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アラカン編集長モンブランを行く!
再準備-2:初登山・八ヶ岳/硫黄岳から横岳へ
2009 / 09 / 03
寒さでかじかんだ手でコンビニのオイナリさんを食べ、耐え切れず硫黄岳山荘の中へ潜り込んで、ストーブを背にしてコーヒーをすすっていたら、見る間に50分が経過。慌てて横岳へ向けて出発した。8:50
薄手のダウンをレインの上着に着替えてフードをかぶり、紐を絞って頭や耳に風があたらないようにして歩き出す。さらに薄手のフリース地の手袋もしたが、それでもやりきれないほど寒い。
台座の頭まではゆるゆるとアップダウン。もう少しちゃんちゃん歩けそうなものなのだが、なにせ風が強くて、思うようにスピードが出ない。
昨年の7月に来た時は、ウルップソウをはじめタカネシオガマ、チョウノスケソウ、オヤマノエンドウ、ツガザクラなどなど目を見張るばかりの高山植物の草花が咲き乱れて、さながらお花畑だった。
山の秋の訪れは早い。秋の訪れは駆け足でやってくる厳しい冬の前のほんの隙間風のようなもの。逝く季節を惜しむ暇もない。
それでも、その隙間風に身を任せて花をつける、ミヤマコゴメグサ、トウヤクリンドウ、タカネヒゴダイなど数種の草花が強風に花を揺らしている。
草花を撮るのは帰路にして、先を急ぐ。台座の頭を過ぎると間もなくクサリ場。冷たい強風を突いて岩を攀じるのは相当にスリル満点。肝を冷やす。
視野を確保するためにはフードを外し、岩を確実につかむためにはグローブも外す。
緊張で不思議と寒さを忘れる。
横岳・大権現2829m着9:55。コースタイムよりわずかに遅れる。
狭い頂に数パーティー。赤岳方面からも縦走者がたどり着く。風が幾分やわらいできたせいか皆、休憩態勢。しばし眺望を楽しむ。
もう赤岳がすぐ。展望荘も豆粒のように見える。
「なんか、ちゃらっと行けちゃいそうだね」
このまま縦走したい衝動にかられる。
「9月の連休、八ヶ岳にこもって、あっちこっち歩き回るってのもいいね~」
本日おろしたてのパイネのレインウェアを着て、赤岳をバックに1枚。石井スポーツの店長・越谷さん、たってのお薦めの第三世代繊維素材の優れもの、ゴアテックスを凌ぐ性能を誇るとか。
お値段だけが珠にキズなんだが、ま、死ぬまで使うと思えば、いいものに越したことはない。パンツサイドがフルオープンで申し分ない。
確か権現岳へ登る途中だった。
編笠山を経由したのだが、途中でザーッときた。慌ててレインを引っ張り出した。
たださえ自慢じゃないが「動作緩慢」なところへもってきて、パンツがフルオープンでなかったので、登山靴のままではどうにも着用ができない。仕方なく一旦靴を脱いでなどマゴマゴしている間に、すっかり身体が濡れてしまった。
夏場だったので、ほどなく乾いてはくれたが、寒い時期なら、とたんに身体が冷えてしまう。
わずかなことで低体温症に陥ることだってあるのだ。
くわばら~
1万、2万の差で命拾いするなら決して高くはない、よね!きっと。
左袖に半透明の円形窓が張ってあり、袖をまくらなくても時計が見られるなど、小細工も施してある。ドシャブリで強風だの雪山で雨だの極限状態で威力を発揮してくれることだろう。
蛍光っぽいまっ黄緑でなんだかちょい、コッパズカシイが、いつも黒だのグレーだのばかり着ていて再三注意されていたりする。驟雨や吹雪で視界が2m足らずなどという状況下では、黒っぽいものが真っ先に視認できなくなるからだ。
遠くに富士山が見える。美しくも神々しい姿だ。
連なる山並みのそのまた雲海の上に誇り高く頭を天に向けて優雅に遙かを見渡している。眺めていると自然と頭が下がり、手を合わせたくなる。
ちょうどこの日の昼過ぎに集合して、翌24日の早朝富士登頂を試みる知人らがいる。心中、つつがない登山を祈った。
「来年は必ず富士登山しよう」
5月17日にボルダリングをしていて4mほどから転落。第2腰椎を骨折してしまった。
それがなければ、今年の6月初旬に富士山行のはずだった。7月のモンブラン・フランス登山を見すえての高度順応登山。帰国して真っ先の登山も富士山の予定だった。いわば凱旋登山。今日明日富士登山を試みている知り合いらと一緒に登るはずだった。返す返すも残念でならない。富士登山もモンブランも。
「来年は必ず登れますように」
密かにそう祈らずにはいられなかった。
ふと谷間を見ろしたら、大同心に取り付いているクライマーが見えた。2人パーティー。取り付き口は反対側だが、すでにノコギリの左端まで達していて、見え隠れしながら頂へ攀じっていっている。思わず見守ってしまう。
「おッ、ついにやったね!」
青いウェアのリードクライマーが頂にたどり着いた。
大同心は、アブミなどを使った人工登攀が必要な難度の高いクライミングスポットと聞いている。もちろん、まだ攀じったことはない。
昨年は技術・体力ともに「まだ、無理」と言われた。今年は夏の間中、怪我の治療とリハビリに明け暮れ、バリエーションには全く参加できなかった。
後遺症もなく、こうして夏の終わりに八ヶ岳登山ができているだけでもっけの幸い、命があるだけで丸儲けなんだが、それを重々承知していてもなお、「無念の想い止まず」は正直な気持ちなんである。
青いクライマーに次いで、赤いウェアのクライマーが上がってくる。
いいな~
来年はきっと、まっ黄緑の『クライマー』があの頂を目指ざしているはずである。
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連載 : アラカン編集長モンブランを行く! 記:小玉 徹子