買ってらっしゃいませ、お客サマー

ティラミスのルーツに出会った

イタリア・トレヴィーゾ

北イタリアにあるヴェネト州トレヴィーゾ。人口8万人強の小さなこの町は、運河と14〜15世紀ヴェネツィア共和国時代に築きあげられた壁に覆われた大変美しい町だ。ちなみに同地で有名なのは世界的アパレル会社のベネトン、そして調理器具大手のデロンギ。そして、イタリアンドルチェとしてはもっとも認知度が高いだろう、“ティラミス”発祥の地でもある。

……とはいうものの、ティラミス発祥については諸説があり、ピエモンテ州トリノからトスカーナ州シエナまで幅広い。トリノでは、イタリアの初代首相であるカミッロ・カヴールに仕えた料理人が彼のために考案したものだとされ、シエナではメディチ家の貴族たちのためにつくり出されたものだとされる。各地での逸話はそれぞれもっともらしいのだが、一般的に有力視されているのがここトレヴィーゾ説。
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店の入口には同店のシンボルである
肉切り包丁が大きく掲げられている
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静かなたたずまいの老舗レストラン
ここで少々“ティラミス”とは何か?を勉強しておこう。ティラミスの語源はイタリア語で“ティーラ(tira)=引き上げる”と“ミ(mi)=私”そして“スー(sù)=上へ”を合わせた言葉。合わせると “自分を上に引き上げる=元気になる”という意味。
そして、その中身は、サヴォイアルディと呼ばれる軽いビスケットまたはスポンジケーキにコーヒーを浸したものに、マスカルポーネや泡立てた卵などがベースのクリームを重ねる。仕上げにココアをたっぷりとふりかけて完成。シンプルだが、結構どっしりとしたドルチェだ。とはいえ、前述のような名前の語源を考えると、これで精力をつけるという意味では理にかなっているともいえる。

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オーナーのカルロ・カンペオールさんと
マダムのフランチェスカさん
さて、このティラミスがトレヴィーゾで生まれたという説にもこれまた諸説あり、「あのレストランだ」、「このパスティッチェリア(菓子店)だ」などなど言われているが、その真相はやっぱり闇の中。しかしながら、ここでもっとも有力視されているのが、町の中心にある創業1939年の老舗レストラン説。 その名は『レ・ベッケリエ』。ベッケリエ(肉屋)がその当時店の前にあったこともあり、今なお残る店のシンボルマークは大きな肉切り包丁。
現在のオーナーはカルロ・カンペオール氏。奥様とともにこの伝統ある店を守っている。もちろんイタリアらしく代々続く家族経営の店だ。 同店は土地の伝統的な料理を提供する正統派レストランで、定番料理はもちろん季節やその時の美味しいものを提供する地元の人たちに愛されている優良店。そこを訪れる客足は常に絶えることがない。老舗らしい重厚な雰囲気を持ちながら、美味しい料理とスマートなプロのサービスが客を心地よい気分にさせている。

私もそんな料理店の一角に腰をおろし、ひと通り軽く食事を済ませた後、伝説のティラミスを食す。
「あ、ほんとにシンプル……」というのが感想。なぜなら、これだけ広く知れ渡っているドルチェだけあって、口当たりを軽くしたり、リキュールで風味づけしたりと、現代風にアレンジされたティラミスに出会う確率のほうが高いからだ。それからしたらとてもシンプルな味わい。

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これが伝説のティラミス。とてもシンプル
オーナーのカルロさんに話を聞くと、ティラミスを考案したのは彼の母親であるアルバさん。彼女ももちろん店で働いており、その当時の料理人とともに子供からお年寄りまでが楽しめるドルチェを、ということでできたものだという。母から伝わるレシピを現在もそのまま再現し、客に振舞っている。クリームを加えたり風味づけすることも一切なし。材料はマスカルポーネ、卵黄、砂糖、サヴォイアルディ、そして濃いコーヒー。
今どきのふんわり感もなく、どっしりとした食感と甘み。コーヒーと表面にたっぷりとかかったココアのほろ苦さがいい具合だ。

シンプルなドルチェだがそこには歴史がある。重ねられたクリームは重ねられた歴史のページ。北イタリアの小さな町のドルチェ(甘い)な歴史だ。











特集 買ってらっしゃいませ、お客サマー   記:  2010 / 08 / 23

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