編集長!今日はどちらへ?

ヨーロッパクライミングツアー2016夏-6
ドライチンネ-II-

2016 / 10 / 05

datin161005_01.jpg登頂者記録に名前を書いたら、さて下山だ。
15ピッチ、標高差350mを登ってきたからには降りなければならない。これはまた、緊張が解けないメンタルもしんどい下降が続く。

datin161005_02.jpgすごい画像だ。下方で地獄の釜の蓋がポッカリ空いている。そこへ向かって降りていくのだ。時折カーン、ガラガラ、コーンと乾いた音が谷にこだまする。落石だ。もろい岩肌から剥げ落ちた岩が連鎖を引き起こす、嫌な音。

datin161005_03.jpg何度目かのラッペルでビレイ点に達すると、なにやらイタリア人女性クライマーが苦心惨憺。
聞けば彼女は地元ガイドらしいが、先行して下方のクライエントが懸垂下降していてビレイ点を見過ごしてしまったので、引き揚げ作業を余儀なくされているらしい。おまけにクライエントは落石を腕?手?に受けて負傷しているという。
そうと聞いて「じゃ、頑張ってね」と受け流して看過できる篠原ガイドではあろうはずもない。
彼女のクライエントを引き上げるべく力を貸すことになった。首尾よく宙吊りになったクライマーがビレイ点に戻れてよかった?!何度も礼を言った後で女性ガイドも降りていった。

10回目のラッペルを終えて恐ろしくガレた危うい斜面を下っていると、降り口に人影が見えた。近づいていくと、先ほど手助けした地元女性ガイドとクライエントらしかった。
ん?!

datin161005_04.jpgすぐそばまで近づいてみたら、やはりかの地元女性ガイドとクライエント。そしてどうやら女性ガイドはビレイ点を探しているらしかった。
「クライムダウンするには危険すぎる!」と言うのだ。
ガレたルンゼにはビレイ点にすべき何物も見つからない。それどころか、足元は下手に動こうものなら、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
女性ガイドは目の高さぐらいにある岩肌の小さな穴にスリングを通そうとしている。斜め下の、もう一つ穴と貫通しているというのだ。代わって篠原ガイドも試してみるがスリングが太いのでは?となった。私がカメラの落下防止に使っている細いスリングを外して、それで試してみるも通りそうもない。そうしているうちに時間だけが刻々と過ぎていく。

しばらくして篠原ガイドがハタッと閃いた。ちょっと背伸びして高い岩の隙間にカムを挿してビレー点をこしらえたのだ。「冷静になって考えたら、ビレイ点が必要なところなら、残置支点があるはずなんですよ」「気を付けてクライムダウンな個所だったんですよ、もともと」
後から篠原ガイドが言った。
「怪我してたから、それが無理だったんでしょう」と。
もちろん、彼女たちに先に降りてもらって、次に私が下りて、最後に篠原ガイドがカムを回収してクライムダウンする…はずだった。
彼らは確かに懸垂下降のスタイルはとった、しかし垂直には懸垂して降りずに、ロープをつかってクライムダウンする格好で降りたのだ。

降りてみて分かったが、ほんの短い懸垂だったが、岩に足がつかない空中懸垂だった。クライムダウンで降りた篠原ガイド曰く「大した難しいクライムダウンではなかった」と。
つまり…
手だか腕だかを負傷していたクライエントは空懸ができなかった。確保なしにクライムダウンすることも難しかった。そういう事らしかった。
懸垂して下を見たら、我々と同行だったイタリア人ガイドのローマンがしびれを切らしたように待っていた。
まずは遅くなったことを詫び、なぜ遅くなったかを説明した。ビレー点を見過ごして宙ぶらりんになっているクライマーを助けなければならなかったこと。最終下降箇所でビレー点を確保するのを手助けして、降ろしてあげたこと。
そうしたらローマンが言ったのだ。
「そうそう、あのクライマーは怪我をしていたからね」
「え?」

datin161005_05.jpg駐車場について、リコと挨拶をし、遅くなったことを詫び、互いに登頂を喜び合い、車に乗り込んだ。が、なんだかリコの表情が硬い…と感じた。
車の中でローマンが、リコに盛んに何かを話しかけていた。

その後別れ際にリコが篠原ガイドに何か話しかけていた。何を言っていたかよりNさんとKさんに「たくさん写真を撮ったからメールで送るから」と言った後、私の顔を見辛そうにしていたのが気になった。

あとで篠原ガイドから聞いた。あんまり待たされて少なからず快く思っていなかったが、ローマンから事情を聴いて「さっきはずいぶん待ったなど、失礼なことを言って済まなかった」と言ったんだとか。山頂に着いたのはわずか10分遅れだったにもかかわらず、少しも我々を待たず…つまりアプローチで遅かった私だから、待っても無駄だと思ったのだろう。だからローマンの撮った写真には1枚たりとも私はいなく、というような経緯だったのだ。

私は思った。
ローマンは行き惑っているクライマーたちがなぜ困っているのか知っていた。自分たちもクタイエントのクライミングを担っているからとはいえ、二人とも負傷したクライマーをそうと知っていて助けようとしなかった。それほど困ったいると思えなかったのかもしれない。
だが、もしも先行していたリコやローマンがきちんと状況把握をして助けていれば、私たちが遅れて、それを憮然と待つこともなかったのに。
なぜ篠原ガイドが助けなければならない羽目になったのか?ただ単に日本人はお人よしってことなんだろうか?
そうじゃないよね〜
「だって困ってましたもんね」「あのガイド、何とかしてほしいと必死だったから」
困っているクライマーを見て助けざるを得なかった篠原ガイドの判断は正しかった。
素敵じゃありません?!

色々あったが、ともかくも素晴らしいマルチピッチクライミングだった。きっとこの日のクライミングは色褪せることなく鮮やかに心に棲み続けることだろう。

「リストランテ5TORRI」の晩ご飯は格別旨かった。
コルチナビール、最高〜!!!

*画像はほとんど篠原ガイドの撮影です。











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