VIVA ASOBIST

vol.20:幾代昌子
大好きなスキーはちょっとお休みして

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【プロフィール】
早稲田大学文学部仏文科卒
主に、広告、音楽業界にてプロデューサーとして活躍。
現在、株式会社アウラ代表。

詩画集『ゆめのあしおと』
詩画集『あいのときめき』
詩画集『おもいのことのは』


vol.20_01.jpg 2月28日、講談社から発売された詩画集がある。『ゆめのあしおと』『あいのときめき』『おもいのことのは』という3冊。この詩画集をプロデュースしたのが、幾代昌子さんだ。昔懐かしい数々の詩に、ガブリエル・ルフェーブルの絵が重なり、本を開けた瞬間から、ふーっと息を抜く自分を発見する。おなじみの詩でも、憶えているのはさわりだけ。しかし、この本たちには忘れていた部分が全部ある。そこには、ちぎれてしまった記憶をひとつひとつ修復させる、優しさに満ちた時間が詰まっている。
幾代さんがルフェーブルの絵に出会ったのは、天国にいちばん近い島で知られるニューカレドニアだった。フランス語の詩とルフェーブルの絵で構成された詩画集を見つけ、気に入り、それを2冊購入した。ガブリエル・ルフェーブル。日本では無名のイラストレーターだが、欧米では高い評価を受けているという。購入した本を開き、絵を見るたびに新しい発見がある。ルフェーブルの絵を、いやしを求めている日本の女性たちに紹介したいと思ったのが始まりだった。
vol.20_02.jpg そもそも、幾代さんがニューカレドニアに行ったのは、休暇には世界中のスキー場めぐりをしていて、少なくともフランスのスキー場は全部滑るぞと決めていたのに、大腿骨骨折という致命傷を負い、大好きなスキーができなくなってしまったからだという。フランス、カナダ、ニュージーランド、世界中のスキー場って・・・きっと大金持ち?と思うかもしれないが、幾代さんこそが超大物あそびすとといえるだろう。よく働き、よく遊ぶ。これはあそびすとの原点だ。 幾代さんが本格的にスキーを始めたのは、買ったはいいけどまったく使わないスキーを始末する前に、1度滑ってからにしようと思い、ニセコに行った時だった。サラサラのパウダースノーに身を任せ、スピードを楽しみながら「スキーはおもしろい!」と思ったそうだ。それが30代半ばくらいの時だった。
大学を出てから、若くして会社を作り、主にコマーシャルの仕事をしていた。高度経済成長で日本が先進国に追いつき追い越す勢いの真っ只中、まだ、日本にはメディアという言葉さえなかったころ、その第一線で仕事をしていた。現在のようにそれぞれの分野が細分化されるまえ、能力のある人は、何でもこなした時代だった。
vol.20_03.jpg アメリカのアイドルグループ、ザ・モンキーズの取材にカリフォルニアに飛んで孤軍奮闘の取材をしたこともあった。帰国すると、モンキーズの日本公演に備えて前座用に若いグループが結成されていて、そのグループのマネージャーまでしなければならなくなったこともあった。最初はフローラル。そしてメンバーがちょっと変わってエイプリルフール。今や音楽界の重鎮、細野晴臣、松本孝の2人が属していたバンドである。LPのジャケットは友人の写真家アラーキーこと荒木経惟さんにお願いした。そのLPは今や幻の名盤と言われているとか。
荒木経惟さんとの出会いは、パーティーで隣に座ったことだった。いろいろな話をしていくうちにヌードを撮らせてくれないかと口説かれ承諾。指定されたスタジオに行くと電通のスタジオだった。「抵抗?特になかったわ。だってわたしはガリガリのやせっぽっちで、ただの材料としてしか見てないでしょ。なら、1本の材木のようなものだから」と実に明快。その後、「顔を出している方がずっと恥ずかしいことだっていうのが荒木さんの持論だと知ったの。それはそうだと思う」

vol.20_04.jpg 取材日の前日(5月25日)が、荒木さんの誕生パーティーだった。そこに出席したときに貰ったと言う荒木経惟の『色淫女』という1000部限定の写真集を見せていただいた。中身を見ようと必死でカバーを外すべく奮闘したが、固くて開けられず諦めた。残念である。
とにかく多才な女性だ。特に感心したのは、1975年にアンファンテという会員制の、子育てを通じて女性の自立を考える組織を7人の仲間と立ち上げたという話だった。残念ながら昨年解散したが、立ち上げ当時はまだ、子育ては母親が1人で育てるのが当たり前のような時代だった。「妊娠、出産というのは、女性としていちばん充実している時期のはずなのに、あのころ、誰でも陥るかもしれない子育て中の悲惨な事件が相次いで、子育ての孤独をすごく感じ、何かしなければと話し合ったの」自分の子どもがとかそういう次元の話ではなく、何千年という単位で社会の片隅に追いやられてきた女性の自立のために立ち上がった運動といえるのかもしれない。なにをするにしても、アイデアがあっても形にすることは至難の技。困難なことをいとも簡単にやってのける。そのパワーに感服した。

vol.20_05.jpg 現在、外国映画の字幕を入れる会社を経営している。「とても地味な仕事よ。映画は誉められても、字幕が評価されることはないでしょ。最初にこの仕事の話があったときに、フィルム物は失敗すると全財産投げ出すようなリスクを背負うけど、字幕なら一種の加工だからと思って」と引き受ける。分析力の勝利だ。外国映画、DVD、テレビで放映する映画のほか、映画祭など、日本映画に外国語をつけるという仕事もする。様々な国の言葉を、画面の変化に対応して訳し、ストーリー展開に違和感を感じさせないというプロフェッショナルな仕事である。おそらく、誰もが幾代さんの会社にお世話になっていることだろう。
最後に茶目っ気たっぷりな幾代さんをご紹介しよう。楽しい物、おもしろい物が大好きな幾代さんの行きつけ、要町1丁目のマツムラメガネで作った数々のメガネ。ひとつとしてフツーのメガネはない。幾代さんはメガネが大好きで、マツムラメガネは幾代さんの希望をすべて叶えてくれるそうだ。しかし、メガネを選ぶ時は、店主の松村さんと2人だけではなく、必ず誰か1人を加えて選ぶという。「2人で選ぶととんでもないことになってしまうから、ブレーキをかけてくれる人が必要なの」と笑う。そして、メガネケースもまた楽しい。こんな楽しいケースは見たことない。まるでおもちゃみたい。
すべてにあそび心を忘れない幾代さん。もしも「名誉あそびすと」というのがあるなら、是非推薦したいと思う。











読み物 VIVA ASOBIST   記:  2006 / 09 / 01

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