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第356回 特別編 ―― 悲しい結末に思うこと
2024 / 02 / 06
昨年ドラマ化された『セクシー田中さん 』の原作者で、漫画家の芦原妃名子さんがお亡くなりになられました。現場の状況から自殺とみられるとのこと……。芦原先生はブログやSNSで作品のドラマ化に際してのドラマ制作側とのやり取りを明かしており、ドラマ化にあたっては「必ず漫画に忠実に」との条件を提示していたのにもかかわらず、それが守られずに毎回加筆修正を繰り返していたようで、そういった一連のやり取りや、その経緯を知ったSNSユーザーからの批判や誹謗中傷が脚本家やテレビ局などのドラマ制作側に殺到したことに心を痛めたのではないかと推測されていますが、本当の理由は、ご本人にしかわかりませんよね……。
芦原先生の投稿には気になったことがたくさんあって……、いつものような記事とは違いますが、作詞作曲をしたり、こうやって原稿を書いたりするクリエイターのはしくれとして、今回の顛末に感じたことを書かせていただきます。いつものような内容をご期待いただいていた方には申し訳ないですが、しばらくお付き合いください。
芦原先生の投稿によると、今回のドラマ化では、敢えてセオリーを外して描いた展開をよくある王道の展開に変えられてしまう、登場人物を原作から大きくかけ離れたキャラクターに変更される、作品の核として大切に描いたシーンが大幅にカットされる、といったことが続いたそうです。これは原作者として許し難いことだったはず。漫画をそのまま映像化することは難しかったとしても、作品の核を変えられてしまったのでは、それはもう、まったく違う作品になってしまう。
脚本家の方がどういった意図で原作から改変したのか、なんてことはまったくわからないけど、漫画に忠実にという条件を受け入れた上で仕事を受けたんじゃないの? といった疑問はどうしても残る。しかも、芦原先生は、自身が提示した条件が脚本家や監督に対して失礼な条件だと感じていて、この条件でほんとに良いか、と何度も確認して、今回のドラマ化にOKを出したといいます。しっかりと制作側の心情に配慮しているんだよね。原作者がそこまでしているのに、なんでそんなことになってしまったのか。
脚本家の方がもしも芦原先生が提示した条件を知らなかったとしたなら、自身の経験に則ってテレビドラマ向けに改変したのかな? でも、知らないなんてことがあるだろうか、なんて思っていたんだけど、ドラマや映画などへのメディア化の経験がある漫画家の方々が、異口同音にいかにひどい扱いをされたか、といったことをSNSに投稿されていたのを読んで、提示された条件を知らなかった可能性もゼロではないのかもしれないし、何か違うふうに聞かされていたという可能性も否定できないな、と思ってしまった。脚本家の方のSNSへの投稿は、芦原先生が提示した条件を受け入れていたようにはとても見えなかったし。お二人は直接会ったりはされていなかったようなので、間に入ったテレビ局や出版社がどちらにもちゃんと伝えていなかったのかも……。
今回のことをそのまま音楽業界に当てはめるのは難しいけど、自身が作ったものを改変されてしまう、ということはよくあることかもしれない。歌詞を変えられてしまったとか、売れるためにこの曲をやれと言われたとか。そして、それに納得がいかず、レコード会社を変えたり、インディーズからリリースしたり、といった例はたくさんある。なかには、そうやって口出しされることに耐えられず、音楽活動を止めてしまったアーティストもいる。それはつまり、自分自身の表現がそれくらい大切だってことなんだけど、それがわからないのかな。
俺は自分の曲や原稿が二次使用されたという経験はないけど、某掲示板で音楽総研の記事が勝手に引用されているのを見て嫌な気分になったことがあるし、書いた文章を変えられたりすると、自分自身が否定されているような気分になってしまう。歌詞やメロディ、アレンジなんかを変えられるのも同じ。自作曲を勝手に変えられて揉めたことは何度かあります。芦原先生が、敢えてセオリーを外して描いた展開を王道の展開に変えられたと書いていたけど、これは音楽でもよくあること。王道でないことは百も承知でセオリーを外しているのに、ベタベタな展開にされたのでは堪らない。奇をてらったわけではなく、いちばん大切なことを表現するために必要だったりするからなのにね。
一言たりとも、一音たりとも、無駄な言葉も、無駄な音もない。どれだけの想いを込めて作ったと思っているんだ。作曲の途中ならば、提案してくれるのはかまわないし、いいと思ったものは採用します。迷っているところがあれば、何かいいアイディアない? って聞いたりもするしね。でも、完成したものを頼みもしないのに勝手に変えられると……、怒る前に困惑してしまう。なんでそんなことが出来るのかと。経験が少なくて、こちらの意図や気持ちが伝わっていないのであれば丁寧に説明するし、わかってもらえることが多いけど、そうじゃない人は本当に意味がわからない。そんな人とは仕事したくないし、バンドなんか絶対にやれない。
もしも俺が人の曲にアレンジを加えたいと思ったら、必ず作者に確認するし、不採用ならやらないよ。それは自分のバンドのメンバーの曲に対してだって同じ。必ず確認します。バックバンドや他のアーティストのレコーディングに参加する時なんて、とくにそうだよ。好きなように弾いてくれ、とでも言われない限りは、相手が望むように弾く。これ、当たり前じゃないのかな……。
芦原先生が受けた心痛とは比べようもないレベルだと思いますが、俺も自分の表現にはこだわりがあって、それをないがしろにされたら、とても辛いです。その辛さや悔しさは絶対に忘れられない。漫画家やミュージシャンに限らず、何か物を作る人たちは、誰もが心を込めて作品を作っているはずだし、それぞれのこだわりがあって、きっと他人が想像する以上に、自身の作品を大切に思っています。それを踏みにじるようなことは絶対にしないでほしい。アーティストだから大事にしろとか、アーティストが偉いとか言っているんじゃない。人として、誠意を持って対応してほしい。こんなに悲しいことが、二度と起きないように。
芦原先生のご冥福をお祈りします……。
※ikkieのバンド、Antlionのシングルがリリースされました!
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