バレンタインには、花咲くお茶を
東京・青梅市
もうすぐバレンタインデー。
毎年、頭を悩まされるのがチョコレートと贈り物。
だれにあげるのか。何をあげるのか。市販のものにするのか。つくるのか。
ケーキや クッキー、マラサダもつくった。トリュフもつくった。
今回は友だちにあげる「友チョコ」を選ぶ。
いつもとちがったものにしたい。サプライズを演出したい。
あれこれ悩んだあとは、シンプルにたどり着く。
クーベルチョコを葉っぱの形や猫の型に流して冷やして固めるだけのシンプルなものにして、変わったお茶を添えてプレゼントしてみようかと考える。そう、魔法のお茶を添えるのだ。
わたしがこのお茶のことを知ったのは、実はつい最近のことである。
2006年の映画「マリー・アントワネット」を年末に観たのだが、劇中で中国の皇帝から贈られたお茶をアントワネット役のキルスティン・ダンストが、たしなむシーンがあった。そのお茶の美しさに感動したが、残念なことに名称がわからず調べようがなかった。今年に入って、たまたま観たグルメ番組の中で同じお茶が出てきたので、すぐにネットで取り寄せた。
このように花開きますわたしがひと目ぼれしたお茶は「工芸茶」という中国茶だった。
見た目は、ひとにぎりの干し草色をした奇妙なかたまりで、ひとめだけでは、美しい魔法のお茶とは想像もつかない。言うなれば、みにくいアヒルの子である。
工芸茶は、中国の福建省などで盛んにつくられているらしい。
ベースはジャスミン茶で、丁寧に手作業で茶葉を包んで加工してある。
見た目はちょっとグロテスクで、なんなのかわからない物体だ。
熱湯を注ぐと、じんわり干し草色のかたまりにお湯が染み込んでゆき、くるん、と丸まっっていた茶葉が少しずつほどけて広がり、色あせていた茶葉が濃い緑色を取り戻してゆく。
そのまま1分ほど待つと、真ん中から極彩色の花がポンと咲いて浮き上がってくる。その様が、なんとも美しいのである。アヒルの子が美しい翼を広げて白鳥になる瞬間である。
意外なことに工芸茶の歴史は浅く、1980年代に考案されたもので、日本では「細工茶」、「手工芸」などの呼び方があるが、どれも定着していないようだ。
残念ながら映画で観たように、本物のマリー・アントワネットが工芸茶を口にしたことはなかったということになってしまうのだが......。けれども平成の現代、ティーカップを手にした友だちの顔が感動と笑顔でいっぱいになる姿が目に浮かぶ。なんだかバレンタインが待ち遠しくなった。
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