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<モノ持ち>
私は急にモノ持ちになった。そして頭と心もいっぱいになった。MMさんが旅立ってしまったのです。以前から、仕事ができなくなったらお道具をもらってくれる?と言ってたMMさん。お具合が良くなくてご連絡も差し控えていましたが、虫の知らせか秋の始め頃お電話したら、たった今手紙を投函しに行ってもらったところと言うではありませんか。翌日手元に来た手紙には作業机や機械類の寸法等々が記されていました。そして取りに伺う約束をした日の前日、旅立たれてしまいました。
お葬式ではなく屋形船で”楽しく”みんなで送り出す会をしました。本当は全快祝いのはずだった屋形船です。普段は仕事でミラノに離れて生活をしてらっしゃるご主人が素敵なお話をして下さいました。この1年半つきっきりで看病し、一緒に生活できて楽しかったこと。最後に”キミと一緒に生きられて素晴らしい人生だったよ!!!”と叫んだ時、目しか動かせない程だったMMさんがしっかり自分の顔を指差したこと。なんと素晴らしい人生、素敵なお二人なのでしょう。
そして今日、数々の愛用のお道具が私の所に来ました。それらはきちんと整理され、分類され手入れされています。彫金のお道具は数限りなくあり、ついつい増える一方。薬品や色々なもので汚れやすくなかなかきれいに保てません。あれだけのものを作り出すお道具はどんなのだろうかと、ドキドキして1つ1つの包みを開けました。背の高い専用の机には金属の削りカスを受ける引き出しがついていたり、薬品や、びっくりするほど使い込んだすり台と言われる木製の台、そして数々のヤスリ。どれもMMさんの心のこもった品々です。
しかしそれらは意外なほど普通なものの様な気がしました。やはりあの素晴らしい”透かし”を生み出すのは手なのですね。1つびっくりしたのは糸のこの刃です。何種類か入っていた内の一番細いもの。本当に糸の様であんなに細かいもので金属を切るとは!そうでなくても無理な力を加えて、次々と刃を折ってしまう私。あんなに細いものを扱えるでしょうか?姿勢を正しておヘソの前で真直ぐに、と言ってたなぁ。教えて頂きたいと思いつつ、ついにその夢はかなわずでしたが、時々のちょっとした一言、そして今手元に来た数々のお道具が道標となりたくさんのヒントをくれることでしょう。
具合の悪い中、最後まで毎日、30分、10分と座っていた作業机。それをしなければ1日でも長く生きられるのでは、と思うご主人に見守られ、好きなことをやり通したMMさん。お道具たちはこんな私のところにきて何を思うやら。MMさんの様には出来ないが、その気持ちを大切にして何か新しいものを送りだしたいと思う。
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