インタビュー/記者会見

『デジタル・ゼラチンシルバーモノクロームプリント』
デジタルカメラから銀塩写真の世界を表現!
写真家・永嶋勝美インタビュー

DGSM01.jpg 現在、東京都港区にある『ギャラリー EM 西麻布』で開催中の『DGSM Print「7人の写真家」展――「銀塩とデジタルの融合」21世紀の新たな銀塩モノクロ・オリジナルプリントの世界』と題して、ジャンルの異なる7名の写真家がデジタルデータから『デジタル・ゼラチンシルバーモノクロームプリント(DGSM Print)』にて銀塩バライタ印画紙を使用、そして作り上げた高品位な銀塩モノクロ・オリジナルプリントの展示が行なわれている。そのDGSM Printの魅力について写真家・永嶋勝美氏に話を聞いた。

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★始まりは、今のシステムを作ろうというわけではなかった

フィルムで撮影したものをスキャニングし、パソコン上で合成等後処理をしたデータをまたポジにして印刷原稿に使用していた時代に、なにか新しい表現は出来ないかということでOHPフィルムで出力したものを合成などしてプリントしていました。
今の形に近くなったのは、デジタルカメラが進化して、プロの間でデジタルカメラで撮影することが主流になり、エプソンから「PX5500」という3色で黒を出すプリンタが発売されたときですね。もしかしたら連続階調の綺麗なネガが作れるのではないかと思いました。
デジタルデータをパソコン上でネガに適した画像に処理をして、それをOHPフィルムに出力して使用していました。当初は、透明なものから吸着層のあるものや乳白色のものなど、いろいろなOHPフィルムでテストをしました。写真のクォリティーとしては、今の8割くらいの仕上がりでしたね。
当然、フィルムで撮影しプリントしたものと比べるとまだまだでしたので、いろいろと試行錯誤して今のワークフローの形に改良していきました。そして、銀塩の2号相当の印画紙にそのままストレートに焼けるネガが出来るようなワークフローに行き着きました。
 

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★今の30代40代、そして、これから写真の世界に入って来る人たちに銀塩モノクロプリントを残したい

多分、私が作家活動を続けている間に銀塩モノクロプリントがなくなることはないと思います。しかし、これから写真の世界に入って来る若い人たちの世界で、それがなくなっていれば、銀塩モノクロプリントの文化がそこで途絶えてしまう。まだ、150年の歴史しかない銀塩モノクロ写真の文化がなくなってしまうのは、やっぱり惜しい。

 

★どうやったら誰でも手軽に銀塩のプリントを作ることが出来るのか?

デジタルカメラで撮影したカラーデータをパソコン上で画像処理をしモノクロに変換・反転、そして私が開発したDGSM Print 専用ICC プロファイルを使ってインクジェットプリンタでOHPフィルムに出力して原寸のネガを作ります。出来たネガを暗室で密着焼き付けします。いわゆるベタ焼きですね。現像、停止、定着、水洗とこれまで同様のアナログな方法です。現像をしたことがある人は、初めて現像した時、焼き付けた印画紙を現像液の中に入れて、セーフティーライトの明かりだけの暗室の中で像が浮かんでくる瞬間に感動されたのではないでしょうか? それを体感し写真の虜になってしまう人がいますね。そういう文化を残していきたい。プロセスを楽しむことも写真を楽しむことですから。

 

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★銀塩モノクロプリントをとりまくすべての商品、文化を残していきたい

今、デジタルカメラで撮影されている方のなかで、モノクロが好きな方。インクジェットプリンタで出力することが王道だとは思いますが、その中で写真の持つ魅力を感じで印画紙を使って出力したいと思う方。
今は、ほとんどすべての人がデジタルカメラで撮影する時代。その中の1万人にひとりの方がモノクロに興味を持ち、その中の一部の人が銀塩プリントに興味を持っていただけたら……。
そうすることで、銀塩プリントに関わる商品や道具が普及することで、使う方が増えれば商品も残る。銀塩モノクロプリントをとりまくすべての商品、文化を残していきたい。
モノクロ写真が好きな人は美術館やギャラリーにモノクロ写真を観に行っているんですよ。カラーの写真展よりモノクロの写真展を見る人が多いんですよ。
そういった人がインクジェットで出力した作品に満足しているかというとそうではない。しかし、今はもう銀塩でプリントすることは出来ないと思っている人も多いんです。フィルムカメラを買って撮影しないと出来ないとか、フィルムの現像はどうしようかとか……。

 

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★デジタル・ゼラチンシルバーモノクロムプリントの魅力

今、発売されているフィルムでDGSM Print 専用ICC プロファイルに対応しているのは『ピクトリコプロ・デジタルネガフィルムTPS100』という製品で、対応しているプリンタは「EPSON MAXART PX-5600、PX-5V」「CANON PIXUS iP4700、iP4930」です。(現在、ピクトリコよりDGSM Print 専用ICC プロファイルは誰でも無料でダウンロード出来ます)今後、その他のフィルムやプリンターにも出来るだけ対応していきたいと思っています。
このプロファイルを通してワークフローで作っているネガというのは2号の印画紙のネガになります。良い写真というのは必ず2号の印画紙でストレートに焼けるもの。そこから手を加えて焼き込んだり覆ったり、印画紙のコントラストを変えて硬くしたり柔らかくしたりします。標準のネガが出来ればそこから変化させることはいくらでもできます。面白いのが、パソコン上でコントラストを付けて3〜4号相当の画像を作り出力し、それが2号の印画紙で焼けるわけです。3〜4号のコントラストのある写真が2号の階調のなめらかさなのです。これはアナログでは表現できないでしょう。
また、フィルムの場合は銘柄によって階調とコントラストが違います。フィルムのタイプもパンクロマチック、オルソクロマチック、インフラレッド等いろいろあります。いわゆる感光特性ですね。

※パンクロマティックフィルム=可視光線のすべてを記録する
※オルソクロマチック=可視光線のうち590ナノメートル未満の波長を持つ光線を記録する(赤からオレンジ700→黄←600→緑から青500→紫400)
※インフラレッド=赤外線

デジタルでは、自由に元の画像が調整でき、カラーデータをRGBの調整レイヤーを使ってコントロールします。例えば、画面の中で赤を明るくすれば、モノクロにした場合、赤の部分が白っぽくなります。これは、オルソタイプの感光特性になりますね。
また、35mmのロールフィルムだと、一本の中に違うタイプの写真があっても同じ条件で現像されてしまう。デジタルなら一枚一枚調整が可能で、何度でも調整をして思いどおりのネガが作れることも魅力です。

 

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★人によって好みの違う、ディテールのある黒と白

写真の中の黒のトーンは人それぞれ好みが違います。
現在、開催中の『DGSM Print「7 人の写真家」展』でも、7人ともそれぞれ自分のトーンというものがあり、今回は私がネガからプリントまで制作をしましたが、大坂寛さんの場合は、ディープシャドーからハイライトまですべてにディテールがある柔らかめのネガを作りました。みなさんそれぞれに好みのトーンがありますので、何度もチェックしながら仕上げていきました。
ネガ(デジタル)上で好みのトーンに仕上げていったので、今回の現像処理はみなさん同じ条件でした。現像液はコダック・デクトールで温度は20度〜20.3度の間で3分ぴったりで現像しました。現像方法が同じでも今回のようなトーンも調子も違うプリントができます。

 

★銀塩モノクロプリントで不可能が可能になった

大きな8×10で撮影し、それをベタ焼きで作品としている人は、ほとんど粒子がわからないでしょうけど、今までのモノクロプリントは引き延ばし機で拡大され、そうすると粒子が見えてきます。このDGSM Printはデジタルカメラで撮影し、インクジェットで出力するため粒子がないんです。今のインクジェットはインクとインクが重なり4色プラス補完する薄いインクがあるので階調豊かな滑らかなトーンが得られます。最後にベタ焼きで印画紙にプリントするのでその時点で初めて粒子が生まれます。印画紙の粒子なので肉眼ではわからないでしょう。
 

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★銀塩モノクロプリントのディテールのある黒と白

インクジェットプリントでは100%の完全な黒でないと黒に見えない。また、ハイライトの白は紙のベースの色でないと白く見えない。
銀塩プリントの場合は最高濃度の黒にしてしまうとフラットな感じになってしまう。どこまで明るく黒にできるか? ディテールのある黒、それが深味になります。黒の粒子の集まりに大小がありその変化がディテールになります。濃度的には95%前後の黒。我々の表現で言うと「闇の黒」ではなく「色の黒」。インクジェットで95%前後の黒は、ねむくなってしまう。このディテールのある黒がインクジェットプリンタの課題ですね。そして、ハイライトの白は印画紙のベースの色より濃いグレーにします。デジタルで256で表現するところの240くらいですね。意外と良いプリントのものほどハイライトがグレーなんです。


今月、29日(水)まで、ギャラリー EM 西麻布にて『DGSM Print「7人の写真家」展』が開催されています。みなさんぜひ、会場でこの世界を体感してみてはいかが?

(撮影/中村うらら)

 

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プロフィール
永嶋勝美(Katsumi Nagashima)
1953年生まれ 東京都出身
デザイナー・アートディレクターを経て1980年写真家に転向、ファッション・静物を主とした広告写真を手がける。89年より一時期をパリで過ごし、帰国後は作家活動に専念し、デジタルフォトも本格的に始める。仏トネル市よりメダル授与、他受賞歴多数。90年代に多くのモノクロ技法と関わり2008年よりDGSM Printの開発を開始、現在はテクニカルアドバイザーとしても活躍中。




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『DGSM Print「7人の写真家」展』
「銀塩とデジタルの融合」21世紀の新たな銀塩モノクロ・オリジナルプリントの世界
Fine art、Conceptual art、Imaged scenery、Still Life、Documentary、Snapshot、Fashion portrait ジャンルの異なる7名の写真家がデジタルデータから「デジタル・ゼラチンシルバーモノクロームプリント(DGSM Print)」で銀塩バライタ印画紙を使用して作り上げた高品位な銀塩モノクロ・オリジナルプリント。
21世紀の新たな白黒写真制作方法「銀塩とデジタルの融合」で表現された世界をご覧下さい。
大坂 寛:Fine art
桑島秀樹:Conceptual art
鈴木英雄:Imaged scenery
高井哲朗:Still Life
永嶋勝美:Documentary snapshot
ハービー・山口:Documentary people
レスリー・キー:Fashion portrait
会場:ギャラリー EM 西麻布
期間:2012年2月1日(水)〜2月29日(水)
時間:12:00〜18:00 (日・月曜日休館、入場無料)
住所:〒106-0031東京都港区西麻布4-17-10
電話:03-3407-5075
主催:KN-PHOTO
協賛:株式会社ピクトリコ
協力:富士フィルム株式会社
エプソン販売株式会社
Röentgenwerke AG
 












エンタメ インタビュー/記者会見   記:  2012 / 02 / 17

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