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【祝・世界選手権制覇】Vol.88 藤田雄大
――若き熱気球界の大エースが世界を征する日【日本人初】
【プロフィール】 みなさん熱気球、乗ったことありますか。
藤田雄大
1987年栃木県生まれ。熱気球パイロット
熱気球界で『世界のフジタ』と称された父・昌彦氏と幼少期より大会を転戦し、18歳で自らライセンスを取得。07年、20歳で初出場した日本選手権での2位以降、メキメキと頭角を現し、08年の世界選手権で7位、そして日本選手権では最年少優勝を果たす。12年、アメリカでの世界選手権では3位となり、日本人初の表彰台に到達。日本ランク1位、世界ランク4位の若きパイロットが世界の頂点に立つ日は近い。
バルーンカンパニーHP:http://www.balcomjp.com/
そしてその競技、ご存知ですか。
今回はその熱気球の競技での日本の第一人者、
世界を狙う若きエース・藤田雄大が登場!
みなさんに熱気球の魅力、教えます。そして世界一へ向けて、語ります。
さあ読んでくれ!
――今回は熱気球パイロットの藤田雄大さんにお話をうかがいます。こんにちは。
藤田●こんにちは(ニッコリ)。よろしくお願いいたします。
――今日は栃木県にあります藤田さんのご自宅にうかがっております。
藤田●こんなところまでありがとうございます(笑)。
――さて藤田さんは熱気球の競技におきまして、07年に初出場した日本選手権で2位、翌年は世界選手権で7位となったほか、史上最年少で日本選手権に優勝されています。
熱気球日本選手権の優勝カップとともに藤田●はい。
――そして12年の世界選手権では序盤はトップに立ち、最終結果こそ3位でしたが日本人初の表彰台をものにされています。そして日本でのホンダ熱気球グランプリは前人未踏の5連覇中……。とにかくすごい成績です。
藤田●ありがとうございます!
――すごい成績なんですが、なにしろ熱気球の競技はおろか、あまり身近に触れたことがないのが正直なところです。本当にまずの話ですが、熱気球パイロットとして藤田さんが考える熱気球の魅力とはどんなところでしょう。
藤田●魅力ですか……やはりみなさん空を飛ぶという憧れはあるかと思うのですが、実際に飛んでみますと日常では味わえない体験ができるんです。景色がいいのはもちろんですが、熱気球で飛ぶというのはとても静かでもあるんですよ。
――静か、ですか。
藤田●はい。地上からの音も聞こえなくなりますし、風と一緒に進んでいるので。たとえば飛行機だと気流を切り裂いて飛びますから“ゴーッ”とうるさくなるわけですが、気球は風とともに進んでいるのでとても静かなんです。それで上空にいるという開放感、そして非日常感。これが大きな魅力ですね。ぜひ一度乗ってみてください。
――私たちが乗ろうとした場合、様々な体験……藤田さん一家が活動されている「バルーンカンパニー」のHPでも体験の案内が出ていましたね。
藤田●はい。
――下から繋いでいて上空に行くものから、それこそ実際に飛んでみることもできるんですよね。これはまずはお問い合わせを、となりますか。
藤田●そうですね。期間限定、競技のシーズンではない12月から5月までにはなってしまうのですが、実際に体験していただくことが出来ます。おっしゃるとおり、見ることはあってもまだ飛んだことがあるという方は少ないでしょうから、ぜひ実際に触れてみて熱気球のことを知っていただければと思いますね。
――それで私たちも見聞を広めないといけませんね。熱気球で思い浮かぶのというと佐賀県でのバルーンフェスティバルくらいで……。
藤田●ああ、よくご存じですね。あの大会は日本で、といいますかアジアでもかなり大きな規模の大会で、世界中からも一流のパイロットが来るんです。本当に一大イベントなんですよ。
日本1位、世界4位。熱気球界のエースが語る、出会いとその魅力
――世界中の、というお話しがいま出ましたが、藤田さんも現在日本ランキング1位、そして世界ランキング4位の一流パイロットなわけですが、そもそもなぜ熱気球に……。
藤田●それはもう、父の影響ですよね。
――お父様の藤田昌彦さんは、日本選手権の優勝8回や、01年にスペインで行なわれた「ワールドエアーゲーム」で日本人として初の優勝を果たすなど、『世界のフジタ』と称されたパイロットです。
藤田●小さいときから父について回って、地上クルーとしていろいろ手伝っていましたからね。ただ、そのころはまだあまりパイロットになりたいとかは思っていなかったんですよ。
ただやっぱり実際に自分で乗ってみて、競技に挑戦したりしているうちに「お、これはやっぱり楽しいな……」ってなってきました。そうしたら父もドンドンと日本だけじゃなく世界でも好成績を挙げるようになっていたんで、その影響は大きいですよね。父は昔から「世界一を目指す」って言っていて、そのためにアメリカに修行に行ったりしているのも見ていましたし、それで実際に世界一になったスペインには僕も同行していましたから(ニッコリ)。
――それでもなにか“将来なりたい職業”とかなかったのですか。
藤田●うーん……。
――プロ野球選手とかでもいいですよ。
藤田●実はずっとサッカー選手にはなりたかったんですよ(笑)。
――おおっ、サッカーをやってらしたんですか。
藤田●いや、やりたかったんですけれどね。熱気球の大会に遠征となると、1カ月くらい学校も休まないといけなんですよ。そうなると個人競技はともかくチームスポーツは難しいんじゃないか……と、父にずっと言われていまして(笑)。
――お父様はなにか企みがありましたね、それ(笑)。
藤田●「水泳がいいんじゃないのか」って言われていました(笑)。
――『世界のフジタ』の息子さんがパイロットになるのは当然の帰結だったようですね。
『世界のフジタ』こと昌彦氏の背中を追ってパイロットへ藤田●そうですね。ただ、そうなると自分がパイロットになるわけですから、ひとりで乗って大会に出られる練習をしますよね。
――それはそうですよね。
藤田●いま思えば当然なんですけれど、“レベル練習”という水平に飛んでいくのからして難しい。いまもそこで活動しています渡良瀬の遊水池で練習をしたのですけれども、いろんなところで地上にぶつかりしました。「あれ、下手なヤツがいるなあ……」と思われていたはずです(笑)。
――どんな偉人でもこういう時期があるのは安心します(笑)。
藤田●それで最初に参加した大会はボロボロで、30基くらいが参加して26番……くらいだったでしょうか。
――えー、それに対するご家族の反応は……。
藤田●最初から期待してましたよね。オレの息子でオレが教えているんだから……って(笑)。それから3カ月くらい経っても上手くいかないので、もう長い目で見てゆっくりゆっくり……みたいな空気になったんですよね。そうしたらちょっと楽になりまして。そこで初めて出場した佐賀の日本選手権で2位になったんですよ。
――おお、そこに繋がって翌年には一気に優勝! 覚醒の瞬間ですね。
藤田●ははは。
――その後の活躍は先にお話ししたとおりですが、さて、そこでうかがいます。
藤田●はい、どうぞ(笑)。
――先ほどから私たちは何気なく「優勝」や、「世界ランキング」など競技に関する単語を使っておりますが、これまたそもそもの話、熱気球の競技とはなんぞや?ということです。
藤田●ははは、そうですよね。
――それでは、熱気球の競技について、日本でいちばん教わるべき藤田さん、お願いします。
藤田●基本的には「いかに正確に目的地に近づけるか」を争います。熱気球は左右の方向への移動はずべて風任せになりますので、自分の行きたい場所に行くのはすごく難しいんです。単純な言い方をしますと、上下動は熱の強弱で調整できますからそれで風を探して、大会側が設定した目的地、ゴールに近づいていく。それを一回のフライトの中で繰り返していって、最終的な総合得点で競います。
――目的地は1カ所ではなくて何カ所かあるのですか?
藤田●そうです。地上の何カ所かにいわゆる“的(ターゲット)”がありまして、そこに砂袋を投げ落とすことで正確性を競うんですね。ゴルフみたいな感じ、でしょうか。
――あ、なるほど。真上まで到達できれば楽なパットになるわけですね。
藤田●そうなります。ですが高さはどの高さから投げてもいいので、世界レベルになるとターゲットから数センチなんて争いになります。それなのでできるだけ地上に近いところまで降りていきたいところになるんです。
この紐の先に着いている砂袋をターゲットに投下する――乗り物の競技だとスピードを競うのかと思っていましたが、そういうわけではないのですね。
藤田●そうですね。競技自体の制限時間はありますが、確実な操作性を競う競技になります。
――地上で吹いている風もそうですが、上昇すると高度や場所によって吹いている風の向きや速さも違いますよね、当然。
藤田●はい。
――……それって難しそうですね……あ、いや当たり前ですが(笑)。
藤田●いえいえ(笑)。
――上空の風は上がってみるまでわからない、ということになりますもんねえ。
藤田●いえ、それはさすがに競技前に計測用の風船を上げてですね、上空の風の角度を出すんですよ。上空1200mくらいまで計測できるので、そのデータを活用しながら風を掴まえるんです。
――「風を掴まえる」……まさにそうですね。
藤田●まさしく。だからですね、みんながスタートする地点があって、大会側の方が「目的地は××です」としますよね。ただ風がまったく変わってしまったらみんな違う方向に行っちゃう、そんなこともあり得るんです(笑)。
――あら、それはそうですね(笑)。
藤田●もちろんそうならないように、経験豊富な大会ディレクターが目的地を決めるのですけれども、それでもどうにもならない場合もありますよね。ただ……
――ただ?
藤田●そんな条件下でも技術の差はありまして、地上の弱い風を捉えて粘って風が変わるのを待つとかですね。ドンドン離れていってしまう人もいるなかで、ちょっとでも粘って目的地に近づく……それが技術なんですね。
――まさに日本一の技術なのだと思いますが、先ほども出ましたが競技の時間というのはどれくらいなんでしょうか。
藤田●長くても2時間くらいですね。朝の6時くらいから8時までであるとか、逆に夕方前の1時間なんて場合もあります。
――ずいぶん早朝からの競技なんですね……。
藤田●そうですね、熱気球は朝が早いんです(笑)。まあ、朝凪、夕凪の風の穏やかな時間、と考えていただければと思います。ただそれでも条件が整わない場合もあって、それは風だけではなく雨ももちろんそうですよね。ただ、常に天候に左右される、風任せというのもそうですが、天候次第というのも逆に魅力だと思います。
――「風を掴まえる」ってやっぱりいい言葉です。
藤田●ありがとうございます(ニッコリ)。
――風によって取る進路が変わってくるということは、たとえばゴルフを例に取れば、“もう攻め方がわかっているホール”などもあるでしょうが、仮に1年後の同じ大会で同じ目的地が設定されても、同じ攻略ができるとは限らない、むしろ別物ですよね。
藤田●基本的にはそうかもしれませんが、ただ「地の利」ってのはあると思います。
――ありますかっ!?
藤田●やはり地形図を知っているのは大きいですよ、風がどう吹くかを知るのは。たとえば川があった場合、「下の方には“川風”が吹いているかも……」と考え、読む必要がありますが、一度経験しているのは有利になりますよ。
――なるほど。
藤田●ただ、同じフライトが二度とないのは本当にその通りで、それは熱気球のやはり大きな魅力ですね。
高度4000mを越えていく世界レベルのパイロットたち
――競技会などではおよそどれくらいの高度まで上昇するのですか。
藤田●そうですね……日本ですと1000mくらいで、世界選手権だと3000mくらいでしょうか
。――3000m……(驚)。それって大丈夫な高さなんですか。
藤田●えっ? それより高い富士山に人が登っているわけですから……(笑)。
――あ。それはそうですね(笑)。
藤田●富士山越えも条件が合えばできますよ。まあ富士山上空の風は山に登られている方ならご存じの通り、その条件がなかなか合わないのですけれどね。たとえば父も私もヨーロッパアルプスを越えるフライトをしていますが、チャレンジとして4000m以上の高さに行くこともありますよ。
――単純に“上のほう”にいるのは“下のほう”にいるより大変なんでしょうか。
藤田●3000mくらいであれば……それなりに肌寒い、というところでしょうか(笑)。昨年参加したアルプス越えでは5000m近くまで行きましたが、それはやっぱり息苦しくなりましたね。
――気持ちわかります(笑)。
藤田●それがまたけっこうな勢いで上がってしまったので(笑)。そのときはさすがに着込んで上昇しましたよ。
――これはイメージの話なんですけれども、やはり高度のあるほうが風は強いものなのですか。
藤田●それはまさにここまでのお話しした通りなのですが、そう簡単でもないんですね。イメージとしてはその通りで、風が強いことが多いのは確かですけれども、いざ風が強い地上から上がってみたら微風だった、なんてこともしょっちゅうです。それがやっぱり熱気球のおもしろさでもありますよね。
――そうやって風を掴まえながら目的地を目指すとなると、離陸するのは時間差なんでしょうけれども、競技会のスタート後に同じ目的地に向かって“一列縦隊”のようになるんですかね。
藤田●はい、世界レベルの競技会になるとそうですね。時間差でスタートした熱気球たちが列を成すように飛んでいる状態になり、それが100基近くあるんですよ。これは見ている人たちからしたら圧巻でしょうね。ぜひ見ていただきたいものです。
――競技会ではスピードではなくうまく目的地に誘導する正確性が競われるとのことでしたから、そんな列を成している状態でも優雅に、出し抜いたりしないのでしょうね。
藤田●いや、それがまたそうでもなくてですね……。
――あ、なんかわかったつもりになっているだけですね(笑)。
藤田●いえいえ、充分です(笑)。やはり風が頼りの乗り物なので、いま先の熱気球が掴まえている“いい風”が止んでしまうかもわかりませんよね。それでちょっと先に上昇して掴まえに行ったり……あと、後ろにいたら前の動きがわかるので、どんな風がこの先に吹いているのか、挙動などから参考にできます。そういった駆け引きは世界レベルになればなるほど激しいですよ。
熱気球の伝道師“2代目世界のフジタ”の夢、それは7月の……
――さて、藤田さんと熱気球についてうかがって来ましたが、やっぱりこれ、その一列縦隊100基の熱気球など見てみたいですよ。
藤田●そう言っていただければ嬉しいです。ただですね、体験の話ところでも申しましたが、日本の場合はいま競技会はオフシーズンなんですね。
――印象ではすごいいい季節な気がしますけれども……。
藤田●外に出たくなる季節なんですけれどもね。それがなぜシーズンオフになるのかと言いますと、日本にはそんなに広い土地がなくてですね……。
――ああ、ちょっと広い土地になると電線とかも張り巡らされていて危険ですし……。
藤田●電線はこれしょうがないので避けていくしかないんですけれども、もっと大きな問題がありまして。熱気球の競技は目的地に砂袋を落とすわけですが、それ用の平らな大きな空き地が必要になってきます。
――はい。
藤田●そうなりますと、秋以降に出来る“平らな大きな空き地”を使うことが多くなるんです。これ、なんだと思いますか?
――うーん……。
藤田●たんぼです(ニッコリ)。稲刈りが終わってからが日本の熱気球のシーズンなんですよ。
――なるほどっ。なんか二毛作みたいな話ですね(笑)。
藤田●なので、今の時期は熱気球の魅力を伝えるのが仕事ですね。直接問い合わせていただいての体験もできますし、イベントなどで呼んでいただくこともあります。ぜひとも直に触れてみてください。
――自分が熱気球のオーナーになって……というのもできるものなのですか。
藤田●はい。僕たちの会社でも扱っていますし、パイロットになるには免許が必要ですがそのサポートもいたします。
――世界規模のパイロット二人の指導が受けられるわけですね。
藤田●ははは。ただパイロットになるためのトレーニング受付期間は12月から3月いっぱいまでなので、今年の12月まで体験などされながらじっくりご検討いただければと思います。
――まあなにはともあれ、まずは風に任せて飛んでみたくなりましたよ。
藤田●ありがとうございます(ニッコリ)。多くの人に熱気球の魅力を知ってもらうことは、僕も父も夢ですしね……あ、あともうひとつ夢と言えば……。
――はい。
藤田●今年の7月にブラジルで世界大会が開催されるんですね。
――おととしの世界大会、序盤はトップだったものの最終的には3位でした。ということは、リベンジ……?
藤田●自分らしくいけば結果は付いてくると思います。世界一になってきたいと思いますよ!
――おおおっ、世界一の吉報を楽しみにしています! 今日はありがとうございました!!
藤田●はい、ありがとうございました! 頑張ります!!
構成:松本伸也(asobist編集部)
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読み物 : VIVA ASOBIST 記:小玉 徹子 2014 / 04 / 17