勝手に読書録

記者会見ゲリラ戦記

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作者名:畠山 理仁
ジャンル:ノンフィクション
出版:扶桑社新書

記者会見ゲリラ戦記(扶桑社新書)


以前、ある公営競技の仕事をしていたときのこと。「A選手のレース後コメントを、報道各社が共有し合う」、こういう光景によく出会った。参加選手の数に対して記者さんの数が足りない、もしくは選手が全記者に聞かれても答えるヒマがない、そういった観点から、いわゆる“記者クラブ”に所属する記者さんたちによって使われていた取材方法だった。
その際、私が活動していた媒体は記者クラブに所属していたわけではないので、その情報を聞くこともできない、また勝手に取材をしていると怒られる……などということはなかった。私を含めて全員しっかり面は割れていたが、コメントを発表する場や選手の記者会見に出席して、そこでの情報を使用しても何も言われなかったし、逆にこちらの独自取材での記事を見て、「アレ、役に立ったよ!」と褒めてくれたり、お礼を言われたりもした。私の経験した記者クラブはなんともおおらかだったのだ。

公営競技のような、言ってしまえば間口の狭い業界での記者クラブがこうであったとしたら、よりおおらかでないといけない業界(業界ではないか)がある。それはやはり国を動かす政府など権力の中枢だ。
全国民の生活を担うためには、表に出せない行動もたくさんあるのは間違いない。だからこそ、それを隠れ蓑に権力が独走することを防ぐ、権力の監視として、多くの国民の目にその言動が触れるようにしなければならないのもまた間違いない。それだけに、フリーの取材記者やインターネットなども含めた多種多様な報道活動に対して、各省庁などに代表される政府組織は門戸を開かなければならないのに、多くは閉ざしたままだ。
ではその状況は政府側に問題があるのか。答えはどうやらNOのようである。政府側はむしろ開放しようという動きが強いのに対し、それに抵抗しているのはこれまで情報を独占してきた立場の新聞記者やテレビ、通信社などで組織された記者クラブ。そう、報道に関わるすべての人にとって、同じ立場であるはずの人たちなのである。

『記者会見ゲリラ戦記』は、09年夏の政権交代以降、記者クラブに独占されていた政治中枢の記者会見開放へ向けて筆者が行なった、さまざまな活動の様子が描かれている。筆者である畠山理仁氏は、各種選挙で注目の候補から“インディーズ候補”などにも注目した取材原稿を『週刊プレイボーイ』などに発表しているフリーランスライターである。
政権交代後、記者会見が開放された省庁の記者会見に出席しつつ、なかなか記者会見が開放されない省庁には電話をしたり要望書を送ったり、その模様をTwitterでつぶやき続ける筆者。そしてその課程で見えてくるのは、会見が開放されないのは権力側の非協力だけではない、既存の記者クラブの抵抗が——。

権力中枢への取材活動、そして我々の知る権利にも関わる内容だけに、肩肘張って読まなければいけない内容……ではない。堅苦しくない筆致に加え、アメリカでの大統領スピーチ取材のエピソードや、東京地検への要望書を東京地検地下のコンビニで書き、しかも持参ではなく郵送(!)した様子などがユーモアたっぷりに描かれており、笑いとともに政権交代から時系列を追って各省庁での動きと問題点を知ることができる。また、集録されている3大臣(すべて当時)へのインタビューからも、この大臣がなぜ会見開放に積極的で、実現までこぎつけられたのかがうかがえる。

どうか気軽に手に取っていただきたい本書、オススメのポイントはふたつ。
ひとつは最初の読書時、この仕打ちは怒ってもいいだろうと感じる事象でも、当の本人である筆者の筆致に妙に和やかな気持ちで済んでしまうことが多いのだが、それだけに「死刑執行の刑場を公開する場合には必ずお知らせする」としていた法務省の“裏切り”に対して、文頭から怒りを露わにする記事は強く印象に残る。筆者は本書刊行後、フリー記者による会見中継について「検討する」としたきり1年間も放置し続けた総務省記者クラブに“宣戦布告”、後日の記者会見で宣言のうえ中継を強行したりもしている。いつもはユーモアを交えていても、誠意のない対応には怒りを露わにして行動する。そんな筋の通った行動を読んでいると、筆者の誠実な人柄がうかがい知ることができよう。
そしてもうひとつは、二度目の読書では違った印象を持つことになる点。最初の読了時にサラッと読み終わったとしても、話の内容がすでに下敷きとなっている二度目は筆者、いや筆者だけでなく多くのフリー記者、そしてその後ろにいる国民が、多角的ではない一面だけの情報しか流れていない現状や問題点をイヤでも理解させられてしまう。

我々が見聞きしている“報道”とはいったいなんなのか? それを知ることができる、楽しく読みつつも恐ろしい一冊がこの『記者会見ゲリラ戦記』なのである。
最後に。もしここ最近、あなたが目にする報道が、これまでと少し変わってきたと感じるのならば、それは間違いなく筆者たちの行動が風穴を開け始めたからである。












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