第381回 洋楽編 ―― JOHN SYKES 追悼ジョン・サイクス レス・ポールを持った貴公子、逝去……
またしても悲しいニュースが飛び込んできました。1月20日、THIN LIZZYやWHITESNAKE、BLUE MURDERで活躍したジョン・サイクスが亡くなったとのこと……。ジョンの公式SNSによると、ガンとの闘病の末に亡くなったらしいんだけど、闘病していたなんて噂にもなっていなかったし、65歳でまだまだ若かった。想像もしていなかった急な訃報に驚いたと同時に、とてもショックを受けています……。
ジョン・サイクスのメロディアスで情熱的なギターが大好きでした。俺がジョンのことを知ったのは86年ごろで、大ヒットしたWHITESNAKEの『Whitesnake』(1987)がリリースされる前のこと。日本で行われたスーパーロック’84というロックフェスのライヴ映像でした。デイヴィッド・カヴァデール(Vo)、ニール・マーレイ(B)、コージー・パウエル(Dr)という70年代から活躍するロック界の重鎮たちに混ざって、ブロンドのロングヘア―を揺らし、堂々とプレイするジョンがもの凄くカッコ良くて、すぐにファンになったんだよね。それからしばらくしてリリースされた『Whitesnake』は、オールドファンならば周知のとおり、リリース前にジョンは脱退していたものの、ソングライティングやレコーディングには参加していて、アルバム全編にわたってジョンの凄まじいプレイが聴ける。もうね、夢中になって聴いたよ。これまでに何千回聴いたかわからないもの。
この曲を初めて聴いたときの衝撃といったら!
音楽総研にはほんとに何度も書いてきたけど、ジョン・サイクスはどうにも不運な人で、WHITESNAKEではあの大ヒットアルバムに多大な貢献をしたのにも関わらず、完成前に解雇されているし、WHITESNAKEの前に参加していたTHIN LIZZYは、加入時にすでに解散が決まっていたんだよね。それ以降も時代の流れに器用に乗れるような人ではなかったこともあってか、大きなヒットには恵まれず……、あれほどの才能を持ちながら、その才能に見合った成功を享受することがなかった。しかも、WHITESNAKEでは大ヒットしたアルバムのツアーやMVに参加していないこともあって、アメリカではあのアルバムの曲をジョンが書いてギターを弾いていたことを知らないファンが多かったらしいんだよね。日本では、THIN LIZZY、WHITESNAKEはもちろん、その前にやっていたTYGERS OF PAN TANGのころから新進気鋭のギターヒーローとして認知されていたから、当然ジョンの貢献度が高いことは知られていたし、脱退後に結成したBLUE MURDERの人気も高かったんだけど……。
ゲイリー・ムーアの影響が大きいんだろうけど、それでもこのソロは素晴らしい。ロック史上に残る名ソロだと思う
ジョン自身もインタビューなんかで話していたけど、BLUE MURDERは日本以外ではヒットせず、レコード会社からもドロップされてしまい、2枚目以降は日本のレコード会社がバックアップしていたという。日本では来日の嘆願署名も行われるほどの人気があったのに、ジョンが住んでいたアメリカやヨーロッパでは何も起こらなかった、と。BLUE MURDERは、WHITESNAKEの曲を書いたのは俺だと言わんばかりの素晴らしいアルバムを作ったのにも関わらず……。ただ、ジョンがあの大ヒットアルバムでギターを弾いていたことがもっと知られていればあるいは……とも思ってしまうけど、レコード会社も扱いに困っていたような印象もある。WHITESNAKEよりもブリティッシュ風味の強いBLUE MURDERは当時の流行りではなかったし、WHITESNAKEだってアメリカ寄りのサウンドにしたからこそのあの大ヒットだっただろうし。それでもねえ……、なんで『Valley of the Kings』みたいな大仰な曲をシングルにしたんだ。ああいう曲はアメリカじゃ売れないでしょ。田舎の高校生だった俺でもわかったぞ。他にもっとキャッチーな曲があったじゃないか。
ジョンがこんなに歌える人だなんて誰も知らなかったよね。そしてこの曲をシングルにすればよかったのに……
あの歴史的名盤、『Whitesnake』でのジョンのプレイは鬼気迫るという言葉がぴったりで、他に類を見ないほどの凄まじさだ。楽曲にしても、デイヴィッドとの共作だったとはいえ、ジョンがいたからこそ、あの名盤が生まれたのは誰の目にも明らか。それなのに完成前に解雇され、自分以外のギタリスト(エイドリアン・ヴァンデンバーグ)がソロを弾いていたりもする。エイドリアンによると守秘義務があって言えないとのことだったけど、クレジットされている『Here I Go Again』以外にも弾いている曲があるという。俺にはどの曲でエイドリアンが弾いてるのかはわからないけど、ジョン自身にはわかるはず。そして、あれほどの作品を作るのは、おそらく魂を削るような作業だっただろう。それなのに他のギタリストが知らないうちに手を加えているなんて……、こんな屈辱はないよ。エイドリアンは依頼されてやったんだし、少しも悪くない。しかし、デイヴィッドなのかレコード会社なのか……、どんな理由があったにせよ、他にやり方はなかったのかと思わずにいられない。このことはジョンのその後の活動や、人格形成に大きな影を落としてしまったんじゃないだろうか。俺の想像でしかないし、ジョン自身が吹っ切れていたのなら、そのほうがいいに決まっているんだけど……。
THIN LIZZY加入前にTHIN LIZZYのメンバーたちとレコーディングしたジョンのソロ。このころがいちばん幸せだったんじゃないだろうか、と想像してしまう
ジョンのライヴは一度も生で観ることができなかった。ジョンはいつごろから闘病していたんだろうか。こんなことになるとは夢にも思っていなかったとはいえ、何度も観るチャンスはあったから、ライヴが観られなかったのは俺のせいだけど……、それでも、それでも言いたい。この長い長い空白の間に、アルバムをリリースしたり、ライヴをやったりしてほしかった。また日本に来てほしかった。残念でなりません……。
R.I.P. John Sykes, My heartfelt condolences to you and your family.
※ジョン・サイクスのことはこれまでに何度も取り上げてきました。バックナンバーもぜひ読んでみてください。素晴らしいアーティストでした……。
<バックナンバー>
第58回 洋楽編 JOHN SYKES ―― 誰もが認め、誰とでも揉めるスーパーギタリスト
第105回 洋楽編 WHITESNAKE ―― ダグ・アルドリッチ脱退からのWHITESNAKEギタリスト考
第179回 洋楽編 JOHN SYKES ―― レス・ポールを持った情熱の貴公子、復活!
第226回 洋楽編 BOB DAISLEY & FRIENDS ―― 盟友ゲイリー・ムーアに捧ぐ! ボブ・デイズリー&フレンズ、魂のトリビュートアルバム
第227回 洋楽編 THIN LIZZY ―― ツインギターのお手本はアイルランドの至宝!
第241回 洋楽編 BLUE MURDER ―― 意味深な写真でにわかに再燃した、根強い再結成待望論
第250回 俺らの音楽編 ―― 祝・連載250回記念! My Favorite Guitar Solo〜こういうギターが好きなのよ
第282回 洋楽編 GUITARISTS WHO WERE INFLUENCED BY GARY MOORE ―― 没後10年、あらためてゲイリー・ムーアの影響を振り返る
第337回 俺らの音楽編 A GUITARIST WHO CAN SING WELL ―― 名ギタリストにして名シンガー、天が二物を与えた男たち
※ikkieのバンド、Antlionのシングルがリリースされました!
ストリーミング&ダウンロードはこちらから
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※ikkieのYouTubeチャンネルです!
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