ikkieの音楽総研

第327回 ロック漫画編 僕はビートルズ ―― まだ誰もビートルズを知らない時代にタイムスリップしてしまったら、あなたはどうする?

2022 / 12 / 13

前回の冒頭部分に書いたフランス人アーティスト、SUN の日本ツアー最終日11月27日のライヴですが、無事に原稿も間に合い、彼女たちのライヴを堪能してきました。ライヴの前にはSUNことキャロラインに、サポートメンバーの2人(バッセム&ロリス)と、俺とうちのシンガーで小一時間ほどお茶したりもして、ずいぶん仲良くなれたように思います。彼女らは想像していた以上にいい人たちで、俺らの適当な英語でもなんとか意味を汲んでくれてね、楽しい時間を過ごせました。「フランスに来たらうちに滞在してね! 大きな家だから大丈夫よ」とか、マネージャーもやっているバッセムに「フランスでライヴをやるなら会場を紹介してあげるよ」なんてことも言ってもらって……、これね、この文章だけだと社交辞令のように聞こえるかもしれないけど、彼女らの人柄に触れた後だと、まったくそうではないと感じられ、とても嬉しかったです。しかし、コロナ禍以降は日本でのライヴもやっていないのに、急に海外でのライヴの可能性が出てきてびっくり! 新しい目標が出来ました。がんばるぞう! SUNは新しいシングル をリリースしたばかりで、YouTubeにMV もアップされています。ほんとにカッコいいアーティストなので、みなさまもぜひチェックしてみてくださいね。

……さて、またしても前置きが長くなりましたが、今回の音楽総研は久しぶりにロック漫画編を。2010年から2012年までモーニングで連載されていた『僕はビートルズ 』をご紹介(単行本は全10巻)! 題材が題材だけに連載当時は賛否両論あったようですが……、俺はもちろん“賛”です!

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『僕はビートルズ』は原作:藤井哲夫、作画:かわぐちかいじのコンビで描かれた漫画です。マコト(ポール)、レイ(ジョン)、ショウ(ジョージ)、コンタ(リンゴ)の4人からなるTHE BEATLES (以下ビートルズ)のコピーバンド、ファブ・フォーが、ビートルズがデビューする前の時代にタイムスリップし、ビートルズの曲を自分たちの曲だと偽ってデビュー。ファブ・フォーはビートルズと同じように旋風を巻き起こす。そして、本物のビートルズはファブ・フォーに衝撃を受け、姿を消してしまう……。

4人がタイムスリップしたのは1961年、ビートルズがデビューする約1年前。ショウとマコトは同じ場所にタイムスリップしたが、レイとコンタの姿は見当たらない。平成の硬貨が使えずに通報されそうになっていた2人は流しの歌手、竜に助けられ、連れていかれたスナックで『イエスタデイ 』を歌ったマコトは、ビートルズを知らない竜に自分が書いたと嘘をつくんだけど……、これ、誰でも一度は想像してみたことがあるんじゃないだろうか。


『イエスタデイ』
問答無用の大名曲! もしもこの曲を誰も知らなかったとしたら……、俺が書いたって言ってみたくなるかもねえ……

 


俺の場合はビートルズではなかったけど、エディ・ヴァン・ヘイレンが登場する前にタッピングをやったらどうなるだろうだとか、子供の頃にはそんなことを夢想したりしたもんです。……でもまあ、これは現代のポピュラーミュージックの歴史を作り出したと言っても過言ではないビートルズだからこそ、成り立つ題材だよね。『僕はローリング・ストーンズ』でも、『僕はレッド・ツェッペリン』でもダメだと思う。いなくなると現代の音楽史がまるごと変わってしまうほどのバンドは、ビートルズだけだもの。

マコトはビートルズより先に彼らの曲を発表すれば、触発されたビートルズが存在していない新曲を書くはず、そして自分たちと世界のヒットチャートで競い合うんだ、とショウを説得し、竜の協力もあり2人は『抱きしめたい 』でレコードデビューを果たす。ビートルズを知らない世間に衝撃を持って受け入れられ、ビートルズになり替わることに難色を示していたレイとコンタも、ビートルズがいなくなってしまったとしたなら、彼らのすべてを世界に伝える責任がある、と2人に合流し、ビートルズのベスト選曲からなるアルバムを発表、そしてついにイギリスへ上陸する……!


『抱きしめたい』
あれ、ビートルズのデビュー曲って『ラブ・ミー・ドゥ』じゃなかったっけ?
なんでこの曲で……と思ったそこのあなた(俺も思った)!
日本デビューはこの曲だったんだよね。その辺も狙って書いていると思います

 


マコトとショウがビートルズの使用していた楽器にこだわり、なんとか探し当てるくだりや、当時の一流スタジオミュージシャンであっても、ビートルズのノリを出せないというくだりが、とても面白い。俺がミュージシャンだからこその感想かもしれないけど、その楽器でないと出せない音(ルックスも含む)、ビートルズを知らない人にはどうしたってあの“ノリ”は出せない、というのはよーくわかる。そして、ファブ・フォーを世に送り出したレコード会社社長マキの父親が彼らの楽曲に持った“日本人が書いたものなのに日本人の原風景が感じられない”という違和感……、これもよくわかるんだよなあ。音楽はやっぱり、作曲家や演者の人となりが出るものだもの。そして、その辺りからマキはファブ・フォーの秘密に少しずつ勘付き始めるんだけど、それはぜひ本作で読んでみてほしい。

賛否両論の“否”の意見をいくつか読んでみたけど、作品と現実との矛盾を指摘していたり、ビートルズがそんな反応をするはずがない、といったものが多くて……、まあ、ビートルズほどのバンドになると、それぞれが持っている理想のビートルズ像に違いがありすぎてね。そう感じる人がいても仕方がないとは思いつつ、作品の本質はそこじゃないから、もうちょっと素直に読んでみて、とも思うのです。ビートルズの素晴らしさにあらためて気付く、いい機会になるのでは。俺はそうでした。この作品のBGMはビートルズしかないし、ここ何週間かは久しぶりにビートルズ漬けの日々を送っておりますよ。


『アイ・ソウ・ハー・スタンディング・ゼア』
子供の頃、俺が一番好きだったのはこの曲でした。ポール役のマコトはこの曲が得意らしい。

 


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