勝手に読書録
家族狩り
作者名:天童 荒太
ジャンル:小説
出版:新潮社文庫
家族狩り(新潮ミステリー倶楽部)
平成8年第9回山本周五郎賞受賞作品。
本作品は「永遠の仔」の原点として位置付けられている。
そのことについて「確かに」と同時にかなりの「異質感」も持ってしまうのはなぜだろう。
例えばA項を赤としZ項を青として、赤から青へ53段階にグラデーションをかけたとする。
AからZへ同時にZからAへも少しずつ紫に色目は移行していくだろう。53段階のほとんどは紫が占めるはずだ。中間点の前後はどちらよりでもない色相がいくつも重なる。
ところがA側よりの数段階目、同じくZ側よりの数段階目で明らかに赤みがかった紫と青みがかった紫が出現する。
「家族狩り」と「永遠の仔」の間に赤みがかった紫と青みがかった紫のわずかだが決定的な差異がありはすまいか、という問いなのである。
「家族間の病理」を深く探るという点では確かに共通している。
だが片方がミステリー色が強く、片方が病理そのもの追求に傾いているという表層の違いではなく、それを見詰めようとする「目」が違っている。
探求の限りをつぎ込んだ迫力は等しく認められるが、前作から次作までの3年間にエグミは沈殿し、上澄みは静かに澄み、代わりに、読者は次作で手で温められた素材から体温を感じとる。
とはいうものの、本作とて稀に見る完成度の非常に高いミステリーであることに間違いはない。
読後の満腹感は、それはすごい!
「溢れた愛」のそのまた次作で、どこまで澄み渡るか期待も大きい。