VIVA ASOBIST

Vol.65 サントス・アントワーヌ&岡田愛
――贈り続ける"家族愛"、世界一を追求するパティシエ夫妻

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【プロフィール】
サントス・アントワーヌ(上)
フランス出身、パティシエ
フランス国内でのMOF(フランス国家最高職人)の称号を持つパティシエの店舗など最高レベルの修行を積んだ後に来日。現在は東京・千川にてお菓子教室・パティスリー『エコール・クリオロ』を運営、「糖尿病でも食べられるケーキ」など、独創的な作品を家庭に運び続けている。

岡田愛(下)
エコール・クリオロ店長
偶然の出会い、そして再会を経て結ばれたサントスシェフとともにエコール・クリオロを日々精力的に運営。「社内の雑用係(笑)」と笑うシェフの右腕。

サントスシェフの著書として『お菓子づくりでまよったら 』(柴田書店)

ホームページ:http://www.ecolecriollo.com/


 

 

「食」に対する楽しみを奪われるのはとても辛いもの。
それを取り返してくれたパティシエ夫妻に今回は登場いただこう。
糖尿病でもケーキが食べられる、そんな大発明家が千川にいる。
サントス・アントワーヌシェフと岡田愛さん、根底の"家族愛"を、さあ読んでくれ!




糖尿病でもケーキが食べられる! その誕生秘話

――この『エコール・クリオロ』さんは以前、中目黒店の店長さんに『BigUp』コーナーに出ていただいたご縁があるのですが......

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岡田●そうなんですよね。ありがとうございました(ニッコリ)。
――そのとき、ホームページで"糖尿病を患っている方でも食べられるケーキ"というのを拝見し、今日は千川までお会いしに来た次第です。
サントス▲ありがとうございます(ニッコリ)。
――ケーキの画像......いや、いま実物をお店でも拝見しましたが、姿形からしてすごく美味しそうです。そして実際に......私どものスタッフには糖尿病と付き合っている者がおりまして、彼も美味しく食べ、そして糖尿病ではないご家族も「甘さ控えめで美味しい」とのことでした。
岡田●ありがとうございます。それはよかったです。
――たとえば調味料の減塩のものなど、あまり美味しくないですよね。それだけに嬉しい驚きでした。
サントス▲ちゃんとお医者さんの「このケーキは食べても大丈夫です」というお墨付きをいただかないとダメですからね。
岡田●自分たちが「食べても平気ですよ」と言うだけではどうにもならないですからね。
――とかく、健常者の側に立つと忘れがちな視点かと思うのですが、そもそも糖尿病の方でも食べられるケーキを作ろうと思われたきっかけはなんでしょうか?
サントス▲(岡田さんを見て)話してもいいかな?
岡田●うん、いいよ。
サントス▲もともと彼女が糖尿病なんです。
岡田●私がI型の糖尿病なんです。で、それがわかったときから彼は「作りたい」ってずっと言ってくれていたんです。で、実際に作ってみても、さっきもお話ししたとおり、自分たちが「食べられますよ」って言っているだけじゃなにもなりませんよね。そう思っているときに糖尿病専門医の山田悟先生からも「糖尿病患者でも......」というお話をいただいたのですね。
――岡田さんは以前、チョコレートを扱う会社にお勤めされていたとうかがいましたが、そのときは糖尿病は......。

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岡田●まだ発症していませんでしたね。わかったのが10年くらい前のことで、バイクで事故に遭ったときにわかったのですね。
――ご家族が病気だったということも一因として、こんな素晴らしいケーキが生まれたわけですが、実際の反響などはいかがでしょうか?
岡田●やはり世の中のダイエット食品はイマイチなものも多いですからね、ありがたくも「美味しかった!」と言っていただけますし、「新しい商品も作ってください」というのも多いですね。
サントス▲なので、コーヒーとバニラの第2弾を作りました(ニッコリ)。
岡田●でも一度、「甘味料が強すぎる」というのもありまして......キシリトールとスクラロースという二種類を合わせて作っていたのですが、一台のホールケーキで合わせた甘味料が集中しているところがあって、そこを食べた方が「甘すぎる」となったのでしょう。キシリトールは甘くなくて、スクラロースは砂糖の約30倍も甘い。それを合わせて使ったのですが、スクラロースばかりのところがあったわけですね。
――ひょっとしたらもう一方はものすごく歯が丈夫になったかもわかりませんね(笑)。
岡田●いやいや(笑)。もちろんいまは改善していますので、安心して召し上がっていただけますよ。
――食の楽しみを奪われる、というのはとても辛いことですから、安心して食べられるのは嬉しいですよね。
サントス▲そうですそうです。やはりご家族やみんなで甘い物、食べたいじゃないですか(ニッコリ)。
 

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偶然の出会いと再会が繋ぐ、世界コンクール部門優勝への道

――よく聞かれることかと思いますが、日本では一般的に国際結婚というのはあまり多くなく......いや、単刀直入にうかがいますね。お二人のなれそめは......?

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岡田●ははは(笑)。えーっと、"なれそめ"というのは......(通訳中)
サントス▲ハハハ(笑)。それは......ドウゾ(笑)。
岡田●ははは(笑)。どうぞ(笑)。
サントス▲まあその......最初はですね、レストランで"フランスの会"があったんです。フランス人と日本人と一緒に食事をして......という会なんですが、そこで会ったのが最初ですね。
岡田●料理人がメインの会なんですけれども、私は当時ワインの営業をしていて、フランス人のシェフから会を紹介してもらったんです。ちょうどそのときに彼も来ていたわけです。
サントス▲そのときにいろいろと話をして、彼女が三軒茶屋に住んでいて、私もちょうど三軒茶屋だったんですよ。なので「一緒に帰りませんか?」と。
――ほう(笑)。
サントス▲「いや、いいです」ということで(笑)。
――わはははははは。
サントス▲まあじゃあ仕方ないな......と思って、それから2年が経ちまして......
――「two years later」ですか(笑)。
サントス▲先ほども出ましたが、彼女はチョコレートのメーカーにも勤めたのですが、そこ、私の勤め先だったんですよ。で、2年前に会った彼女が偶然やってきた。「これで今度は逃げられないな......」って(笑)。
岡田●はははははは......。
――ということは、サントスさんはフランスの会のときから......
サントス▲そうですね(ニッコリ)。
――うらやましいお話ですが、その偶然お目にかかった縁で、いまここにお店があり、お話をうかがっているのですから、感謝しないといけませんね。
岡田●ありがとうございます。
――さて、お二人で活動されていくなかで、09年にサントスさんは「世界パティスリー2009」というコンクールでフランス組のキャプテンをされていますよね。
岡田●はい、そうですね。
――日本にいてもフランス本国までその名前が轟いておられる......。
岡田●まあ、もともとフランスでコンクールの優勝経験などもありますし、パティシエの知り合いもいっぱいいますから、知られてないかといえば知られていますよね。ですが、この大会は日本で開催されたというのも大きいと思います。
――なるほど、"地の利"というものですね。それにしても、いつもケーキが食べられる日本人としてはもちろん、フランス本国も嬉しいでしょうね。優勝されたわけですし。
岡田●あ、いや、全体では2位だったんです。シェフは"味覚"部門を担当していて、それは優勝だったんですけれどね。
サントス▲そうです、全体では2位でした。勝ったのは日本だったんですよ。

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岡田●"味覚"のほかに"チョコレート"と"飴細工"の部門があったんです。
サントス▲私たちのチーム、"チョコレート"と"飴細工"は少し考えすぎでしたね。大会にはテーマがあって、「エコロジー」がそれだったのですが、飴細工では"女の子がメッセージを送る弓"、チョコレートでは"それを受ける的のようなもの"を作ったのです。
岡田●少し説明しますと、飴細工のほうは「きれいな環境の世界からのメッセージ」で、チョコレートは「汚れてしまった文明社会」を表して、弓でそれを破壊するという......。
――なんかその、難解なフランス映画のようです(笑)。
岡田●ははははは。そうですね(笑)。
サントス▲で、日本のチームは普通に「お花」を作りました。もちろんとてもきれいなお花で、それで優勝したのですね。
岡田●そう、ホントにきれいなお花でしたよ。
サントス▲それに繋がる話ですが、シンプルなのがいちばんなのです。いろいろな材料や味を使うというのは自信がないからですし、味自体もおかしくなってしまう。
――皮の中にクリームが入っているとか、クリームとイチゴだけ乗っている、みたいな感じですかね。
岡田●そうですね。まあ、コンクールの話ではそうでして、三人で意見を合わせて作るというのは難しかったようですね。シェフも含めて個性のある方ばかりでしたから(笑)。
サントス▲ははは、難しかったですね。
 

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世界一のパティシエへ、千川に輝く"家族愛"

――たとえば新しくできたコーヒーとバニラのケーキであるとか、来月のお菓子教室のテーマを考えるであるとか、毎日毎日で新しい発想をしていかなければならないお仕事かと思いますが、あえて10年後や20年後を見据えての目標などありますでしょうか?

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サントス▲それは"夢"ということになるのでしょうが、夢は「世界一のパティシエになる」というのがずっとあります。誰にも負けないパティシエです。
――はい。
サントス▲新たにお店を増やすつもりはもうまったくないんです。お店を増やすと自然に無理が出てきますよね。目が届かないところも多くなってきますし。最高の物を毎日お届けするためには......我々の仕事で、最高に美味しい物を作るのはそんなに難しいことではないと思っています。それを毎日、毎日"同じ物"を出すのが難しい。
――はい、それはそうですね。
サントス▲その日その日のフィーリングであるとか......たとえばスポンジを焼く人が今日は焼きすぎてしまったとか......いいレベルをコンスタントに出す、それは作り手も接客も同じでして、それが出来ればいいお店になる。
――そのときに美味しい物は作れるかもしれないけれども、それが毎日出来るということが世界一へ繋がる道なのかもしれませんね。
岡田●人によって感じる味覚も違いますからね。夏はお砂糖を減らしたりすることも考えますしね。
サントス▲そうですね。本当に難しいと思うのは、4年ほど前のレシピはもう使えないのですよ。みなさんも我々の味覚も変わっていますし、そこを常に追求しないといけない。
――人だけでなく地域によっても味覚は違いますしね。たとえば私などは外国のチョコレートがとても重く感じるのですが......。
サントス▲それは文化の違いにもなりますよね。私のフランスにいる姪の話ですが、昔からカカオ70%のチョコレートを親から食べさせてもらっていたら、もう少し低い50%くらいのチョコレートを「美味しくないからいらない」と食べませんし。
岡田●ただ、フランスも軽い物が広まっているようで、2年前にフランスに教えに行ったケーキは、「すぐこれを店に出す」となってフランスでもヒットしたのですね。日本だけでない味覚にはなっているようです。
サントス▲そういうこともありますが、味覚は日本人がいちばんだと思います。なんと言いますか、いろいろと「細かい」、「繊細」ですよね。食感にしても"モチモチ"であるとか"サクサク"であるとか......フランスの料理はおいしいのですがやはりどこか重いのですよ。これが軽めであると食べやすいし、やはり繊細です。私はだから日本の味覚はいいなあ......と思うのですね。
――そのフランスにお教えに行ったお菓子がフランスでウケるというのは嬉しいですね。世界一というのは「どこの誰が食べても美味しい」という要素も必要ですからね。

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岡田●そうですね。
サントス▲はい、そうですね。私も日本に来ていろいろと彼女に教えてもらい、いろいろな物を食べましたから味覚もドンドン細かくなっています。それはドンドンケーキにも活かされていますから、もし日本に来られなかったら、いまのケーキは作れていません。私は24歳のときに日本に来ましたが、そのときはあまり頭が柔らかくなかった。
岡田●いまは柔らかいですよ。シェフの中には「これだ!」と言って聞かない人も結構いますけれども、人の話を聞きますしね。
サントス▲最初日本では、フランスのレシピのままのケーキを作っていたんですよ。日本人のパティシエのショーケースと私のショーケースがあったのですが、夜になるといつも私のケーキが残っている。それがショックでしてね。そこで「日本で売るには日本人が好きなケーキを作らないと」と気が付いて、それまでのレシピを全部捨てて、新しいレシピを作り始めた。それが出発点ですよね。
――ここまでうかがっていると、「ご家族」あってのエコール・クリオロですね。奥さんとの出会いと糖尿病でも食べられるケーキの誕生、そしてお菓子教室で学んだケーキをご家族に持って帰る生徒さん......。
おふたり●うん、そうですね(ニッコリ)。
――いつまでもいろいろな「ご家族」の幸せを叶え続けてください。どうもありがとうございました。
おふたり●はい。ありがとうございました。

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構成・松本伸也(asobist編集部)

 











読み物 VIVA ASOBIST   記:  2012 / 04 / 23

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