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編集長!今日はどちらへ?
2017 Sumer in Europe‐3‐ダンデジュアンIII
2017 / 08 / 09
2017年7月10日
停滞。
昨夜半から降り始めた雨は朝になっても微妙な感じで、1日様子を見てということになった。
終日、雨は降ったり止んだり、湿った空模様だった。シャモニーの観光センターの天気予報だと11日から天気は好転し始め、12日はまずまずだろうということだったので、11日に再びトリノ小屋に入り12日にダンデジュアンに登ることになった。
2017年7月11日
トリノ小屋入山。
ホテルで定時(07:30)に朝食を摂って出かける。
エギュードミディに上がるロープウエイ乗り場に行ったら、止まっていた。いつになるかわからない再開を待たず、バスでクールマイヨールまで行って、そこからエルブロンネに上がることにした。
小屋に着いて、夕食には時間があるのでお茶などするんだが、なぜか息苦しい。私だけかと思ったが、篠原ガイドも息苦しさを感じ、身体が重いという。
「予行演習の時は上から降りてきたけれど、今回下から上がってきているから違うんですよ」と。
3日前、9日の予行演習の時はシャモニー1036mからエギュードミディ3842 mへ上がり、昼食してからエルブロンネへ降りて小屋入りしたのだった。今回は1224mのクールマイヨールからいきなり3462mへ上がり、時間をおかずに小屋入りしてしまったのでごく軽度の高度障害が出ているのだった。
それではということでせめて少しでも高いところへ行ってみようというのでエルブロンネのロープウエイステーションに上がった。カフェでお茶してしゃべっていたら、スタッフに「小屋泊りか」と聞かれた。「もうクローズでドアが閉まるから小屋に降りろ」と。
小屋に戻って、息苦しさから解放されているのに気が付いた。
トリノ小屋の標高は3375mエルブロンネ展望台は3462m、わずか100m足らずの標高差でも体への影響は絶大だった。
これをお代わりしている外国人クライマーには心底、舌を巻く。
夕食後はさっさと寝る。とは思うんだが興奮してなかなか寝付けない。
ちゃんと歩けるかな〜
2017年7月12日
03:30起床。04:00朝食。喉を通らず。05:00出発。
なだらかに下り、なだらかに登り始めたころ、白々と明けてくる。美しい山の朝!
例のクレパス帯を無事渡ると、雪面の傾斜が強くなる。途端にスピードが落ちる。まだ取り付までには越えなければならない岩稜帯が続く。この岩稜帯がなかなかの曲者!段差が大きい岩場の連続。いちいち体力を消耗する。
岩稜帯を詰め雪稜を横切ろうとしたら、雪稜には暴風が逆巻いていた。歩みを進めようとして足を上げた途端に足ごと風にさらわれそうになって、慌てて耐風姿勢をとらなければならない。吹き付ける風は容赦なく体温を奪い、体中が震えてくる。指先も痛い!
「岩陰で着込めるものは着込んでいてください」
篠原ガイドが取り付き点の様子を見に行っている間に、若干風が弱まった感。取り付き点に回り込めば、さらに風が収まりを見せるとかで「行ってみますか?!」となった。
一旦は強風でクライミングは叶わないだろうと諦めたのだが、行けそうだとなると、なんだか行きたい気がしてくる。
「なんとか合格ですね」
とは言ってもらえたが小屋から取り付きまで、アベレジ3時間のところを4時間かかっていた。4時間以上かかるようなら「無条件敗退」と言い渡されていたから、首の皮1枚でギリギリセーフ!ある種、「しめしめ」な!!
が…そんなに甘くはなかった!
まず1ピッチ目、しょっぱなからフィックスロープを引かなければならない。直径5センチほどの太っといロープを、スタンスが全くない傾斜の強い壁に足を突っ張って、腕の力だけで体を上げなければならない。それでなくても岩稜帯で腕を使うだけ使ってきているから、キツイの何の。思いっきりメゲた。
1ピッチ目だけではなく、むしろいわゆる岩攀じりの方が稀で、大半のピッチがフィックスのルートだった。岩肌に沿って落ちている白い太いロープを見上げては絶望感に襲われた。
さらに風が少しの間も吹き止まない。寒くて体が硬直するから、ますます消耗する。何度「もう、ダメです!」と弱音を吐いたことか。
たんびに「山なめちゃ、ダメなんですよ」と叱咤が飛ぶ。
もうね、なんと言われようが、もうどうでもよかった。弱音を吐こうがなんだろうが、一旦とりついたが最後、後戻りはできない。行くしかないのだ。
神様仏様、これが行けた暁には何でも言う通りしますから、どうか後生です。行かせてください。ほんとにほんと、そんな心境だった。 もうこれ以上引けない!でも上がるしかない!!
段差のある個所では思わず雄叫びを上げる。そうすると何とか、もうないはずの力を振りしぼれた。
ダンデジュアンはその名:巨人の歯(牙)の通り実は相似峰。わずかに低い方の牙に攀じ登り、一旦コルに降りて、目の前にそそり立つ、もう片方の牙に登り着けば、そこが頂きなのだ。
そう思うと早、涙が出そうになってくる。
そして冒頭にも出したダンデジュアンの頂き。寒さで体の震えが止まらなくても、それがなんだ!
歯の根の合わないのを奥歯を噛みしめて我慢のカチンコチンの顔だが、たどり着いた安心感と、喜びがにじみ出ている。
*ほんと寒かったのよ。アイゼン、デポッた取り付点に戻って篠原ガイドからチョコボールをもらって口に放り込んだが、あんまり奥歯噛みしめてたもんだから、顎が動かせなくってチョコボールが噛めないのよ。
素晴らしい風景だ。山頂にたどり着いた時、空は青く晴れ渡り、アルプスの山並みがぐるりと見晴るかせた。
「登れてよかった」「おめでとうございます」
「ほんとうに、ありがとうございます!」篠原ガイドの手を握りながら鼻の奥が痛くなった。
登りもそうだったが、ところどころ真っ白い岩肌のところがある。そして岩肌の間に間に紫色をした水晶の結晶が露出している。そして所によっては結晶塊から外れた小さいのが道に転がってたりする。
きっと屑水晶なんだろうけど、何とか細工してもらって肌身離さずいたいと思う。つけたまんま棺桶に入ると決めた。
取り付きまで4時間、登攀に5時間余、降りで4時間余。行って帰って都合14時間かかった。普通の人で9時間、早い人で8時間が所要時間というから、体力、脚力のなさは推して知るべし。
スープの具とニンジンを少し食べたが、疲れ過ぎて食べられなかった。
でも…
ビールは飲んだ!めっちゃ、旨かった!!食後にウイスキーも飲んだ。格別!!!
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連載 : 編集長!今日はどちらへ? 記:小玉徹子