「フィンランドらしい」風景の理由――コリ山
フィンランド・コリ
フィンランド人に「フィンランドらしい風景はどこですか?」と尋ねると、「コリ山(コリン・ヴァーラット)」という答えが返ってくることがある。コリ山は、ヘルシンキから北東450キロの北カレリア地方コリ国立公園にある。「山」と言っても、標高253メートル、どちらかというと見かけは「丘」。フィンランドには山らしい山がなく、一番高い山でも、標高1324メートルなのだ。山が少ないのに、どうして山がフィンランドらしい風景?
コリへの旅はこの駅からコリは、フィンランド芸術家の着想の場として有名だ。作曲家のジャン・シベリウスは、交響詩『フィンランディア』の着想をここで得たと伝えられている。また、フィンランドの自然や人々の暮らしを多く描いた画家エーロ・ヤルネフェルトも、コリからインスピレーションを受けて、「フィンランドらしさ」のアイディアを得たという。
森から山を眺める。正面の小高い場所がコリ山実際にコリを描いた芸術作品を見てみると、山そのものというよりも、山は湖や森の一部として描かれているのだ。「山」の風景というのは、山からフィンランドの大地を眺めた風景だった。真っ青な湖水の上に、たくさんの島々がまるで浮遊しているかのような幻想的な風景。フィンランド国土の約1割が水域で、湖の数は約19万以上あるという。飛行機からフィンランドを眺めると、森に囲まれた湖が、まるでレース編みのように見える。
“夏至祭”のときのコリ山。23時だというのに太陽が出ていますもちろん、コリがフィンランド人の注目を集めているのには、他にも理由がある。フィンランドの国民的叙事詩と言われる『カレワラ』は、この地方に残っていた伝承や歌謡をもとに編纂されたものだ。ロシアと国境を接するこの地は、歴史的にもしのぎを削る場であることが多かった。地政学的にも世界的注目を集めていて、コリの山肌には、2億年前に形成されたという岩盤がむき出しになっている。
2億年前の岩盤日本から引っ越してきた当初、フィンランドの風景の中でなんとなく落ち着かない気がしていた。ホームシック? 日本に帰省した時に、自然と視界に入って来る山の姿を見て気がついた。山に囲まれている! 日本の国土の約8割を占める山々は、私の日常風景の一部だったのだ。山に囲まれてほっとする私に比べて、フィンランド人は、山に登ってふもとの風景を見下ろし、日々の暮らしの一部である湖やそこに浮かぶ島々、森が見えた時、ああ、私達が暮らすところだ、とほっとしたのかもしれない。自分達の世界を眺める場として、山は「フィンランドらしい」風景なのだった。
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