勝手に読書録

心にナイフをしのばせて

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作者名:奥野 修司
ジャンル:ルポルタージュ
出版:文藝春秋社

心にナイフをしのばせて


事故でもなく疾病でもない。いわれなき犯罪によって肉親を失った家族のグリーフワークは家族のその後の人生を変えてしまうほどに困難を極める。メディアの餌食にならざるを得なかった心傷も想像を超えて深い。外側からの視線に耐えきれず、精神崩壊の淵に立つさえ危うく、家庭そのものも分解してしまいそうになる。
28年前の少年犯罪で息子・弟を失った遺族のその後を追ったルポである。インタビューを重ね、語られた言葉は特に修飾もせず淡々とつづられる。

遺族のその後は、少なくとも読者が限りなく2人称として想像力を働かせるに余りある構築がなされているのに反し、事件の背景と犯罪者・少年の心的背景については、本著から知り得る範囲では納得できるものには到底、至ってはいない。少年犯罪に必ずついて回る「少年法」が事件との間に隔壁となって立ちふさがる。

カバー装丁のショッキングなイラスト。それをさらにあおるタイトル。帯には【追跡!28年前の「酒鬼薔薇」】。
では28年前のその事件と「酒鬼薔薇」事件との特徴的共通点は何か?
殺人を犯したのが「少年」であった。命を奪われたのも少年だった。そして遺体は無残にも首部が切り離されていた。本著からはこの3点が共通点として読み取れるだけである。

「少年犯罪」の土壌となる背景に関する心理学的アプローチ、少年の内的狂気に対する専門分野を巻き込んだ分析・認識があってもよかったのではないかと思えてならない。
犯罪を犯す少年を取り囲む環境や周辺事情は必ず機能不全家庭があったり、社会不安が横たわっていたりする。
しかしながら、家庭というものは元来なんらかの不全性を内包する宿命を負っているのであり社会もまたしかりではないか。とすればぎりぎりの境界線はどこなのかは読者の最も知りたいところではないだろうか。

遺族のその後は地獄であった。方や犯罪を犯した少年は「少年法」に守られて社会適応しこともあろうに「弁護士」になっていた。遺族に対して謝罪することもなく。

犯罪者を擁護するつもりもない。少年法の見直しについても賛否を論ずるものでもない。
ただ、「罪びとに石を投げることができるのは誰か?」という問いを忘れてはいけないだろう、とかぼそい声でつぶやいてみるだけである。












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