VIVA ASOBIST

vol.30:椎名勝巳
バリアフリーな海の魅力を伝えたい!

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【プロフィール】
東京ダイバーズ代表。
現役最古参のダイビングインストラクター。
東京ダイバーズHP
http://www.tokyodivers.co.jp/

1933年、東京浅草生まれ。
19歳で海の魅力にとりつかれて以来、日本のスクーバダイビングの歴史とともに全盛期を駆けぬける。1980年代なかばより、ハンディキャップをかかえる人たち、高齢者達にダイビング指導を始める。現在も伊豆・赤沢をホームグランドに活躍中。

vol.30_01.jpg 静岡県伊東市に、赤沢漁港というスキューバダイビングのポイントがある。
もともと漁船を引き上げるための、なだらかなコンクリートスロープを利用して、ダイバーは海に入っていく。
ウエットスーツに身をつつんだ車椅子の人が、ガイドに押されてスロープを下る。
あれ?と思うまもなく、当たり前のように車椅子ごとどんどん海に入っていく。ある程度の深さになったら、あお向けにプカプカと浮いたまま、フロート(浮き)まで進む。フロートにあらかじめセットされたダイビング機材をガイドダイバーに装着してもらい、準備が整うと海の中に潜っていく。
初めて見た人は目を見はるが、赤沢では日常の光景なのである。

vol.30_02.jpg 椎名勝巳さんは、ハンディキャップをかかえた人にダイビングを指導するインストラクターとして、第一人者だ。
スキューバダイビングの魅力には、海の魚たちを見ることと、もうひとつ、無重力の浮遊感を楽しむことがある。「障害をかかえた人にとって、この無重力の海中世界こそ、バリアフリーなんです」と椎名さんは力説する。
陸上では鉛のように重い体が、水中ではふわりと軽くなる。足が動かない人は手で水をかけば、思い通りに動くことができる。重度の麻痺で足の指先だけがわずかに動く人も、その指先で海底を蹴って前に進めるのだ。
今から20年前、椎名さんはハンディキャップを持つ人に、初めて本格的なダイビング指導を行った。ともに障害を持つ夫妻で、夫は事故による脊髄損傷・下肢麻痺。妻は骨髄腫のため左足切断。
「テレビでアメリカの筋ジストロフィーの女性が海に入っているのをみました。ダメもとでいいからやらせてください」と直談判されたという。

vol.30_03.jpg 椎名さんはダイビング指導団体にも働きかけて、ダイバーの認定基準をひとつひとつ試行錯誤しながらクリアさせていった。 認定基準とは、水中でレギュレター(呼吸する器械)が口からはずれたときに自分の力でくわえ直すことができるか(レギュレター・リカバリー)、マスクに水が入ったときにその水を外に出すことができるか(マスククリア)などといったもの。健常者には簡単だけど、身体が不自由な人にとっては大きな試練となる。どうしてもできないときは、ダイビング機材を改造して乗りきることもあったそうだ。
そして、椎名さんの熱意は、とうとう夫妻にダイバー認定獲得を可能にすることができた。その後も、夫妻は椎名さんと、沖縄や海外の海でダイビングを楽しんだそうだ。

それ以来、脳性麻痺、脊髄損傷、脳血管障害など、さまざまな障害をかかえる人々に、個々に応じた指導、ダイビング機材の改造を繰り返し、これまでに100名以上のハンディキャップダイバーを育て上げてきた。
ダイビング歴8年のある女性(脳梗塞の後遺症を持つ)は、海に行かないと調子が悪くなるそうである。リハビリ施設は人だらけ。当然、うっとうしい人間関係もつきまとう。
海中ではそれがない。彼女にとって、海がリハビリの場。
自らウエットスーツを着たり、ダイビングブーツやグローブを身につけたりすることもリハビリ効果がある。医学的に実証されていないが、潜って体全体に水圧を受けることも体にいいようなのだ(記者もダイバーだが、ダイビング後に体がスッキリする)。

vol.30_04.jpg 椎名さんも、実は身体障害者である。十数年前、スキーの転倒事故で大腿骨を骨折して足が少し不自由になった。「まあ、重度の人に比べたら、横綱と幕下ほどの差がありますけれどね」と椎名さんは笑う。でも、以前より障害者の心の痛みがわかるようになったそうだ。
椎名さんは高齢者ダイビングにも目を向けている。
「障害者と高齢者は似ています。障害者には高齢者もいて、年齢に比例して体が不自由になるものです。オーバーラップしている部分が相当あります」
日本人の平均寿命は高いけれど、大切なのは健康年齢。
「還暦で仕事をリタイヤすることを考えている人がいかに多いか!仕事はもちろん、遊びにも定年はありません」という椎名さんは、若いころ深く学生運動に関わった反骨精神を今も持ち続けている。

「大切なのはDoing。Doを終わりにしないで、ingを持続させていくことです」
ハンディキャップダイビングの普及に力をそそいでいたら、「いつのまにか、日本で最高齢の現役インストラクターになっちゃった」という椎名さん。 常に前向きなASOBISTなのである。


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ウエルカム!ハンディキャップダイバー
椎名勝巳(著)
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車いすのカーくん、海にもぐる
丘 修三(著)











読み物 VIVA ASOBIST   記:  2007 / 07 / 01

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