VIVA ASOBIST

Vol.103楢崎智亜
2020年東京オリンピック・スポーツクライミング応援シリーズ―7―

2016年8月にIOCによってスポーツクライミングが追加種目として最終承認されてから1年余、日本のクライミングを取り巻く環境は大きく変わりました。TVその他、各メディアの注目度は日に日に増し、それによる社会認識の変化、認知度の高まりは目をみはるばかりです。 また、昨今の日本選手陣の華々しい活躍によって、さらに飛躍的な周知が得られるだろうとは想像に難くありません。 この素晴らしい変貌を歓待し、2020年東京五輪に於ける日本選手の目覚ましいばかりの活躍を心から応援するのはもとより、クライミング種目が成功を納め、世界のクライミング界の輝かしい未来につながることを心から願うものです。 そこで「VIVA ASOBIST」では「2020年東京オリンピック・スポーツクライミング応援シリーズ」と題し、日々研鑽を重ね続けるスポーツクライミングの選手やその周辺に焦点をあてて、ここに皆様にご紹介いたします。

 

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2016年世界選手権
 

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2016年世界選手権
 

 


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【プロフィール】
楢崎智亜(ならさきともあ)
フリークライマー
1996年栃木県生まれ。21歳(2017年12月現在)
【主な戦績】
■国内
2011年5月: JFAユース選手権 3位...14歳
2011年8月:第14回JOCジュニアオリンピックカップ大会リード 3位
2012年8月:第15回JOCジュニアオリンピックカップ大会リード2位...15歳
2013年1月:2012クライミング日本選手権リード2位16歳
2014年3月:クライミング・日本ユース選手権2014リード 3位...17歳
2015年2月:第10回ボルダリング・ジャパンカップ 3位...18歳
2015年3月:クライミング・日本ユース選手権 1位
2015年5月:全日本クライミングユース選手権ポルダリング競技大会 1位2016年3月:クライミング日本選手権 3位 ...19歳
2017年3月:日本選手権リード競技会 2位... 20歳

■国際
2012年8月:IFSC 世界ユース選手権 シンガポール 2012 リード4位...15歳
2014年6月IFSC クライミング・ワールドカップ (B,S) 海陽 2016(中国)ボルダリング5位...17歳
2015年8月IFSC 世界ユース選手権アルコ(イタリア)4位...18歳
2015年11月IFSC クライミング・アジア選手権 寧波(中国)4位
2015年12月IFSC クライミング・アジアユース選手権 (B,)プトラジャヤ(マレーシア)1位
2015年12月IFSC クライミング・アジアユース選手権 (S,)プトラジャヤ(マレーシア)3位
2016年4月:IFSC クライミング・ワールドカップ (B) 重慶 (中国)2位 ...19歳
2016年5月:IFSC クライミング・ワールドカップ (B) ナビムンバイ(インド)2位
2016年5月:IFSC クライミング・ワールドカップ (B) インスブルック (オーストリア)2位
2016年6月:IFSC クライミング・ワールドカップ (B) ベイル 2016(アメリカ)2位
2016年8月:IFSC クライミング・アジア選手権 都匀 都匀(中国)2位
2016年8月:IFSC クライミング・ワールドカップ (B) ミュンヘン (ドイツ)1位
2016年9月IFSC クライミング・世界選手権パリ 2016(フランス)1位
2016年4月:IFSC クライミング・ワールドカップ (B) 南京 (中国)2位
2016年5月:IFSC クライミング・ワールドカップ (B) 八王子 (日本)2位
2017年4月:IFSC クライミング・ワールドカップ (B) 重慶 (中国)2位... 20歳
2017年8月:IFSC クライミング・ワールドカップ (B) ミュンヘン (ドイツ)2位
2017年10月:IFSC クライミング・ワールドカップ (L) 呉江 (中国)2位
2017年10月:IFSC クライミング・ワールドカップ (L)廈門))(中国)2位

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@Rock&Wall
 


東京五輪フリークライミング応援シリーズ第7弾に登場は楢崎智亜選手。10歳からクライミングを始めクライミングをしながら成長し、筋力や柔軟性その他クライミングに必要な身体機能を知らずと身に着けてきたまさに「クライミングの申し子」が、五輪種目決定からのめまぐるしい変化の中でどう登り続けてきたか、2020年に向かってますます激化する競争の中でどう登っていくのか様々に伺った話しをご紹介しよう。



 

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@Rock&Wall
 


大躍進の2016
国中が歓喜した!世界が称賛した!
BWC年間チャンピオン!そして世界選手権、制覇!!!


ボルダリングワールドカップ2016年の年間チャンピオンが決定したと楢崎選手が知ったのは同じくBWCミュンヘン大会で決勝に勝ち進んだ時点だった。
「最高の瞬間でした」

華々しい戦績を残してきたジュニア、ユース時代を抜け、本格的にワールドカップ参戦をしようしていた時、迷いのようなものが生じていた。
2016年WBC第1戦目のマイリンゲン(スイス)18位、第2戦、加須(日本)15位と振るわない。思った成績がどうしてもとれなかった。
ところが第3戦目の重慶(中国)はいきなりの2位。誰が見ても楢崎選手のクライミングは「何かが変わった」と思わせるものだった。その後も第4戦から7戦目まで連戦2位と大進撃を見せ、ついに最終戦では優勝を果たした。
さて、その3戦と4戦の間に一体どんな天啓が降りてきたのか?!

「それまでは人にどう見られるか、スタイルをすごく気にしてました」
迷う楢崎選手に「がむしゃらに泥臭く登った方がいい」と声をかけたのがやはりワールドカップ参戦中だった野口啓代選手だった。
その一言で「気持ちが吹っ切れたら、クライミングも変わった」という。
自分らしいクライミングの感触を手中にし、最終戦ミュンヘン大会の決勝戦ではただ一人4課題完登で優勝。「今までの自分を超えるクライミングできた」と楢崎選手は述懐する。

破竹の勢いはとどまるところを知らずパリ(フランス)で開催の世界選手権でもアダムオンドラを圧倒して優勝。日本選手初の二冠達成。
「歓声の中で登ったファイナルは人生最高の瞬間でした!」
ミュンヘン後に発した「勝利宣言」を遂行した。

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2016年世界選手権の表彰式。楢崎選手は優勝
 

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2017年3月開催のTHE NORTH FACE CUPで。楢崎選手は優勝
 

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ADIDAS ROCKSTAR2017 表彰式。楢崎選手は優勝

 



どこまで進化する?!
クライミングしながら成長し
成長しながら進化してきた


のっぺりと抑えどころのないホールドでもランジして止めてしまう。ポケットに入った指1本を支点に次のホールドへ軽々と体重移動していく。
あたかも自在にホールドを乗りこなしていっているかのような彼のクライミングを指して海外のクライマーやメディア関係者の間では「ニンジャクライマー」「フィジカルモンスター」と称されている。
さて、そのスタイルはどのようにして培われていったのか?!「血のにじむような鍛錬と試行錯誤か」と誰しも思う。
が...
もちろん人並み以上の修練鍛錬があろうとは推測に難くないが、必ずしもそうとばかりでもないようなんである。

「小学生の時から好きなようにやりたいタイプでしたね。指導して型にはめるよりやりたいようにやった方が伸びるタイプ。小学生時代に既にランジ飛んでましたが、あえて自由にさせてきました」
と回顧するのは楢崎選手を小学生のころから指導してきた伊東秀和さん。最近の楢崎選手の活躍ぶりを我がことのように喜ぶ人の一人だ。

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ボルダリングジムRock&Wallのイベントでゲストクライマーとして
 


弟の明智さんは
「運動神経抜群で小っちゃい時からなにをやってもスゴかったですよ」
兄・智亜選手について、手放しで称賛する。もともと器械体操をしていた智亜選手はその将来を期待されていたほどだった。持ち味の身体能力を存分に活かしたキレの良い登りの所以に違いない。

*伊東秀和さん:自身もフリークライマー。トップアスリート。「ヒデスク」の愛称で知られるクライミングスクールを主宰し、楢崎智亜選手をはじめ弟の楢崎明智選手や野口啓代選手、野中生萌選手などトップクライマーの指導にあたる名インストラクター。http://itohide.com/
*楢崎明智選手:楢崎智亜選手の弟。同じくフリークライマー。国内外の大会でたびたび表彰台に上がっている。
http://www.asobist.com/yomimono/viva/20161130.php


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@Rock&Wall
 


「年齢性別、身長差にあまり関係なく、その人なりに楽しめ伸びていけるスポーツ」とクライミングの魅力を語る楢崎選手。小学生時代から周りの大人顔負けのクライミングを楽しむ姿が目に浮かぶようだ。
それまで親しんできた器械体操を止めたころ出会ったのがクライミング。先にクライミングに通っていた兄(楢崎選手は3人兄弟)の影響だったが、触れてみて、あれよという間に夢中になった。10歳の時。体操で培ったずば抜けた身体能力もあって、めきめき頭角を現していった。
中学、高校時代はクライミングに明け暮れた。つまり少年から成年へと成長していく過程で自ずとクライミングに必要とされる強靭な筋肉や柔軟な関節などが形成されていった。鋼のように強くて柔らかいクライマー身体こそがあの軽やかで美しいクライミングを生み出しているのだ。
高校卒業の岐路には迷わず「プロクライマー」の道を選んだ。

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@Rock&Wall
 


少年時代、中高生時代から今日まで継続してクライミングしてきた楢崎選手には大きな身体的特徴がある。「立甲」と呼ばれる、肩甲骨が立ち上がった状態を作り出せるということだ。このように肩甲骨や胸部の可動域が広いということが楢崎選手のパフォーマンスを最大限高めている。
トップアスリートと目されている人には立甲が作れる人も少なくないといわれているが、ここまで肩甲骨が立ち上がるケースは珍しい。楢崎選手の背中を見た人はまず驚かされる。その肩甲骨が想起させるもの、それはライオンやチーターの歩き姿ではないだろうか。驚いた後には納得する。「あの他には真似できない軽やかでしなやかで美しいクライミングムーブの所以」だと。

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見事に立ち上がっている楢崎選手の肩甲骨。Photo:A.Imamura
 


立甲が可能になると、肩甲骨や肋骨(脊柱)の可動性も拡がり、肩甲骨と肋骨(胸郭)を分化させた状態で使用できるようにもなる。同時に胸郭の可動性も拡がることで、胸椎の伸展も向上する。胸郭には横隔膜が付着し、その横隔膜には大腰筋が筋連結しているので、大腰筋が機能しやすい身体環境になる。結果ハイパフォーマンスを生み出せるようになるというのだ。

プロトレーナーとして楢崎選手を指導している千葉哲史さんは自身のブログでこう語る。
「智亜の肉体の次の段階がようやく見えてきた。変態的な動きに磨きがかかってきた。進化の匂いがプンプンしてきている。また、楽しくなってきた」
継続して千葉さんのトレーニングを受けることで、自身の体について新しい発見をすることがままあると楢崎選手。
さてこの先、楢崎選手がどこまで、どんな進化を遂げていくのか興味深いところだ。

*千葉哲史さん:自身もクライマー。フリーのプロトレーナー。野口啓代、楢崎智亜、渡部桂太、楢崎明智他クライマーを含め多種多様なスポーツのプロアスリートを多数サポート。全国各地でワークショップ開催、通称チバトレ。 renew-japan.com


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チバトレでトレーニング
 




クライミングが大きく変わる!
2020東京五輪に向けて本格始動
滑り出し、手ごたえ十分


2017年4月には国内初のスピードの競技大会が行なえる専用ウォールが東京・昭島市にオープン。「スポーツクライミング東京選手権大会」と「SPEED STARS 2017」のスピード競技会が2大会行われた。
10月には日本山岳・スポーツクライミング協会から、第1期オリンピック強化選手が発表され、楢崎選手もその一人に名を連ねている。(男女とも半年ごとに追加・入れ替えがある)

*第1期強化選手:男子は楢崎明智(18歳)、緒方良行(19歳)、是永敬一郎(21歳)、楢崎智亜(21歳)、藤井快(24歳)、渡部桂太(24歳)の各選手
女子は谷井菜月(14歳)、森秋彩(14歳)、伊藤ふたば(15歳)、野中生萌(20歳)、尾上彩(22歳)、野口啓代(28歳)の各選手


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@Rock&Wall
 


東京オリンピックの実施種目になっているスポーツクライミングは、リード、ボルダリング、スピードの3種目の複合成績で争われるのは承知の通り。ボルダリング、リードでは高いレベルを誇っている日本選手層にとってスピードは未知の世界。3種目コンバインド(複合)で世界制覇を目指すならスピードの攻略は必須。
楢崎選手にとってもスピード種目を含む複合を制することは大きな課題であることは間違いない。2017年はその課題をクリアすべく楢崎選手のチャレンジ始動の年になった。
楢崎選手は幸先よく10月のIFSCクライミングワールドカップ呉江・中国大会で自身初のリードで準優勝すると、11月に発表されたスピード日本ランキング2017では弟の明智選手に次いで2位にランクイン。IFSC(国際スポーツクライミング連盟)が発表した2017年クライミングワールドカップのシーズン成績によると、複合で優勝するなど、滑り出しは好調だ。

*スピードランキングは11月開催されたチャイナオープンでの記録、楢崎明智選手の7秒37、智亜選手7秒71、藤井 快選手7秒98の記録を基としている。
*日本山岳・スポーツクライミング協会は、スピード種目の強化プロジェクトとして各選手のベストタイムを基にした「スピード日本ランキング制度」の導入し、2018年に開催される複合種目に派遣する日本代表の選考材料となる。


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@Rock&Wall
 


東京五輪まで残すところ2年になる2018年、選手枠を巡って国内外の競争が激化してくるとは予想に難くない。

「スピードのタイムを縮めていくことは大切ですが、ボルダリング、リードともいつどんなときでも自分の最高のパフォーマンスができるようにコンディションを作っていくことが大切だと考えます」
コンバインドの強化についても、楢崎選手の胸中には既に構想が成立しているようだ。

2017年は優勝という華やかな成績こそないものの、コンスタントに活躍できた1年だったと自信を振り返り、リードW杯でも2度表彰台に上がることができたことで、さらなる高みが見えてきた。2018年は世界選手権連覇を一番の目標にしていきたいと自信を深めている。
もちろん2020年の目標は優勝。オリンピック第一号の金メダルを獲りたい!

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2017年11月 瑞牆 ©Ikuko SERATA
 













読み物 VIVA ASOBIST   記:  2018 / 01 / 01

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