勝手に読書録
輝天炎上
作者名:海堂 尊
ジャンル:ミステリ
出版:角川書店
輝天炎上
ちょっと待ったあッ!
「ケルベロスの肖像」を未読の向きは、是が非でもそちらから先になさるが得策。
というか…
海堂作品未経験者ならば、相当アドバンス編なので著作時系列を追われたほうが賢明かと。少なくとも「ケルベロス」の前の「螺鈿迷宮」は必須。
ま、文庫に落ちているのをしこたま買い込んで、次々読破するという、切れ間ない悦楽を獲得されたし。夥しい作品群海を泳ぎ渡ってきた読者としては、たった今から怒涛の海へ飛び込もうという人あらば、嫉妬のあまり断崖から突き落とし、挙句の果てに「あんな素敵な海に突き落としたりするんじゃなった」と歯ぎしりして後悔してしまうだろう。
「ケルベロスの肖像」読了の熱冷めやらぬまま、何やら華々しくもおどろおどろしい表題に惹かれて本書を手に取る。なるほど「『ケルベロスの肖像」のアナザーストーリー』とは知らされてはいるが、読み進めると単に裏話というだけのものではないと気づく。重複シーンも、ある種のネタバレ要素もさほど気にならないばかりか、「ふんふん知ってるぞ」てな優越感をくすぐられたりもする。
エンディングに近づくにつれ「ケルベロス」に続いての「輝天」の刊行の意味、すなわち著者の目論見が完全に透けて見えてくる。順路を違えず歩めばこそ謎の糸の絡まりようを見極める心眼を得、輻輳音を体感しながらドラマの帰結が迎えられる。
とにかく、そのあたり、読者心理をくすぐり操りの名手、海堂術師の術中にてらいなく、ままに落ちていくのもまた心地よいというもの。
なんといっても、本書のメインキャスト東城医大の多重留年生「天馬君」のファンになる。
そうそう、嬉しいことに、うっすらと見えた気がしてくる。
バチスタシリーズの行く末が…