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VIVA ASOBIST
vol.34:安江和宏
雪合戦に燃える男たちの熱い冬
【プロフィール】
陸上自衛隊少年工科学校卒業保育関係の販社経営・即応予備自衛官
高いところからロープ1本で降りたり、オートバイで長距離を移動する特技を持つ。
社是である「軍事力の平和利用」を実践している。
2007年1月27日、島根県浜田市旭町の体育館で行われた「雪合戦旭2007」の会場に、ひときわ異彩を放つチームが現れた。迷彩服に身を包んだ9人の男たち。この雪合戦大会にエントリーした、れっきとしたチームなのだ。
チーム名は「ちょっと特殊な作戦群(さくせんぐん)」。「軍」ではないので念のため。
率いるのは益田市内で教材販社を営む安江和宏さん。即応予備自衛官の准陸尉としての顔を持ち、インターネットのソーシャル・ネットワーキングサイトのmixiで交流のある自衛隊仲間に参加を呼びかけたところ、広島から2人と大阪から3人が駆けつけた。
大阪から参加の3人は、夜中に車を飛ばして試合当日の早朝に到着したばかり。「ちょっと特殊な作戦群」の宿営所となる県営住宅の集会所で仮眠を取り、私服から迷彩服に着替えて試合に臨む。
安江さんは数年前、自らホームページを開いていた。そこへ全国から「私も即応予備自衛官です」「現職の自衛官です」と、まるで磁石に吸い寄せられるように自衛隊仲間が集まり始めた。ホームページはすでに閉鎖されたが、仲間たちはmixiに移って交流を続けている。安江さんは年に数回、大阪や東京へ出張する。そんなときは当地の仲間が集まって安江さんを歓迎する席を設ける。安江さんをダシにして呑みたいだけかもしれないが、安江さんには人を惹き付ける不思議な魅力があるのは事実だ。
「ちょっと特殊な作戦群」のほぼ全員が即応予備自衛官で、ふだんはそれぞれに自分の仕事を持ちながら年間30日の訓練召集に出頭している。所属部隊もそれぞれに異なる島根・大阪・広島の混成チームだが、同じ志を持つ者どうし、遊ぶときの結束も強いのだ。
この大会には日本雪合戦連盟が定める公式のルールがあって、簡単に言えば相手チームが投げた雪ダマに当たったら「アウト」となり、コートから退場する。1回戦あたり3分で、最終的にコート内に残っている人数の多いチームの勝ち。若しくは相手チームの旗を取ったほうの勝ちとなる。
今年は暖冬で雪のない大会となった。雪はないけれど北海道で行われる全国大会の地方予選を兼ねているので、会場を体育館に変更して試合が行われた。雪の代わりに、籾殻を布で包んだ玉を投げ合う。今年は島根県の大会だけでも61チーム・600人余りが出場した。
「ちょっと特殊な作戦群」は今年が初参加なので、真剣勝負で本線を勝ち抜いて行く一般の部とは別のフレンドリーの部でエントリーした。第1試合の相手は欧米からの留学生で編成された「国際交流会チーム2」。ルールは、雪玉を当てられるとアウトになって退場する。最終的に生き残った人数の多いほうが勝ちとなる。もしくは相手チームの旗を取っても勝ち。
「ちょっと特殊な作戦群」は3回戦のうち2回戦とも相手チームの奥深くへ果敢に突撃し、相手チームの旗を奪い取って圧勝した。はじめうちは迷彩服の集団を奇異の目で見ていた観衆も、この戦いぶりを見て俄かに自衛隊ファンとなり「自衛隊ガンバレー」「匍匐前進見せてー」など熱い声援が送られた。
つづく第2試合では、アジア系の留学生を中心に編成された「国際交流会チーム1」が対戦相手。相手は同じ留学生チームが敗れているので、雪辱に燃えている。一方「ちょっと特殊な作戦群」には大会実行委員から「ぜひホンモノの匍匐前進を見せてください」との要望があった。本気で勝とうと思えば、匍匐ばかりやるわけには行かない。
「第1試合では勝ってるし、優勝を狙ってるわけじゃないから」というわけで、ここは広報として要望に応えることになった。
「よーい、はじめ」
主審のホイッスルと同時に「ちょっと特殊な作戦群」はその場に伏せて、一斉に匍匐前進を始める。観客からは「匍匐前進だー」「自衛隊いいぞー」と熱い声援がひときわ大きく響く。
1回戦と3回戦で旗を取られて試合には敗れた。それでも自衛隊に好印象を与えたこと、自衛隊ファンが増えたことに満足して「ちょっと特殊な作戦群」の熱い冬は終わった。
大会では勝敗のほかにも賞が設けられている。「ちょっと特殊な作戦群」は迷彩服で強烈なインパクトを与え、最優秀コスチューム賞を獲得した。大会の実行委員会からは早くも「来年もぜひ参加してください」と切望されている。安江さんは来年は「ちょっと特殊な作戦群」の人数を増やして2チーム編成にしようかと、今から構想を練っている。
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読み物 : VIVA ASOBIST 記:平藤 清刀 2007 / 11 / 01