幻のお花畑にトレッカーも"霧中"!
ペルー・リマ
ペルーの首都リマから100kmほど北上した海岸砂漠地帯に、これからの季節にオススメのトレッキングポイントがある。それが「ラチャイ国立自然保護区」だ。
緑に覆われた大地、小さく可憐な花々。アンデスウサギと呼ばれるビスカチャやヤマウズラが姿を現し、それらを狙ってタカやフクロウ、時にはキツネもやってくる。標高は750mとそう高くなく遊歩道も整備されているので、初心者でも自然を楽しみながら散策できる人気の場所だ。
一面緑に覆われる冬のラチャイ国立自然保護区。
乾いた砂地と太平洋が遠くに霞んで見えるところで日本で“山開き”というと初夏のイメージだが、こちらペルーでは冬がシーズンである。特にラチャイ周辺は、ごつごつとした岩山や砂丘が広がる不毛の大地。これといって見るものもなく、夏場は暑いだけで全然楽しくない。ところが冬になると、この砂漠が瑞々しい緑の楽園に変貌するのだ。一体どういう仕組みなのだろうか?
ラチャイを含むペルー海岸部は、一年を通してほとんど雨が降らない砂漠性気候。しかし、冬になるとガルーアと呼ばれる濃い霧が海から流れ込み、岩山にぶつかって停滞する。湿度はほぼ100%。雨のように地面に降り注ぎはしないが、立っているだけでじっとり濡れてしまう。まるで天然のミストサウナのような状態になるのだ。その水分が砂の大地を湿らせ、夏の間、地表近くでひっそりと眠っていた植物たちを一斉に芽吹かせる。このガルーアが発生し始めるのがペルーの冬、6月ごろなのである。
あたり一面を桔梗色に染めているのはジャガイモの原種
なんでもない小さな花に、生命の息吹を感じる霧に包まれたラチャイはとても神秘的だ。靄で視界がぼやけ、平衡感覚を失いそうになる一方で、足元の名もなき花が空中のわずかな水分を得、力強く咲く様子にはっとさせられたりする。幻想の世界とそこに息づく確かな命、そんな相反する意識を体感できるのもラチャイの魅力といえよう。
さて、誰でも気軽に歩けるラチャイだが、服装には充分な注意が必要だ。ラチャイの天気は千変万化。ダウンジャケットが必要なほど寒くなるときもあれば、霧が晴れた途端に暑くなり、ペルーが赤道に近い国であることを改めて実感させられたりもする。重ね着を基本に、防水対策もしっかりと。周囲のペルー人たちの適当な恰好にゆめゆめ騙されてはいけない。彼らと同じようにコットンTシャツなんかで歩こうものなら、きっと風邪をひいてしまうだろう。
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