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VIVA ASOBIST
Vol.77 瀧倉修
――チョコレートに魅せられし賢人、そのこだわりの先にある"世界"
【プロフィール】
瀧倉修
徳島県生まれ、ショコラティエ。
Chocolat Factory『O'o.Tt(オッツ)』代表
和三盆を使用したオリジナルチョコレートの製造販売。
個人事業で立ち上げて通信販売でHPにて販売。
個人のギフト向けの詰合せの他、会社向けにオリジナルチョコレートなども製造。
2009年11月オッツとして届け出、12月から販売スタート。
オッツのオリジナルショコラは、ショコラティエ瀧倉修が、人工添加物・着色料は使用せず、生まれ故郷・徳島県の名産品『和三盆糖』をはじめとする自然素材を用いて作り上げる上品で特別な一品である。
店頭販売も2013年4月からスタートする。
Chocolat Factory『O'o.Tt(オッツ)』HP:http://www.oott.jp/
こだわりの厳選素材「和三盆」を使ったチョコレート !! |
ショコラティエ、それはチョコレートの職人
――瀧倉さん!
瀧倉●はい、どうぞよろしくお願いいたします。
――以前「BigUp」に登場いただいた際、ものすごくチョコレートに対しての愛情を瀧倉さんから感じました。それで今日はやって来てしまった次第です。
瀧倉●ありがとうございます。
――そもそも瀧倉さんはどうして「ショコラティエ」になろうと思ったんですか?
瀧倉●そうですね......ひとつひとつ直感的に選んで辿り着いた結果です。
――直感的?
瀧倉●なによりもチョコレートが好きだったのが始まりですね。
――ご家庭のクリスマスケーキがチョコレートだった、と「BigUp」でも答えていただきましたが、一般的にはショートケーキのイメージですよね。
瀧倉●そうですよね。「普通の」とまで言ってはいけないと思いますが、"一般的"にはショートケーキが多いと思います。それが私の家ではチョコレートケーキだったというのはありますね。あ、それと"セイキョウ"でしょうか。
――セイキョウ?
瀧倉●はい。生協......「生活協同組合」で母親がお菓子用にチョコレートを買っていて。それを食べてすごく美味しかった。美味しすぎたおかげで食べすぎて、逆に食べられなくなったなんてこともあります(笑)。
――それはすごすぎです(笑)。
瀧倉●三日くらい食べ続けたんですよ。1キロぐらいある板チョコを。
――—食べ過ぎですよー。
瀧倉●いわゆる製菓用のものですが、それだけに"チョコレート感"が市販のミルク板チョコなんかよりもあるんですよ。プロ用みたいなチョコレートが常に家にあって、クリスマスにはチョコレートケーキだった......いまになって思えばそれが好きになったきっかけかもしれません。
――チョコレートが日常生活の中にあった、ということなんですね。おまんじゅうだったらいまは和菓子職人さんだったかも......。
瀧倉●そうかも知れません。僕もそんな説明をしたことないのですが、家族にしてみればなんで僕がショコラティエを始めようと思ったのか、よくわからなかったと思います(笑)。
――ご家族も疑問のままかも(笑)。
瀧倉●身内に限らず、お客さまにしたってそうだと思いますよ。「なんでこの人、チョコレートだけの職人さんなんだろう......?」って感じではないでしょうか。
最初に"直感的"と言いましたけれど、仕事にしようと至ったのは、流れの中で単に美味しい以上の特別な魅力をチョコレートの世界に感じてきたからなんですよ。それは歴史や文化とも関わっているからでしょうね。「チョコレート」という呼び名に対して「ショコラ」というフランス語は、日本人からすると特別高級な分類に感じませんか? それはチョコレート......ショコラがヨーロッパで誕生した文化というのが大前提にあります。そんなショコラを専門にしたのがショコラティエですね。
――それにしてもなぜ瀧倉家ではチョコレートが主流のお菓子だったんですかね?
瀧倉●もともと僕が生まれて間もなく父親の転勤でフランスに行きまして、2年間フランスで暮らしていたんです。これは僕がチョコレートについての勉強を始めてから知ったのですが、チョコレートのショップがフランスのパリに集中しているのです。そのおかげでチョコレートは身近な存在であり、愛着を感じられるようになったと思います。「特別なもの」でありながら、思い返すといつも側にチョコレートがいたんですね。
――フランスにいた2年間の影響で、ご家族も知らず知らずと甘い物ならチョコレートが普通になっていたんですね。
「自分だけのものを作りたい、そして喜んでもらいたい」
――瀧倉さんがショコラティエになるきっかけのひとつに、「バレンタインデーのお返しを手作りした」というのもありますよね。
瀧倉●喫茶店で働いていたときの話です。仲間とも非常にうまくやっていた職場でして、市販されているチョコレートなどを使いつつ、本を見ながら作りましたね。
――男性が手作りのお返しをするというのが単純にすごいと思います。
瀧倉●冷静に考えると唐突でしたね。僕は誰かにプレゼントなどしたことがほとんどなかったのですが、バレンタインデーのときなどに職場の女性がいろいろ手作りされているのを見て、どうせなら僕もなにか作って持っていきたいな、と思いまして。もともと工作などが好きで「自分で作ろう」、「自分だけの物を作りたい」という気持ちは強いほうなんです。
――市販されているお菓子をお返しするという選択はなかったのですか。
瀧倉●はい、そうですね。それではつまらないと思いました。意気込んで「作ろう!」とまでは思わなかったのですが、ありきたりのモノではなく、特別なモノをあげたかったんです。「喜んでもらいたい」という気持ちが「作ってみたい」に変化したのですかね。あ、そのころからですね。喫茶店から独立して......そのころはまだチョコレートとは言い切れませんでしたが、自分のお店を持ちたいという願望も持ち始めました。
――「喜んでもらいたい」......「O'o.Tt」のホームページを拝見していると、「プレゼントする喜び」に対する瀧倉さんの情熱が伝わってきます。
瀧倉●ありがとうございます。
「人へのプレゼント」という興味は、身内の結婚などと関係があるかも知れません。ずっと一緒にいた訳ではないのですが、結婚という出来事が"家族"という存在を改めて意識することに繋がったのだと思います。
――絆ですね。
瀧倉●そのときに初めてプレゼントしたものが小さな観葉植物ふたつでした。高価なものではないですが、とても喜んでくれたんです。
――はい。
瀧倉●その結婚式の時期がちょうどホワイトデーの時期でもあったんです。それでホワイトデーのお返しのプレゼント選びにも、「人にプレゼントする」という特別な思いを込めるようになったのかもしれなません......この辺の心情は、いまインタビューをしていただいて初めて客観視できたと思います。
――オーダーメイドについてもこだわりがありますよね。一度は「O'o.Tt」の商品を食べて感想を言ってもらって......とホームページにあります。これはオーダーメイドのお菓子を自分で食べる人はもちろん、誰かにプレゼントをするという際にも「いちばん喜んでもらえる」物を瀧倉さんが作るため......と感じたのですが。
瀧倉●そうですね。オーダーメイドが難しいのは、限られた時間や予算の中で作らなければいけないということです。1回注文をしていただいたお客さまだと、用途や内容の把握がスムーズにできます。
――はい。
瀧倉●お客さまは何を望んでいるのか......味のバランスだったり様々あるわけですが、細かいところを詰めやすい。一度召し上がっていただいているというベースがあれば、お互いに一方的にならずに済むので、要望に合った最高のものを作れると思うのです。
チョコレート作りの基本のキ、それは“テンパリング”
――瀧倉さんと「O'o.Tt」の話をうかがってきましたが話を少し戻しまして、そのホワイトデーの手作りプレゼントなどを経て、ショコラティエの道を歩き始めたんですね。
瀧倉●そうなりますね。もっとチョコレートの勉強をしようと思って、カナダで運営している通信制のチョコレート専門学校で勉強を始めました。日本にはお菓子の専門学校はたくさんありますけれど、チョコレート専門の学校がなかったんですよ。
――そお菓子やそれを含めたお料理の学校はありますけれどね。
瀧倉●実を言いますと日本でも6カ月間のチョコレートのコースがある学校を一箇所見つけていたんですけれど、僕が申し込みに行ったらなぜかなくなっちゃいましてね。「すみません、アレ人気がないようでして......」なんて慰められましたけれど(笑)。
――わっ、残念。
瀧倉●コンテストで世界一を取った先生がやってるコースだったんですけれどね(笑)。それでまあいろいろ探していきましたら、カナダのスクールが見つかったわけです。
――カナダの学校ということは言葉は......
瀧倉●英語です。なにせカナダですから(笑)。僕はたまたま英語が好きだったのでなんとかなりましたけどね。入学する意思を伝えた上で、まず校長先生にいろいろと質問をしました。将来的にカカオから仕入れて作りたいのですが、それにはどうしたら......?とか。その辺りから一生かけてショコラティエの道を極めたいという覚悟を持ち始めましたね。
――英語でのやり取りの困難さとはまた違って、好きなものを極めようとするとその難しさが際立ちませんか。
瀧倉●はい、それは。勉強を始めて「これはなかなか難しい世界だな......」と思いましたが、逆にそれで、この道を極めたい、挑戦したいという気持ちが強くなりました。その気持ちはいまでも変わりません。
――ところでチョコレートの学校ってどんな勉強をするんですか?
瀧倉●もちろんカリキュラムがあります、英語で(笑)。チョコレートの勉強を独学で始めてから自分なりに作業をしていた時期もあったのですが、それでもわけがわからないんです。溶けたり固まったりするということが(笑)。
――えっ?
瀧倉●そんなのすごく普通のことのようですけれども、それが理解できない(笑)。これはお菓子作り全般に言えるのですが、化学的な知識が必要なんです。たとえば"テンパリング"。これはチョコレートでいちばん出てくる単語ですが、いわゆる"温度調整"です。
――つまり温かくなったら......。
瀧倉●溶けますし、冷たくなったら固まります。ただ、同じ"固まる"と言っても、温度の下がり方によっていろいろな固まり方のパターンがあるんですよ。固まる際の結晶の種類には五つあり、その状態を見分けて管理します。それによって口溶けなどが違うものになるわけです。
――たとえば同じ大きさの四角い板チョコを作っても、温度の下げ方によってはまったく別のチョコレートになったりするんですね。
瀧倉●「なったりする」のではなくて「なります」。同じ"茶色の四角い物"でも"別物"なんです。口溶けや食感などは全部味に関連してきますから、味も風味も変わったものになります。そんな目に見えないところで左右されるわけですから、温度管理の知識が絶対に必要なんです。
――プロの仕事は大変だ。
瀧倉●「一回50度まで上げて、28度まで下げて、それから31度にまで上げて、31度から32度の間で固める作業をしなければならない。33度まで上がったらアウト」というのが絶対的な基礎です。
――そ、そんなことまで管理しないといけないんですか。何も考えないで作っていました(笑)。
瀧倉●それはそうですよね(笑)。でもテンパリングというのはチョコレートを学ぶ上で基本的な理論のひとつです。何度も失敗と成功のパターンを様子見ながら勉強します。それらを実習しながら学ぶわけです。
――たしかに絶対に必要な知識ですね。
瀧倉●学校で出しているその他の最新情報なども非常に多くて、たまにそのときの教則本を読んでみようと思うのですけれど、段々と英語を忘れていってしまって読めなくなってきているのが残念ですね(笑)。いずれにしても主体的な研究はずっと必要です。
世界唯一、砂糖にこだわるチョコレート職人が選んだ「和三盆糖」
――瀧倉さんが作られるチョコレートの特徴のひとつに、徳島県産の「和三盆糖」の使用があります。
瀧倉●はい。僕は生まれが徳島県でして、小さいころに"お干菓子"......お干菓子ってごぞんじですか?
――水飴と砂糖などを練って型抜きした、いわゆる"落雁"とかですよね。
瀧倉●そうですね。和三盆糖を使用したお干菓子がもともと大好きだったので、チョコレートを作りたいなと思い始めて徳島に戻っているときに和三盆糖を使うことも思いつきました。
――和三盆糖もいわゆる"お砂糖"ですが、他のお砂糖、"上白糖"などを使う考えはなかったのですか。
瀧倉●いろいろ試行錯誤はしてきました。最初のころはレシピ通りに普通の砂糖や転化糖でチョコレートを作っていましたよ。僕自身、和三盆チョコレートを"旗印"に掲げることはコスト的なリスクがとても大きいなと感じており、和三盆糖を使うことは"踏み絵"のようなもので、生半可な気持ちで使える素材ではないのはわかっていました。それでも大丈夫か、事業を始めて最初の年末年始に和三盆糖でチョコレートを試しに作ったんです。そうしたらまだ方法論もわからず、手先を怪我して大晦日の真夜中に救急病院に診察されて年を明ける羽目になりました。
――それはすごい......。
瀧倉●これでは生産するにも先が思いやられるなと思ったのですが、でもほんの少しだけ出来たチョコの味に我ながら本当に感動したんです。それからはとにかく毎日ワクワクでして、これは完成させる価値が絶対にある、そう確信して和三盆のチョコレートに切り替えました。客観的に見れば完全な見切り発車でしたが(笑)、和三盆糖は僕に最高の夢を与えてくれたお砂糖です。
――お砂糖としての違いはどんなところにありますか?
瀧倉●品種については、在来種である「竹糖」という細いサトウキビから作られます。生産量も少なく、人の手で作るので非常に手間もかかります。
――高価なのがそれだけでわかりますね。
瀧倉●そうですね。先ほども申し上げたとおり、コストが高いのであまり商売向きでないのはたしかです。
――どれくらいですか......。
瀧倉●10倍くらい......。
――じゅ、10倍......。
瀧倉●はい......(笑)。ですが、日本でもチョコレートがだいぶ定着しつつある今、商品としての価値はもちろん、和三盆糖の新たな発展に繋がる提案にもなればと思っています。
さて味わいですが......サトウキビからお砂糖を作る際、いわゆる「白糖」にしますと、"風味"というものが消えてしまうんです。手作りの和三盆糖は少し黄色みがあり、人の手で作るので風味が残るんです。それと"蜜分"がごく微量ですが残っていて、それが文字通りとろけるような口溶けとなります。儚い感じです。
――儚い、というのはいいですね。
瀧倉●風味はとても上品です。黒砂糖ですと濃くて強い風味がありますが、和三盆糖の場合は手作業で丁寧に完成させるため、とても洗練されています。後にくどく残らないスッキリとした上品な味に仕上がります。最高純度な和三盆は上品なテロワール(ワインなどの用語で、ブドウ畑の土壌や気候などの個性を現す)を感じさせるもので、加熱しない純正チョコレート商品に使用しています。
――ホント、いいとこどりですね。
瀧倉●はい。後味がいいか悪いかというのは印象に関わってくる、とても大事な要素です。後味の印象は食べ終わったときに、次にまた食べたいかどうかを左右する要素でして、お客さまの次への期待にも繋がります。
――たしかに一口目よりも食べ終わってからの後味のほうが重要かも。
瀧倉●白砂糖とも違う、黒砂糖とも違う......単なる甘味ではなく、素材として考えたときに最高のお砂糖、それが和三盆糖なんです。
――食べていただくと直ぐに分かるので、みなさん「O'o.Tt」のホームページにいまここからアクセスしてください(笑)。
瀧倉●素材ということで言いますと、チョコレートを作るならばどこのメーカー、作り手でも素材として「カカオ」にこだわるわけです。
――あっ、そのイメージはあります。
瀧倉●100社、100人いたら全員がそうでしょうね。ただ、砂糖にこだわっているところはほとんどないと思います。オーガニックの砂糖を使っているというメーカーさんはありますけどね。......しかし、なぜカカオに徹底的にこだわるショコラティエが素材としてお砂糖にこだわらないのか? 僕はまだ未熟ですが、そもそも新しい価値の提案を作り出したくて独立を目指しましたし、チョコレートへ和三盆糖を用いることは「O'o.Tt」の原点であり、象徴的な問いかけなんです。
――確かに、砂糖にこだわるという話は初めて聞きました。
瀧倉●カカオも素材ですが、言うまでもなく砂糖もチョコレートの中で主要な素材なんですよ。それが単純に甘味の調整のように使われていますが、サトウキビからできる自然で手作りの素材である和三盆糖を使えば、甘味の調整だけでなくもっといいチョコレートができる......そう思っています。
チョコレートと言えば……もちろんあるカカオやバニラへのこだわり
――もちろん、それだけのお砂糖を使っている以上、やっぱりカカオなど他の原料にもこだわりがありますよね?
瀧倉●それはそうです。お砂糖だけではないですからね。たとえば、僕が使っているメキシコ産のバニラビーンズは、一般的に甘味業界に出回っているものと比べると1.5倍は甘味成分が強いです。バニラの香りってみなさん想像ができるかと思いますが、香りの幅が広く、とても優しい香りを持っています。
――なんかお菓子を作るときに買ってくるバニラビーンズとは、文字通りモノが違いそうですね(笑)。
瀧倉●でも、あくまでそれは"こだわり"です。バニラビーンズの産地はマダガスカルを筆頭にタヒチなど有名ですが、産地などによってもそれぞれ個性が違います。なので作るお菓子の種類などにもよるので、どれがいいとは一概には言えません。
――珍しいメキシコ産ということは、あまり出回ってはいないのですか。
瀧倉●流通量はとても少ないのですけれど、チョコレートを作り始めたときにたまたま個人で輸入されている方と縁があって使わせてもらっています。
――良縁がありました。
瀧倉●先ほど砂糖との引き合いには出しましたが、チョコレートということではやっぱりカカオも重要です。カカオの産地と言えば......。
――ガーナ、ですか。
瀧倉●はい、やはりガーナやコートジボワールからの輸入量が多いですよね。それに関して少しお話しをしますね。
――お願いいたします。
瀧倉●日本では市販のチョコレートはいわゆる"ミルクチョコレート"が圧倒的に多いんです。それはカカオそのものを表現しているわけではありません。カカオが含まれているパーセントはごくごく少量。ミルクの間から少しカカオを感じられるものが日本人の好んできたチョコレートなんですよ。それはガーナ産の味を生かした配合です。
――はい。
瀧倉●たとえばもっとカカオを感じさせるチョコレートを作ろうとしたとき......たとえば僕もガーナ産のカカオで濃厚なガトーショコラを作ろうとしても、これがなかなかできませんでした。そうなったら素材ありき、ということで、もっともバランスの良いカカオを使用する......ということです。これも絶対論ではないので、マダガスカル産だけでなく、場合によって他の産地のカカオも使用しています。
――カカオにしても産地によって風味が違ったりするわけですね。
瀧倉●そうですね。マダガスカル産というのは酸味が多少あるのですけれども、それがキツくなくてまろやかであるとか......。酸味だけでもツンッとくるものから優しいものまで、産地によっても変化があります。......よくコーヒー豆を世界の至るところまで探しに行く人がテレビなどで紹介されますよね?
――"コーヒーハンター"みたいに言われる人ですね。人里離れた山奥の集落までコーヒーを求めて行ったり......。
瀧倉●そんな人がカカオでもいるんですよ。そんな感じでいろいろな産地のカカオがやってくる。それでまた今は開拓されない産地で新しい風味を感じれば、それを使ってまた別のアプローチをするかもしれませんしね。日本産のカカオもいちおうありますし。
――え、そうなんですか。じゃあ和三盆糖と日本のカカオでの国産チョコレートなんかも期待したいですね。
瀧倉●そこは素材ありきで考えますけれどね。そんな日も来れば楽しみですね。
日本の味わいを発信していく……待ってろヨーロッパ!
――日ごろ口にしているチョコレートの深い話にショコラティエ瀧倉誕生、そしてこだわりについてうかがいました。
瀧倉●今日はありがとうございました。
――瀧倉さん、今後の野望とか......。
瀧倉●や、野望ですか......(笑)。
――あ、理想とか夢、です(笑)。
瀧倉●基本はお客さまに喜んでもらうために、シンプルな研究を積み重ねていくわけですが、理想や夢はもちろん尽きません。
――はい。
瀧倉●パリに店を持ちたいですね。
――パリ!
瀧倉●あとカカオ農園も。
――農園!!
瀧倉●それと徳島の街を活性化させるような好循環にも繋げたいですね。そのために、本当に喜んでもらえる高いサービスが出来る企業の土台を作れるように成長していきたいと思います。
――聞いてよかったです、夢(笑)。
瀧倉●事業的にはライフワークとして取り組む創業期と捉えと、小さなチョコレートを通してこんなにいろいろな可能性を世の中に提案して「違い」を表現していければと思います。でも今はようやく中学校卒業レベルかな、と。それでも挑戦だけならばいくらでも出来るわけで、これまで感じた手応えを突き詰めていく過程にもなるかと思います。幸いにも高いモチベーションを支えてくれる各分野の専門家の方との出会いにも恵まれてきましたからね。
――私、パリのチョコレートが大好きなんで、お店ができたら行きます(笑)。
瀧倉●それはありがとうございます(笑)。それに関連しますが、いま僕は工房を作ってネットで販売や注文を受けていますが、やっぱり店舗が必要かな......と思うところはいまもうあるんです。
――はい。
瀧倉●全然場所は未定ですけれども、やっぱり海外にアピールしたいという思いはありますからね。和三盆糖を使っているチョコレートをアピールする、その場が必要かなと思っています。
――絶対に大きな反響、ありますよ。
瀧倉●チョコレートはもちろんヨーロッパから来ていますが、ヨーロッパの受け売りだけではないものを作りたいと思っています。たとえば......「ピエール・エルメ」ってごぞんじですか?
――はい。青山にもお店がありますよね。
瀧倉●"パティスリー界のピカソ"って言われているんですが、彼をあっと言わせるようなものをつくりたい(笑)。
――わっ。
瀧倉●僕も彼のお菓子はチョコレートを含めとても好きです。優れたお菓子はどこまで細かいレベルにフォーカスしてるかだと思いますが、彼の作るお菓子は本当に優れています。そこで、僕は日本人のアイデンティティを感じることができる"ジャパニーズテイスト"を表現したいと思うんです。
――はい。
瀧倉●先日岩手県の宮古市に行って来たのですが、そこに鮭の肝臓を塩漬けした「メフン」って特産品があるんです。
――明らかにクセのある食品ですね(笑)。
瀧倉●はい、"好きな人は大好き系"です(笑)。ちなみに一緒に行った地方を活性化させる活動をされている方は大好きでした。そのメフンをチョコレートに練り込んでみまして......。
――えっ、大胆 !!
瀧倉●地元の方もビックリでしたね。ですが「メフンのチョコ?」と言っていたみなさんも「おっ、たしかにメフンだ !!」って驚いてくれました。それとその帰りにお土産で買った「片面ジソ」......シソのチョコレートも作りたいなって思っています。その"片面ジソチョコ"は宮古市の商品として作りたいとも言っていただいていましてね。
――シソとチョコも......あまり思い浮かばないですね。
瀧倉●ピエール・エルメは青山で日本に発信しているわけですが、持ち味は違うなりに、逆に本場でも認めさせるような「新しい感覚を与える商品を作る」こと。チョコレート業界の歴史に画期的な進化の1ページを開くのが......そうですね、野望ですね。
――野望、ありがとうございます(笑)。
瀧倉●そういう前提で、和三盆糖をつくっている場所でもあるので、海外に発信していく場所が徳島県にあるのも素敵なことかもしれませんね。
――「ジャストシステム」以来の徳島発の大企業が誕生するかも知れません(笑)。それで県も街も発展したら素晴らしいですよ。
瀧倉●徳島の料亭出身の料理人は、すでに日本料理を海外に発信する素晴らしい活躍をしているんですよ。
――最後に瀧倉さん、ひとつ教えてください。
瀧倉●なんでしょう?
――いちばん好きなチョコレートの食べ方ってどんなですか?
瀧倉●それはですね......「パンに挟む」。
――パン?
瀧倉●生の食パンに板チョコを挟んでバリバリ食べる、これが子供のころからの大好きな食べ方ですよ。ほどよく温かいミルクで口の中で溶かしながら好みのバランスのミルクチョコレートに仕上げます。
――それでバリバリ食べて、たまに瀧倉さんのチョコレートを優雅に食べる。これって最高のチョコレートライフかもしれないっ。
瀧倉●はい。たまにと言わずときどきは食べてくださいね。
――あ、はい(笑)。
瀧倉●まずはお好みのチョコレート食べながら「O'o.Tt」のホームページものぞいてください(笑)。実は白金高輪の喫茶店で、ついに2013年4月から店頭販売もスタートしました!!
――わっ、ぜひぜひ白金で買って食べます〜。そうしたらもっと、このインタビューが響くと思う !!
瀧倉●よろしくお願いいたします(笑)。本当に今日はありがとうございました。
構成・松本伸也(asobist編集部)
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読み物 : VIVA ASOBIST 記:高埜 成美(asobist編集部) 2013 / 04 / 11