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VIVA ASOBIST
vol.27:田川 律
ちょい悪オヤジの炊事ライブ
【プロフィール】
音楽評論家
多人数料理賄い人
田川律のレコードライブ
問い合わせ先/クロスフィット
TEL 03−3407−5278
「男子厨房に入る」と銘打つ、いわゆる“男の料理”に胡散臭さを感じてきた。
吟味された食材でじっくり時間をかけて調理して、盛りつけの彩りもよく…。でも、片づけは奥さんの役目というエピソードをよく聞く。「いや、片づけまでしっかりやってこそ、料理だ!」と反発されるかもしれない。そうであるとしても“男の料理”に、そこはかとない違和感を感じてきた。今回の取材で、田川律さんがそれを払拭してくれた。
田川律さんといえば、70年代に日本のフォーク、ロックを聞いていた世代には、知る人ぞ知る存在だ。コンサートプロデュースから専門誌の評論執筆など、独自のスタンスで活躍。また、本業とは別に、約束事にとらわれないオリジナルの編み物や料理が評判となり、雑誌やテレビなどで取りあげられてきた。
そんな田川さんの料理を一度食べてみたいと思っていた矢先、下北沢のライブハウスで田川さんの手料理つきレコードライブが開催されると聞いた。で、喜び勇んで取材を申し込んだのである。
早い時間におじゃますると、田川さんは厨房で数名の若いスタッフと料理の仕込みの真っ最中。
「今日のメニューは、“アホスープ”や」
にんにくをたっぷり入れたメキシコ料理とのこと。アボカトを次々に切って種を取り皮をむき、手羽肉と一緒に鍋に入れていく。実に手際よい。
仕込みが一段落し、差し入れの茄子をサッと塩もみしたものをビールの肴に、田川さんは自分の料理について語ってくれた。
「『だんちゅう』とか『男の料理』とかいって、やたらお金をかける料理は僕には向いてないな。料理というより炊事してる感覚やね。くり回しするし、あり物も利用する」
田川さんはパートナーとふたり暮らし。どちらか手があいた方が家事をするという。最近は彼女が忙しいので、「ボクが主夫やねん」と笑う。
「旅に出たら各地の市場に行って、これと思うものを買うて来て、作って食べるのが理想やね。あちこちで友だちの台所に入って作らせてもろうとる」
田川さんの迷いのない手さばきは、これまでさまざまな場所での料理経験から来ているのだと納得!
きっと、どこの厨房にもスッと入って溶けこんでしまうに違いない。
実際、毎年大阪で行われるフォークコンサートでは楽屋の賄いを担当し、各地で行われるさまざまなイベントで料理に腕を振るう。この日行われた「J-Folk Song Series 日本のフォークの源流から河口まで」というレコードライブは、99年にスタート。年2〜3回の開催で今年9年目を迎えた。きっかけは故西岡恭三氏の追悼ライブ。フォークを知らない今の若い人たちに系統立ててレコードを聴かせようという主旨で、おもに二組のアーティストを対峙させてきた。
今回は「ムーンライダーズVSオフコース」。
……あのー、あり得ない組み合わせでは? 「そこがミソやねん」田川さんはニヤリ。
レコードライブが始まった。お客は常連で顔見知りが多い。「みんなよう知っとるから、思い切りボク流に好きなことをしゃべる」と言っていた通り、田川さんの独特な解説と音楽がおり混ざって進行していく。
食事タイムでアホスープが登場した。
「メキシコ料理ですが、どうせ私がつくるから、メキシコの味じゃない」という解説に会場は爆笑。
「にんにくをオリーブオイルでたっぷり炒めて、そこに鳥の手羽肉とタマネギと−−最後にレタスを入れます」と、レシピも披露してくれる。
「あ、おいしい〜!」「これ、家でもつくってみよう」という声があちこちから。
レコードライブ再開。
オフコースは少々無理があっても一致団結していた。ムーンライダーズはかなり無理があった。それが彼らの音楽にも出ている」といった田川さんの解説が妙にナットクできるから不思議だ。
レコードライブ終了後、田川さんはさまざまな世代のお客さんと談笑する。自分の孫ほどの若い人にも、中年の世代にも、同じトーンで対話する。無理なく、ちっともエラソーじゃない。田川さんと同世代で、こういう人を私は知らない。
最近「ちょい悪オヤジ」という言葉が流行っている。雑誌やテレビでその代表とされるおじさんを見るたびに「ケッ」と思ってきた。確信犯的なあざとさが鼻につくのだ。
でも、田川さんに会って考えが変わった。
彼こそ真性の「ちょい悪オヤジ!」。声を大にして言いたい。
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読み物 : VIVA ASOBIST 記:こばやし まさこ 2007 / 04 / 01