初恋物語

交換日記

本棚に見慣れない古いノートがひっそりと挟まっていたのに気がついたので、とりだしてみたら交換日記だった。高校生の頃だからもう何十年以上も前のことだ。ひろげて眺めてみると、ちょっとカビ臭くホコリっぽい香りが漂い、いろいろな事を思い出してなんだか心が痛むような気持ちになった。

ある日、校舎の裏で「好きです」って告白されて、数回デートをした後に付き合うことに決めた彼女は、茶道クラブに通うおとなしくて目立たないタイプの娘だったから、正直言えばその時までほとんど話をすることもなかったのだ。

まあ、高校生だから付き合うといってもたかが知れてるが、みんなの帰った夕方の校舎の非常階段に並んで座ってぎこちなく抱きあって、いつまでも過ごしたりしていた。

声が聞きたいからって、夜遅くでも電話をかけてきたりした。

部活動で遅くなった僕を、ひとりポツンと駅で待っていて、暗いから家まで送ってねと手をぎゅうと握ってきた。

そうしてある日、急に交換日記をしようと彼女は言い出した。
はにかみながら僕にちょっと厚めのノートを手渡して、あしたの朝、靴入れのなかに入れておいてね、と言われた。

家に帰りノートを開くと、その1ページ目にはたわいの無い日常がびっしり書き込まれていて、下の方にはこのノートが全部埋まるまで仲良くしようね、と書いてあって、僕は少々うんざりした気持ちになった。それでも僕は彼女のために一日おきに一生懸命ページをうめて、下手な日記を書いていたのだ。

そうして3ヶ月ほどたったある日、僕は唐突にフラれた。
あなたが嫌いになったわけじゃないけれど、なんだかもうときめかなくなったからって、交換日記に書いてあった。僕は訳がわからず、彼女と一緒に過ごした3ヶ月を思い出してみたけれど、僕自身彼女にちっともときめいていなかったような気がした。そんな僕の様子を彼女は察したのかもしれない。

今でも手のひらに感じる柔らかくて温かな感触や、顔を寄せるとかすかに香る石鹸の匂いだけが僕の記憶に残ってはいるものの、他のことは交換日記を読み返すまで全く思い出せなかった。正直言えば彼女の顔すら思い出すのに一苦労だ。

だから、もしかしたら僕は彼女に悪いことをしたのではないかと、何十年も以上経った今ごろになって、少々後悔をしているのだ。











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