勝手に読書録
三浦雄一郎の「歩く技術」
作者名:三浦雄一郎/三浦豪太
ジャンル:エッセイ&トレーニング
出版:講談社
三浦雄一郎の「歩く技術」
弊社において私の隣席にはアラカン編集長が座っている。「あそびすとサイト」をご覧のみなさまならおわかりの通り、この方は山に登る。それこそ6000m級の山を登ってしまう御仁である。
方や私は市民マラソンランナーである。フルマラソンの経験こそないが、ハーフマラソンまでなら完走経験がある。“横”にならば2万メートルを走破することができる。
この“上”に行くのと“横”に行くの、どっちが大変なんだろうか。私はよくアラカン編集長に、「山登りで4キロも上がれるのならば、横に行くだけの10キロなんて楽勝ですよ」と言うのだが、当のアラカン編集長は「そんなことないわよ、だって1万メートルでしょ。あんなに大変だったモンブランだって4800メートルなのに。無理よ」と譲らない。
うん、我々を支配しているのは単位と数字の大きさの違いだけのような気もするのだが(笑)。
その答えが出るのではないだろうかと、本書を手に取った。『三浦雄一郎の「歩く技術」』。
副題に「60歳からの街歩き・山歩き」ともあることから、60歳ではないものの“山を歩く技術”はおそらくない私が読んで、「こんなトレーニングできない」とかなんとか、どんな感想を抱くかでおおよそのところが掴めるのではないかと考えた次第である。しかし、その指導をしているのは世界に誇るスキーヤーにして登山家の三浦雄一郎と、モーグル五輪代表でもあった豪太親子。山に登るためのキツいトレーニングが取り上げられているのは想像に難くない。
で、実際のところはどうだったか。
本書は雄一郎氏が70歳と75歳での過去のエベレスト登頂時などの生活やトレーニングを振り返り、そこに豪太氏が実際のトレーニング方法などを提示して肉付けされていく構成なのだが、まず雄一郎氏が「七大陸最高峰滑走」後の燃え尽き症候群から50代でメタボになってしまい、65歳では命の危険まで指摘されながら、それを解消してエベレストを目指す――つまりは「スポーツマンの下地はあっても最悪の体調の人が、世界最高峰を目指す」というのが前段なので、足にそれぞれ1キロ、ザックに10キロの重りを背負って歩く「ヘビー・ウォーキング」などたしかにキツそうなトレーニングは出てくるが、雄一郎氏の本書の担当はむしろ精神的なものが多い。
「食べたい物を我慢しない」、「ゆっくり歩けば頂上にたどり着ける」、「目的意識を持って」、「気張らず楽しみながら」「ついでに・ながら」なトレーニングなど、継続できる方法を伝授している。
それを受けて開陳される豪太氏のトレーニング方法も、当然その父の薫陶が含まれているため、非常に手軽に行なうことができる。イラスト解説が豊富なのでその格好を真似するだけでOK……もちろん、やってみたら結構キツイ。普段、男性ほど意識しづらい「骨盤を立てる」方法など、しばらく試したら翌日筋肉痛になってしまったほどだ(笑)。
こうやって雄一郎氏の経験、そして豪太氏の実践を試しながら読み進めていくうちに、本書は「これから歩こう、山に登ろう」という人はもちろん、たとえば私のようなマラソンランナー(笑)やスポーツをする人、そしてダイエットをしたい人などにも、日々の生活を見直せる本であることに気が付く。それは、手軽なトレーニング方法に、特に長い期間を掛けてのダイエットには絶対に必要な精神論――「歯を食いしばってやれ!」は短期では有効だが、長期ではむしろ食べたい物を食べ、気張らず楽しむのが絶対の法則。経験者(私)は語る――が満載だからにほかならない。あと個人的には腹持ちがいい行動食とドリンクのレシピがあるのがうれしい。さすがにハーフとか走ると途中でお腹減るのよね(笑)。
山がキツイか、マラソンがキツイか――それを見極めるために読んだ本書だったが、すっかりマラソン用のトレーニングに使ってしまった。あ、そういえばアラカン編集長は私の勢いに押されて一度10キロの大会に出ている。つまりは“横”に移動する大変さも知っていることになる。方や私は“上”に登ったことはないから……。
当初の疑問は、私が本書をさらに読み込んで、山に登ったところで解決するのかも知れない。その際は巻末に書いてある「山のカルテ」で初登山の地をじっくり選定するとしよう。
※ただいまヒマラヤ山脈のメラピークへアタックしている三浦さん親子。本書へのコメントをいただき次第、こちらへ掲載いたします!