海派と湖派の論争――ヘルシンキ海を楽しむ生活
フィンランド・ヘルシンキ
フィンランドには、海派と湖派がいるらしい。「森と湖の国」というキャッチフレーズが有名だし、潮の香りがしないから忘れがちだが、ヘルシンキは海の街だ。その証拠に、かもめが街中を飛んでいる(ヘルシンキを舞台とした映画『かもめ食堂』の題名もこれで合点がいく)。ヘルシンキは、バルト海の入り江フィンランド湾に面していて、いくつもの湾、半島、島々に市街が広がっている。潮の香りがしないのは、内海であるバルト海の海水塩分濃度が低いからだ。
「森と湖の国」にある海の街・ヘルシンキヘルシンキ最古の公園があるカイヴォプイスト地区は、ヘルシンキっ子海派のお気に入りの場所だ。天気のよい日、海に面したカフェは、珈琲やビールとともにのんびりした時間を過ごす人々でいっぱいになる。
フィンランドには「都会の夏の休日」のイメージがあって、それは例えば「海を感じながら、珈琲やビールを飲みつつ景色を楽しむ」というもの。都会と自然の両方を一度に楽しんでしまおう、というわけだ。ここ以外にも、ヘルシンキには「夏の休日」を楽しむ場所は事欠かない。夏だけオープンする島のレストランでの食事も、海派の楽しみだ。
ボートとともに海を楽しむ生活をする人々実際に海へ繰り出して、直接海と触れ合うのが好きな人たちもいる。海水塩分濃度が低いので、日本の海よりも海水浴を気軽に楽しめし、小型船舶でクルーズを楽しむ本格派もいる。冬になって海水が完全に凍ったら、スキーやスケートを楽しんだり、氷に穴をあけて魚釣りをしたり。あるいは、海岸沿いのサウナから氷の穴の中へざぶーんと飛び込む。自然の水風呂だ。
フィンランド語には、maakrapu(crab on the land=陸のカニ)という言葉があって、海派が湖派をからかうときに使う。「海のことをなんにもわかっていないな、君たち!」というニュアンスのちょっと皮肉っぽい表現だ。海派と湖派で論争したら、こんな感じかもしれない。
湖「フィンランドは森と湖の国だぜ。伝統的なサマーコテージライフは、やっぱり森と湖だろう」
海「ふふ、田舎者め……。都会のマリンライフを知らないな」
いやいや、海のカニも陸のカニも、どちらもなんだか楽しそうなのである。
夕陽、そして帆船が美しいヘルシンキの海
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