勝手に読書録
白い夏の墓標
作者名:箒木 蓬生
ジャンル:小説
出版:新潮社文庫
白い夏の墓標(新潮文庫)
徹頭徹尾、箒木作品のスピリットを楽しめる。
目次に並ぶ耳慣れない章タイトルが何を意味するのかは、第1章の扉をめくれば即座に理解する。さて何の話しか?など訝る暇もない。
章毎に扉裏にタイトルの意味が書かれている。
第1章タイトルは「吸着・アタッチメント」。
____ウィルスは浮遊液中のブラウン運動の結果、ランダムな衝突によって宿主細胞に吸着する____
ミステリー&サスペンスのふんぷんたる匂いに背中をぐいぐい押されて読み始める。読み出すと急かされるように先へ読み進めたくなる。
舞台はパリから始まる。
細菌学者の佐伯は「B型肝炎の亜型の分布が民族の交流と移動を推測する手がかりになる」という研究をまとめパリ会議に講演に訪れたのだった。
やがて佐伯のパリ逗留にもう一つの「意味」が加わる。
中盤に入って、注意深く周到に用意された布石の関連性が形を見せ始め、どうやらゴールの行方がかすかに見えてくると、とても途中で読むのを中断したくなくなる。
最も著者の得意とするディテールの積み上げ手法によって、世界情勢や政治に絡めとられてしまった医・科学の行方、科学者の運命が語られる時、「近代にあって、医・科学の進歩に最も貢献したのは戦争だった」という今では周知の事実を、改めて確認させられる。
重いテーマの割に読後感が爽やかなのは、同じく医・科学者としての著者の、古めかしい言い方をすれば「医は仁術」という信念が確固としてゆるぎなく、ストーリー自体もその点に終着点を求めているからに他ならない。
さて「白い夏の墓標」、中に眠るのは誰?