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アラカン編集長モンブランを行く!
マッターホルンあとさき-1
2010 / 10 / 12
ヘルッリヒュッテのバカヤロウ!
2010年8月26日
マッターホルン登頂の拠点・ヘルンリヒュッテ。
山から降りてきたクライマーは、たとえ半ば装備を解いていたとしても一目でそれとわかる。顔の輪郭に覚めやらない緊張感が漂っている。サミットに最も近い小屋で一晩を過ごすためにやってきた「ハイカー」とは全く異なったエーテルを身体から放散している。
ツェルマットからシュワルツゼー2583mまではゴンドラで、そこからヘルンリヒュッテ3260mまで道すがら、たとえようもない悲しみと当所のない怒りが渦巻いて張り裂けようかという胸をなんとかなだめながら歩いて登ってきて、クライマーたちを目の当たりにすると、あらためて彼らの少し白っぽく乾燥している唇に猛烈に嫉妬した。気がついたら、奥歯を噛みしめるあまりアゴが痛くなった。
小屋から少しばかり行くと山頂への取り付きが、切り立った岩壁面に太いロープ下がっているので、すぐにそれとわかる。
「いいからロープに下がれば、再来を誓う気になるから」
本郷さんは言ったが、4、5mロープをよじ登ったところで思わず叫んだ。
「バカヤロウ!2度と来ねーや!!」
悪態をついてなおのこと哀しくなった。
誰のせいでもないからね~
取り付きの太いロープをよじ登りきり、さらに先を行きサミットを目指す。そのためにこそスイス・ツェルマットにやってきた。にもかかわらず、通過しなければならない、外してはならないポイントを踏み外してしまった者はロープに触れて4、5mよじ登るところまでしか許されていない。
思わず涙がこぼれた。
前日のブライトホルン4164mのテスト山行で押された「不合格」の烙印。火ぶくれが破れカサブタが取れても、ヒリヒリした痛みはとうてい消えやらない。
なんだか「山へ登ろうとすること」さえ山そのものに拒絶されたようで、まるで愛情欠損の幼子のように拗ねてしまった心根は少なくとも当分、どんな「山も映そうとはしない。どんなに時間が経過しても傷が癒えて、再び山に向かって窓が開かれるとは、とても思えなかった。
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連載 : アラカン編集長モンブランを行く! 記:小玉 徹子