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インタビュー/記者会見
映画『カメラを止めるな!』
上田慎一郎監督にインタビュー!
「ドキュメンタリーが入っている二度と撮れない作品」
監督&俳優養成スクール・ENBUゼミナールのシネマプロジェクト第7弾作品。短編映画で各地の映画祭を騒がせた上田慎一郎監督待望の長編は、オーディションで選ばれた無名の俳優達と共に創られた渾身の一作。
脚本は、数か月に渡るリハーサルを経て、俳優たちに当て書きで執筆。他に類を見ない構造と緻密な脚本、37分に渡るワンカット・ゾンビサバイバルをはじめ、挑戦に満ちた野心作となっている。
2017年11月に初お披露目となった6日間限定の先行上映では、たちまち口コミが拡がり、レイトショーにも関わらず連日午前中にチケットがソールドアウト。最終日には長蛇の列ができ、オープンから5分で札止めとなる異常事態となった。
その後、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018」でゆうばりファンタランド大賞(観客賞)を受賞。インターナショナル・プレミアとなった「ウディネ・ファーイースト映画祭(イタリア)」では上映後5分間に渡るスタンディングオベーションが巻き起こり、アジア各国の錚々たるコンペ作全55作の中でシルバー・マルベリー(観客賞2位)を受賞。
そんな超話題作がついに6月23日(土)より、新宿・K's cinema、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開開始となる。
今回はその監督・脚本を務めた上田慎一郎監督に映画監督を目指したきっかけから、映画『カメラを止めるな!』について話を聞いた。
■ストーリー
とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。本物を求める監督は中々OKを出さずテイクは42テイクに達する。そんな中、撮影隊に 本物のゾンビが襲いかかる!大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。 “37分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイブムービー!”……を撮ったヤツらの話。
尾崎:中学時代から自主映画を制作していたと伺いましたが、映画製作を始めたきっかけは?
上田:小さいころから物語を作ることが好きで、ヒーローもののオモチャを戦わせて自分でストーリーを作って遊んでいたことが最初のきっかけだったと思います。中学生の時、国語の授業で演劇をやることになり、最初の予定は桃太郎のような既存の物語だったんですが、「オリジナルがやりたい!」と先生にお願いして、僕が脚本を書いてそれを授業で上演しました。その授業の舞台が好評で先生からの推薦もあって全校生徒の前で披露することになりました。「三人と一体」という作品で、それが処女作になるのかなと。映画に限らず物語を作ることが好きでした。その後、友人のお父さんがたくさんの映画のビデオを持っていたので、それを借りて観ている内に映画が大好きになっていきました。
尾崎:それから自主映画を制作するように?
上田:映画を撮り始めるきっかけですが、実は僕がとある事件に巻き込まれまして……、結果、賠償金ということになるのでしょうか?お金を受け取ることになって、父から「何か欲しいもんあるか?」と。その時にビデオカメラを買ってもらいました。それから放課後、毎日のように撮影をしました。内容は、追いかけっこをしたり、オモチャの銃で撃ち合ったり、そんなたわい無いものでしたが、悪友たちと共にたくさんの作品を撮りました。それが、最初の自主映画製作なのかな。
尾崎:その後はいかがでしたか?
上田:高校時代の文化祭の出しものとして、他のクラスはたこ焼き屋さんとかお化け屋敷とかをやる中、自分たちのクラスは映画を作りました。僕の監督・脚本で高校1年の時に「LONGEST」という短編映画を作って上映したんです。クラスのマドンナが転校することになり、みんながザワザワする様子を当時好きだった「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ(98年 監督:ガイ・リッチー)」という映画のノリで、それを群像劇にして、不良の抗争みたいなのも交えて…という内容の作品でした。その作品が本格的に映画を作った最初ですね。それから毎年、文化祭では映画を作り、3年連続最優秀出しもの賞をいただきました。高校2年の時に演劇部の顧問の先生からスカウトをされて、演劇部に入り舞台もやりました。作・演出・主演でした(笑)。その作品で演劇の大会で近畿2位になり、京都造形大学で特別公演として上演もさせていただきました。
その時の映画づくりから、今回の『カメラを止めるな!』を含めて、今もずっとそうなんですが、監督として皆に指示を出すというよりは、みんなで一緒に作るという感覚です。今回もワークショップから俳優たちに当て書きで作った作品なので、クラスメイトに当て書きをして書いていた学生のころと変わってないですね(笑)。
尾崎:2010年に映画製作団体PANPOKOPINA(パンポコピーナ)を結成されますが……。
上田:高校時代に演劇部で結果を残したこともあって、大学からのオファーもありましたが「俺はハリウッドに行くぞ!」と全部蹴って大阪にある英語の専門学校にいきました。ハリウッドに行くには英語が話せないと、と思い。でもその学校が馴染めずにすぐに辞めて、大阪からヒッチハイクをして上京しました。20歳のころでした。それから5年ほど映画を撮ることもなくフラフラしていました(笑)。それはそれはひどい生活でした。詐欺にあって数百万の借金を抱えることが何度か。代々木公園でホームレスをしていた時期もありました。25歳になった時にふと「俺はなにをするために東京に来たんだ?」と自問自答したんです。その時にちゃんと映画を撮ろうと決意を新たにしました。当時シネマプランナーというサイトで募集していた自主映画団体に入って、そこで映画について学びました。それから約3ヶ月後に自分の映画製作団体PANPOKOPINAを立ち上げ、最初に長編映画「お米とおっぱい。(2011年)」を作りました。その後、団体の仲間から監督を選んで、自分がプロデューサをしたりもしました。自分の監督作を含めて、年間2〜3本、合計10数本の短中編の映画をつくり、ありがたいことに映画祭などで多くの賞を頂くことができました。
尾崎:PANPOKOPINAでの短編映画製作でのエピソードは?
上田:初期のころから現在の妻が参加してくれていて、彼女はアニメーションも作るんですが、昨年「こんぷれっくす×コンプレックス(17年 監督:ふくだみゆき)」という作品で毎日映画コンクールでアニメーション映画賞をいただきました。一昨年は「君の名は。(16年 監督:新海誠)」が獲った賞で、完全自主で製作された作品が受賞するのは史上初です。それまで発表の場は主に映画祭でしたが、この作品が初めての劇場公開作品になりました。妻が監督をする時は僕がプロデューサーや編集を担当しています。ちなみに本作『カメラを止めるな!』のタイトルロゴや宣伝ビュジュアルは彼女が手がけています。
尾崎:監督&俳優養成スクール・ENBUゼミナールのシネマプロジェクトとは?
上田:若手監督と新人俳優がワークショップを経て一本の映画を製作をする企画です。今回が第7弾となり、これまでに14本作られています。監督によるオーディションで選抜された俳優でワークショップを行い、当て書きで脚本を書いて映画を作ります。完成後、都内の劇場でイベント上映され、今回のようにその後、劇場公開される作品もあります。(今泉力哉監督の『サッドティー(13年)』『退屈な日々にさようならを(16年)』、岡太地監督『川越街道(16年)』など)。僕はENBUゼミナールの卒業生ではないんですけど、監督としてオファーを頂き、このプロジェクトに参加させて頂ける事になりました。
尾崎:今回のこの作品のオーディションはいかがでしたか?
上田:オーディションで選ばれた24人のメンバーを2人の監督で相談して12人づつに分けます。その12人でワークショップを行なって各メンバーの個性に触れ、「このメンバーならやれる」と決意し、以前から自分の中にあった『カメラを止めるな!』の企画を進めることにしました。
尾崎:37分に渡るワンカット・ゾンビサバイバルということですが……。
上田:本作はとある小劇団の舞台にインスパイアされて思いついた作品です。最初にB級殺人サスペンスがあり、その後にその舞台裏のドタバタ劇に繋がるといった作品でした。映画に置き換えるにあたって、ワンカットの中で動き回るカメラワークやゾンビだったり、映画的な要素を盛り込むことにしました。ワンカットの中で、噛まれた人がカメラに写らない所でゾンビメイクを短時間でしたりとか……。そういった手作りな感じが好きなんです。最終的に、インスパイアを受けた舞台作品から基本的な構造以外は全て変わり、全く別の作品へと生まれ変わりました。
尾崎:ワンカットというシチュエーションは面白かったです。作品の中で、あれ?っと思うシーンが何ヶ所か出て来ますが、それが全て伏線になっていましたね。
上田:自分が映画製作をしていることもあり、映画業界の裏側?的な要素も盛り込んでいます。
尾崎:そういうことってあるよねって、試写室では笑いがたくさん起きていましたね。
上田:全体で3部構成になっていて、脚本は練りこんで書きましたが、ただ良く出来たウエルメードな映画にしちゃダメだと思っていて、完成した映画では僕が計算して書いたトラブルと、本当に起きたトラブルが混在しているんです。最初のワンカットの部分では、芝居の安定した俳優を配置していますが、その中に一人、芝居が不安定な俳優を入れました。毎テイク、間も違って僕のコントロールが利かないんです。彼がいることによって他の皆の芝居が新鮮になり、予想外のリアクションも現れます。カメラのレンズに血しぶきがかかるシーンは予想外のガチトラブルでした。カメラマンの後ろを僕が一緒に走っているんですけど、カメラマンにレンズ拭こうって目で合図しながら撮影を続けました(笑)。綿密に書いたフィクションなんですけど、僕たちのガチの戦いの記録であるといったドキュメンタリー要素も入っているから映画に熱量がこもったんだと思っています。ワンカット部分は6回撮影しました。1回の撮影で全員血だらけになるので(笑)、1日に2〜3回の撮影が限度でした。最後まで撮影できたのが4テイクでその中から1番良いテイクを選びました。
尾崎:映画の中の監督と本当の監督、映画の中のカメラマンと本当のカメラマンと色んな想像が出来ますよね。
上田:こういった複雑な構造の作品なので、台本の段階では、混乱しているキャストもスタッフもいました(笑)。何度練習しても一度も成功できなくて、本番で初めて成功したシーンもありました。もうそことかは演技どころではなくなってましたね。そういったドキュメンタリーが多分に入っている二度と撮れない作品だと思います。
尾崎:ゾンビ映画ですが、家族愛も感じられました。
上田:短編映画を作る時から、作品が自分の人生とリンクしているところがあって、結婚する前は女性を“しずかちゃん”みたいな男の浅はかな理想で描いていたんですが(笑)、結婚してから女性の描き方が変わりました。最近、子供が生まれたんです。劇中で泣いている赤ちゃんは実際に僕の子供なんですけど、親子の関係みたいなものは、自分の人生と重ねて書いたのかもしれません。とにかく楽しんでもらいたい、笑ってもらいたいと作った作品で、泣く人はいないと思っていたんですが、泣いた!って言ってくださる方が結構いて。物語上のドラマだけでなく、作品そのものから滲みでるモノ作りや映画愛を感じて泣いたって方も沢山いらっしゃって。それには驚きました。
尾崎:最後にメッセージをお願いします。
上田:ゾンビやホラーといったワードを見て、ちょっとそういう作品は苦手でって方もいらっしゃると思いますが、ファミリーやカップルにもおすすめな、どなたでも楽しんでいただけるエンターテインメント作品です。ダマされたと思って観に来ていただいて、そしてぜひ、別の意味でダマされてください(笑)。
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監督・脚本・編集:上田慎一郎
出演:濱津隆之 真魚 しゅはまはるみ 長屋和彰 細井学 市原洋 山崎俊太郎 大沢真一郎 竹原芳子 浅森咲希奈 吉田美紀 合田純奈 秋山ゆずき
撮影:曽根剛|録音:古茂田耕吉|助監督:中泉裕矢|特殊造形・メイク:下畑和秀|ヘアメイク:平林純子|制作:吉田幸之助|主題歌・メインテーマ:鈴木伸宏&伊藤翔磨|音楽:永井カイル|アソシエイトプロデューサー:児玉健太郎 牟田浩二|プロデューサー:市橋浩治
配給:ENBUゼミナール
公式HP:http://kametome.net/
公開:2018年6月23日(土)より新宿K’s cinema、池袋シネマ・ロサにて公開!
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エンタメ : インタビュー/記者会見 記:尾崎 康元(asobist編集部) 2018 / 06 / 04