初恋物語
箸使い
「なんちゅう持ち方や!」
私のおかしな箸の使い方を指摘されたのだ。 顔がカッと赤くなり、いつもの軽口をたたけなくなった。
「ほっと、い、て」
精一杯、普通の声で言ったつもり。でも、かよわい声だった。
いつもの給食は先割れスプーンだから、私の箸使いなど誰も知らなかった。なのに、 今日は雨。遠足は中止。だから、教室でお弁当。いつもの班のままグループ席になると、福本君が隣だった。中学2年生の時。
福本君、ルックスも運動も勉強も70点だと思う。優良可なら辛うじて良。でもそれは、今思えばの話。当時は、限りなく満点に近かった。だって、目がキレイなんだよ。それに、おもしろいの。ま、口は悪いけれどやさしいし。この前、プリント落とした時「はい」って渡してくれたし...
結局、何がよくて好きになったのか、思い出せない。めがねをかけたガリガリの柔道部員。
いつからか、ずっと福本君ばかりを目で追いかけていた。
__今日はよく笑う。今日は朝から憂鬱そう。寝癖がついている。制帽、なんか変。給食、カレーの時はうるさい。福本君、またお替りしてる。もう、クラブに行っちゃったの?__
最初は気づかない。何を見ているのか、意識していない。けれど、見ていたい。
私、福本君ばっかり、見てる?
気づいたら、直視できなくなった。
そんなに意識して、隣になるだけでドキドキしていた。なのに、あの一言「なんちゅう持ち方や!」で「嫌われた!」そう思って、キモチを封印した。本当は、自分からは何もできない言い訳。封印する理由が欲しかったのかもしれない。「告白」できない、したいと悩むより、楽だったのかもしれない。
それきり班がわかれ、クラスが離れ、違う高校に進学し、まったく会わなくなった。それでも、箸使いだけは猛然と練習した。
あれからウン10年、わが子の箸使いを矯正する。
「ほら、お母さんを見て。こうやって持つのよ!」
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