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わたしこんなの買ってはる
新学期にはペルーの絵本で子供たちに夢を
ペルー・リマ
低学年向けの昆虫シリーズもいろいろ日本に暮らす義母から「ペルーの絵本がほしい」というメールが送られてきた。聞くと彼女は、地域の小学生に絵本の読み聞かせをするボランティアをしているという。「いろんな国の話を読んであげることで、子供たちの視野も広がると思うから」という高尚な思いには共感するものの、困った問題があった。それは翻訳である。
事実をありのまま伝えるニュースと違って、物語を訳すのは難しい。作者が伝えたい世界をちゃんと理解しなければならないし、辞書にはない造語も多い。ましてや子供がわかる平易な言葉に置き換えねばならず、それだけ日本語力も試されるということだ。義母は「簡単でいいのよ。意味さえわかればいんだし」と気楽に言うが、それでは子供のためにもならないだろう。仕方なく、文字が少ない絵本を求めて近所の本屋へ出かけた。
店には子供向けの本がずらりと並んでいた。アルファベットの勉強や数合わせ、飛び出す仕掛けなど教材的なものも意外と多い。絵もカラフルだし文字も少なくてよさそうだと思ったが、これらは3〜4歳向けだという。義母のオーダーは「小学校低・中・高学年ごとに1冊」だ。店員に「10〜12歳向けで文字が少なく、翻訳が簡単そうな本を」と相談するも、「そりゃ難しいよ」と一笑されてしまった。仕方がない、翻訳の労は諦めるとして、どうせなら私自身も楽しめそうなペルーオリジナルの物語を探すことにした。
ノアの箱舟・インカバージョン。
リャマが登場するところがペルーならでは
パチャカマック島の話は、
私がペルーに来て最初に知った神話だまず選んだのはインカ神話だ。万物の創造神ビラコチャがもたらした女神カビリャカの悲劇や、アマゾンの人々に織物を伝えたクモの話などなかなか興味深い。500年以上も語り継がれてきたペルーならではの昔話として、これを外すわけにはいかないだろう。
最初「星の王子様?」と思ってしまった「月とフォンチート」。
とてもキュートな少年が主人公また現代作品として「月とフォンチート」という絵本を勧められた。著者は昨年のノーベル文学賞受賞作家マリオ・バルガス・リョサで、ペルーの首都リマに住む少年の淡い恋心を描いたものである。「こんな幼いころから大好きな女の子にキスしたいなんて、さすがラティーノ!」と思わず唸ってしまう作品だが、異文化を伝えるにはいい材料だろうと、こちらも購入することにした。
さて、ここからが地獄の始まりだ。翻訳は想像以上に難しく、的確な日本語選びに四苦八苦する。まったくもう、どうして神話などというややこしい物語を選んでしまったのだろう! 知的探究心は満たされたが、自分の翻訳能力の低さにはほとほと困ってしまった。
全7冊、翻訳2万7000字! 大変だった?!これらの絵本は4月の読み聞かせ会で披露するそうだ。インカ神話が桜咲く春に相応しいかどうかは別として、新学期を迎え、好奇心が旺盛になっているであろう日本の子供たちに、遠く離れたペルーについて少しでも知ってもらえたら嬉しいと思う。
ちなみに今回の翻訳文字数は日本語にして合計2万7000字! これが仕事だったら、いったいいくら稼げただろう? 子供に夢を与えるには、翻訳も詠み人と同じくボランティアでということなのだろうが、夢を与えるのも楽じゃないとしみじみ思ったのだった。
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特集 : わたしこんなの買ってはる 記:原田 慶子 2011 / 04 / 18