ikkieの音楽総研

第286回 洋楽編 GARY MOORE ―― 没後10年、未発表曲集でゲイリー・ムーアの新しい一面を知る

2021 / 05 / 11

gary how blue.jpg 2011年にゲイリー・ムーアが亡くなって早10年。ゲイリーの逝去以降、初めて未発表音源で構成されたアルバム『How Blue Can You Get 』が発売されました。ゲイリーは亡くなる前に、ケルティックな(ゲイリーのルーツであるケルト民族の民謡などを取り入れた)要素のあるハードロックのアルバムを作る予定があると話していたので、そのあたりの未発表曲が見つかったのかなと期待していたら、『Still Got the Blues 』以降のブルーズ・スタイルのアルバムだとのことで……まあ、なんとなく中身は想像が付くなと思いつつ、さっそく聴いてみたところ、想像通りではありつつも、これが素晴らしい内容でした。

各楽曲の録音時期は不明で、おそらくデモとして残っていたものを集めた内容だと思う(既発曲の別バージョンもあり)。オーバーダブもほとんど無さそうだし、スタジオで一発録りしたのでは、と思わせるほどの生々しいサウンドがいい。ヘッドフォンで聴くと、ピッキングの強弱でニュアンスを変えている様子や、ヴィブラートをかけている時に指が弦に当たるノイズまで聞こえてきて、まるで目の前で演奏をしているのを聴いているかのような、そんな錯覚に陥ってしまう。『Wild Frontier 』のように作り込んだ作風もゲイリーの魅力で、俺はそっちのほうが好みなんだけど、こういったブルーズ・スタイルならこのミックスのほうが断然いい。

『I'm Tore Down』
ニューアルバムのオープニングトラック。ゲイリーの得意そうなリズムだね

 


ゲイリーはそのキャリアの中で、ハードロックやジャズロック、ブルーズから、果てはデジタルロックまで、と自身のスタイルを変えてきたアーティスト(曲調は変わってもギターはあんまり変わらない)。日本ではハードロック時代の人気がいちばん高いと思うんだけど......、ゲイリーにはブルーズがいちばん合っていたんじゃないかな。ゲイリーの歌も、ハードロックよりブルーズのほうがいいと思う。本作のゲイリーは、すごくリラックスしていて、歌もギターも自然体でプレイしているように聴こえる。ブルーズにしては弾きすぎなのはいつものこと! これがゲイリーだもの。ブルージーな泣きのギターを熱く弾きまくるゲイリーは、まさに水を得た魚のようだ。加えて今回は、スライドバーを使ったプレイも印象的だった。以前から数曲で使ってはいたものの、ゲイリーにはあんまりスライドのイメージがなかったから、これは嬉しい驚き!

本作の目玉は、大方の人にとっておそらく『Parisienne Walkways 』や『Still Got the Blues』あたりを彷彿とさせるスローバラードの『In My Dreams』だろう。「ゲイリー・ムーアといえばこれ!」という、むせび泣くようなギターのメロディが印象的で、期待通りだと喜ぶ人が多いはず......だと思うんだけど、個人的には、こんなにいい曲が発表されずに残っていたのかとは思うものの、失礼ながらこちらの予想の範疇を超えておらず、まあ、ゲイリーならこれくらいの曲は書けるよねと、思ってしまった(あくまで個人的な意見です)。

『In My Dreams』
「これぞゲイリー!」なスローバラード

 


俺が「これはとくにいい!」となったのは、『Old New Ballads Blues 』にも別アレンジで収録されていた、スライドが印象的なエルモア・ジェイムス のカヴァー『Done Somebody Wrong』と、『Looking at Your Picture』、『Love Can Make a Fool of You』のオリジナル2曲。『Love Can Make a Fool of You』はリメイクで、以前は80年代的な装飾過多のアレンジだったこの曲 がシンプルなアレンジのスローブルーズに変わっていて、曲の良さがより際立ったように感じた。そして、『Looking at Your Picture』は、エリック・クラプトンあたりがやりそうなテンポが速めながらも抑えたヴォーカルが印象的なブルーズで、ゲイリーのこんな曲を聴いたのは初めてかも。いつの録音かわからないけど、新境地だったのでは。スライドを使ったブルージーなリフがカッコ良くて、何度も聴いてしまう。

『Mojo Boogie』
残念ながら俺のお気に入り3曲はYouTubeになし......。
『How Blue Can You Get』と同日に発売の『Live from London』から、スライドが印象的なこの曲を

 


以前から何度も書いている通り、俺は少年時代からゲイリーの大ファンで、物凄く影響を受けています。ゲイリーのことはよく知っているつもりでいたのに、本作では、スライドしかり、『Looking at Your Picture』のような曲調しかりで、まだまだ知らなかったゲイリーの一面が知れてとても嬉しくなった。考えてみれば、ゲイリーは常に新しいことをやりたい人だったんだよね。ゲイリーの存命中は、そんなにあれこれ手を出さなくても......なんて思っていたものだけど。ゲイリーが亡くなって以降、俺の中でのゲイリーは、自分がいちばん聴いていたハードロックやブルーズのスタイルのままで止まっていたんだなあ。......もしもゲイリーが今も元気だったなら、予定していたケルティックハードロックのアルバムを作った後には、きっと新しいスタイルに挑戦していただろう。ゲイリーの久しぶりのアルバムは、俺にそんなことも想像させてくれました。



※おまけ Bon Jovi 『In These Arms』 Cover by Antlion
本文とはまったく関係ありませんが、わたくしの新作カヴァー動画を。
ゲイリーの影響を受けたギタリストということで(?)、ぜひご覧になってください

 


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