わたしこんなの買ってはる

スザニを求めて春を歩く

中央アジア・ウズベキスタン

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民家でも使われるスザニ。色や柄は様々
春。
冬の間は店仕舞いしていた露店が徐々に営業を再開し、春の陽気に誘われるように、観光客も街へ戻ってきた。街が、活気を取り戻し始める。


そんな小春日和に、ここウズベキスタンを代表する織物「スザニ」を求めて街を歩いた。


スザニは、様々な刺繍が施されたこの国伝統の織物で、刺繍それぞれに意味がある。家族の幸福を願うザクロ、長寿の象徴である亀。製作者たちは、様々な想いをこめてスザニを織る。
もともとは、ウズベク人の嫁入り道具として代々受け継がれてきたスザニだが、近年諸外国からも、ウズベキスタンを代表する美術品として認知されつつある。日本でも、このスザニを特集したテレビ番組が何度か放映されていて、土産として買い求める人が少なくない。


スザニには、刺繍が似ているものも多いが、同じような柄でも、琴線に触れるものと、そうではないものがある。
この日は、ある店で「これは」と思うスザニに出会えた。
店に他の客はおらず、売り子のおばちゃんがにこやかに迎えてくれる。


観光シーズン本番の夏になると、この街は大勢の観光客でいっぱいになる。それこそ、次から次へと客が来る状態で、一人の客とじっくり話すわけにはいかないだろう。一方、冬の寒さの中では店先で長話などしたくない。春は、会話を楽しみながらゆっくり買い物をするのに、持ってこいの季節だ。


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布を織る女性
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今回購入したスザニ。日本人には白地のスザニが人気
空は快晴。寒くもなく、暑すぎもせず、長話には丁度いい天気だった。腰を据え、値段交渉を始める。
露店のおばちゃんは、盛んに“いいところ”をアピールしてくる。いわく「洗っても色落ちしない」、いわく「刺繍が細かい」、いわく「すべて手縫いで機械は使っていない」。
僕もやり返す。「線が少し曲がっている」、「刺繍の色が他より少ない」、あげくは「どうしてもこれがほしい。でもお金がない」。


言い値の7割までは簡単に落ちた。交渉は、ここからが勝負だ。これ以上まけられない、というおばちゃんと、言い値の半額を主張する僕。世間話を挟みながら、話は続く。
話し始めて小一時間も経ったころ、僕のカメラに目をつけ、おばちゃんは言った。世間話のついでに、という風に、さりげなく「それ、いくら?」と。この国へ来る前、ナケナシの貯金をはたいて買った一眼レフ。僕は正直に、ドル換算して値段を教えた。
するとおばちゃんはニヤリと笑い、大げさに驚いてみせた。
「そんなに高いカメラを買えるなら、このくらい訳ないじゃない!」。
やられた。
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街にはスザニ屋も多い
「カメラを買ったから、お金が残ってないんだよ」と、苦しい抵抗を試みたが、おばちゃんは勝ち誇っている。
それから15分ほど押し問答を繰り返し、僕はあきらめた。本当は最後に、「他の店に行く」とカマをかけると交渉はうまくいくことが多い。でも、この日はそんな気分でもなく、おばちゃんの主張する値段で買うことに決めた。
しかし、僕が財布を取り出すと、おばちゃんはいともあっさりと言った。「(言い値の)半額でいいよ」。


言い値の7割か、半額かで、僕らは1時間もやりあっていたけれど、その差額が大事だったわけではなかったみたいだ。もちろん僕だって、わずかなお金に執着していたのではなく、おばちゃんとの会話を大いに楽しんでいた。


この国の春は、実にゆっくりと時間が流れる。
 











特集 わたしこんなの買ってはる   記:  2011 / 06 / 06

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