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＜豊かなもの＞

アクセサリーやジュエリーをつくる様になって20年以上経った。
この仕事をしていて、私は何に楽しさや喜びを感じるのだろうか。
“仕事” と言うには楽しい事が多過ぎる。
ありがたい事であり、申し訳ないくらいだが、どっちを向いても楽しい。
モチロン辛い事だって結構ある。
蒸し暑い時、寒い冬を思い浮かべてもがけどもなーんにもアイデアが浮かばず、ただ眠くなるだけ。目の前をどれだけの人が通り過ぎたか分からないほどだのに 誰一人お財布の紐が緩まない時、今日の1日は何だったのかと思う。どんな高価な素材でもお構い無しに手に入れて使えたらと夢を見る。
でもそれらを乗り越える喜びが沢山あり過ぎる。
素材を厳選し、本当に好きなものを手に帰る喜び。
考えても考えても思い浮かばない時でも、ある時ふと何かが繋がる様に形が湧き上がる。考え続けることは大切だ。
出来上がったものに半端ない満足を覚える瞬間がある。”満足をしたらおしまいだ” とか言われるが、私は甘いのだろうか。満足することは度々ある。出来上がったものをネコババしたくてウズウズ。自分で使うことが出来る というのも幸せなこと。
勿論、どなたかが身につけて下さることも大きな喜び。ずっと前につくったものを嬉しそうに付けてきて下さる姿には 喜びと励まし、ありがたさで心がいっぱいになる。

年明け早々は大分の帆足本家 富春館　でした
今回 2回目である富春館は、歴史あるつくり酒屋でした。今はもうお酒はつくっていませんが、その歴史は関ヶ原の戦い以前からと言うから驚きです。
建物群と呼びたくなる母屋、離れ、酒蔵、倉等々 いくつもの建物や庭は大分県の重要文化財です。
どっちを向いても、どこを見ても目を見張る全て。「城跡」のようではなく、よく管理され今も生きている富春館は強力で天真爛漫なリーダーの絶え間ない努力で今の形になりました。
こんな歴史ある重厚な空気は私には不似合いにも思えましたが、2回目を終わって今、また何か新しい化学変化が起きる気がしています。 素晴らしい空間も、全て手づくりの本格的なアフタヌーンティーも、知れば知るほど奥深い富春館という存在も 今の私とはかけ離れていますが、異なるもののミックスは新しいものが生まれる条件です。

今回のテーマはカラーに着目して、オレンジ色の美しいサルディニア コーラルとアリゾナのターコイズを多くお見せしました。新春ですので明るく行きたいと思ったのです。
ジュエリーをお見せする個展なのですが、支配人の提案で身につけることについて一緒に考え、話してみましょう、という会にしてみました。 “ジュエリーは人となりを表す” のだそうです。なるほどね〜。
私が思うジュエリーは装いのスパイスです。どんなスパイスを使うかで装いの舵取りをすることが出来ます。
そしてジュエリーは美術品、アートでもあるのです。(この事はvol.306の中で書いた通りです。)
そして この、 “私たちの胸元は小さな美術館” という言葉に惹かれていらして下さった方がいらしたのです！
“豊かな気持ち” から少し離れた日常を送り続けていると、私たちの心はかさかさしてきてしまいます。人間は美しいもの、豊かなものへの憧れが生まれた時から植え付けられているのではないでしょうか。そんな日常から少し離れて豊かなものに触れる時を持ってみると、我に帰る気がします。
私が目指しているのは、その“豊かなもの” なのかもしれません。
豊かなものとは高価なということではなく、私たちの心に響く何か…。
それは人生に触れることなのかもしれません。
人生を変えるなどという大それたことではなく、心の弦が弾かれて音の出る瞬間に立ち会う、或いはいつか音の奏でる日が来るきっかけ。 だから私の思いに共鳴してくださり、胸元に小さな美術館を持っていることに気づいてくださった方のお話しに私は感動したのです。それは私の心の弦も弾かれたことなのでしょう。
“何かを持って帰りたかったし、何かを貰えた” と嬉しそうに言ってくださり、どんなに嬉しかったでしょう。
短い期間で度々お目にかかれる方もいれば、時たまや、或いは1度しかお会いできない方もいます。でもお会いした時にお互いの何かが交換されてずっと残る出会いは一生ものです。そうやって私たちは影響しあい、人生に触れ合いながら過ごしていきます。

大分はあの後 雪になったそうです。
春が待ち遠しい今が最も寒さ厳しい時。
綺麗な色や美しい光を味方にきっときっとお元気でお過ごしくださいね


“私たちの胸元は小さな美術館
すれ違う人々を、そして私を励まし人を豊かにします”


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