散り際の美学――"姉妹"なアーモンド木から学ぶ桜の魅力
スペイン・バレンシア
昨年初めてスペインで春を迎えたとき、桜を見つけて大興奮した私。なにせそれまでは季節が日本とは真逆のアルゼンチンに住んでいたので、しばらくはこの時期は秋期関係のことばかりだったのです。だからスペインに引っ越しして桜を目にしたときの感慨は人一倍! 日本の春の断片を感じて、郷愁に浸ってしまったりして……。
スペインにて満開! でもこれ桜ではなくてアーモンドの花でも、そんな風にしみじみと桜を眺めていたのもつかの間、私が桜だと思っていたのは、なんとアーモンドの木だと判明! とんだ勘違いですが、どうやらアーモンドの木は桜と同じバラ科の落葉高木だけあって、桜にそっくりな花を咲かせるのだとか。
近づいてみますと、たしかに花の様子が違いますもちろん違う点もあって、アーモンドの花は通常桜より開花時期が早いのが見分けの目安だそう。でも二つを同時に比べないと早いか遅いかはわかりにくいですよね。でも、例えば花のつき方ひとつを見ても、枝に沿う様に花が咲くのがアーモンドで、枝からこぼれるように咲くのが桜。それに、桜の花には花丙(かへい)がある一方、アーモンドの花にはない(短い)などの違いがあるんだよ、そうある人に教えていただきました。
アーモンドの木がたくさん育つ土地だけに、スペインはアメリカに次いで世界第2位のアーモンド生産国だと気が付くにも時間がかかりませんでした。だって、アーモンドを使ったお菓子がたくさんあるんですもの! 古都トレドの名物でもあるアーモンドの粉を使った練り菓子マサパン(Mazapan)を始め、アーモンド、蜂蜜、砂糖、卵白から作る伝統菓子のトゥロン(Turrón)や、アーモンドの粒と小麦粉で作られるポルボロン(Polvoron)など。やたらと甘いな〜と思いながらも、「アーモンドはビタミンEや食物繊維、ミネラルを豊富に含む栄養素材なのよ!」なんて栄養価を強調してパクリ、パクリ。
そして、そんな風に「団子」が揃うのであれば、アーモンドの木の下でお花見のひとつもやりたくなってしまうかと思いきや、そういう渇望は沸いてこず……。その理由を考えてみると、どうも、アーモンドの花の散り方にあるように思えてきました。花の盛りにパッと舞い散る桜と違い、アーモンドの花は時間をかけて枝でしおれてから落ちていきます。あっという間に散っていく桜とは違い、ゆっくり色褪せて落ちていくアーモンドの花の前では、「三日見ぬまの桜かな」とは違い、うっかりするとすぐに散ってしまう切迫感に欠け、その時を掴むように花見という気にはならず……。
マサパンは野菜や果物、動物や人物など様々な形の物もそう考えると散り際こそが、桜の「あわれ(感慨深さ)」度を上げていることに気が付きます。そう、散り際があっという間だからこそ桜って特別感が増すんでしょうね。一瞬だから美しい。中学生のときに習った徒然草の「花は盛りにのみ見るものかは。(桜の花は、何も盛りだけが風情があるのではない)」が思い出されます。
そんな故郷の風情に思いを寄せながら、しばらくはまだまだスペインで咲き誇っているアーモンドの花を楽しみたく思います。ここにあるのは、時の流れに任せてゆっくり落ちていく姿。それもまた「いとをかし」。
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