本当に喜ばしいことだ。ただ、他のミュージシャンたちはどうだったのかな……。 


VIXEN 『Edge Of A Broken Heart』
美形揃いで曲も良かったVIXENはアメリカや日本で大ヒット。
この曲はリチャード・マークスが作曲したんだよね。
ちなみに、ドラムのロキシーはVIXEN結成前に、SKID ROWに加入前のセバスチャン・バックとMADAM Xというバンドをやっていました。
 


バンドをやっている皆が皆、成功出来るような甘い世界じゃない。メジャーレーベルと契約出来なかったバンドはそれこそ星の数ほどいるだろうし、メジャーからデビューしたとしても、本当の成功を手にすることが出来たバンドはほんの一握り。この映画に登場する大物たちが、今も変わらず第一線で活動を続けていることがどれほど凄いことか! そして、そんな彼らが、「スターを目指す若者をどう思う?」と聞かれ、「やるしかないだろ」「成功出来ないと思うやつは失敗する」と、異口同音に若者たちを鼓舞する。彼ら自身が辿った道だからだ。これは今の若い人たちにも響くんじゃないかな。

映画のラストには、当時はまだ若手だったMEGADETHが登場し、派手なファッションでメイクをしたLAメタルバンドたちとの違いを語る。彼らもドラッグやアルコールの問題があったバンドだけど、それまでに登場したいわゆるLAメタルのバンドたちとは違い、音楽に対する姿勢や、演奏力の高さにフォーカスされている印象。それまでさんざん頭の悪そうなバンドを観てきただけに、彼らがやたらとインテリに見えるし、とにかく硬派だ。本作の公開からほんの数年でLAメタルは衰退し、HR/HMの中心はMEGADETHやMETALLICAのような、よりヘヴィなバンドたちに変わっていく。それを予見しているかのようなラストなのも興味深い。

劇中でいちばん印象に残ったのが、W.A.S.P.のギタリストだったクリス・ホームズのこのシーン。
浴びるように酒を飲むクリスが、「ビッグになんかなりたくない。
こんな人間にはなりたくなかった」と吐き出すようにつぶやく……。
隣の女性はヘルエンジェルスのメンバーだったというクリスの母親。
 


レミーやAEROSMITHなどの大物、そして後に大物になったMEGADETHの言葉にはやはり重みがある。少々偏りがある内容ではあるけど、当時の狂騒を垣間見ることが出来る、良い映画だと思う。俺はいろんな意味で身につまされつつも、観るたびに楽しんでいるよ。

最後に、夢破れた若者たちに心からのリスペクトを……。


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