
【映画レビュー】か「」く「」し「」ご「」と「
もしも相手の気持ちが“見えて”しまったら……? 日本中を席巻したあの大ヒット作『君の膵臓をたべたい』の原作者・住野よるによる新たなベストセラー小説『か「」く「」し「」ご「」と「』が実写映画化!! キャストには『MOTHER マザー』の奥平大兼、『赤羽骨子のボディガード』の出口夏希、TVドラマ「離婚後夜」の佐野晶哉(A ぇ! Group)、『月の満ち欠け』の菊池日菜子、『違国日記』の早瀬憩と、若手実力派の錚々たる面子が集結! 思春期の高校生たちが織りなす、よくある青春モノとは一線を画した青春ラブストーリーの誕生だ。
イマイチ自分に自信が持てない高校生、京(奥平大兼)。彼には、相手の気持ちがイメージとして見える不思議な力が備わっている。彼の目線が追いかけるお相手は、クラスの人気者の三木(出口夏希)。そんな力を秘めつつも、三木の親友、パラ(菊池日菜子)と楽しそうにしている三木の姿を見つめるだけで満足していた京。親友のヅカ(佐野晶哉)を通して、三木と友達の友達でいれればそれで満足だったのだ。だがある日、内気な性格の宮里(早瀬憩)が不登校となり、京たちの思惑を超えた違う歯車が回り出す……。





本作は、いわゆる単なる甘酸っぱい青春モノではない。作風としては確かに爽やかな青春モノではあるのだが、もうその年代ではない大人たちが観たとしても、いくつになっても我々人間を悩ませる人と人とのコミュニケーションというものを、深く深く考えさせられるような作品だ。
仮に……仮にだ。本作の登場人物のように相手の気持ちが手に取るように分かるような少しだけ特別なチカラを我々が持っていたとしても、全く関係なく人間関係の渦に巻き込まれるのは自明の理だ。大切なのは、相手の気持ちを丸裸にして分かり切ることではない。相手の気持ちが分かろうと、或いは逆に分かるまいと、自分がどう思い、行動するか、それだけだ。考えるより、動け。だが、それができれば苦労はしない。考えれば考えるほど体は言うことを聞かなくなり、考えれば考えるほどあたかも動いたような錯覚にすら陥ってしまい、何も動かずに終わってしまう。だが、それでは人生は何も変わらない。言葉で言ってしまえば簡単なこの大切な真理を、本作は丁寧に丁寧に、まるで深夜に蕾が花びらを開くように、繊細なタッチで我々に紐解いてくれる。本作の青春ラブコメは、仮の姿。実際は我々に大切な示唆を与えてくれる、深い深い作品なのだ。
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さて、監督のたっての願いから、ロケ地は廃校やスタジオセットではなく、「生きている学校」にすることが至上命題だったという。監督曰く「説得力が全く違うので」とのこと。そこで白羽の矢が当たったのが、直近で大規模な改築工事が成された新潟県立新潟商業高等学校。なんと偶然にも私の母校であり、シーンの半分以上がこの高校での撮影だ。折角のご縁なのでこの新潟商業高校、通称・新商(しんしょう)に赴き、撮影にも立ち会われたという小畑智嗣校長に、ロケ現場の校舎内をご案内いただいた。
キャストたちが実際に演技をし、エキストラとして新商の在校生たちも映っている教室ほか、校舎内外。はたまた、本作内の設定である学校名のプレートの小道具は木製で、撮影時には実際の新商のプレートの上からパカっと嵌めこむようにできていたとのことでその現物などなど興味深いお話しも伺えたので、是非その写真もご覧いただき、本作鑑賞中に「あ、あれだ!」と答え合わせなどしていただくのも楽しい鑑賞法かもしれない。









小畑校長曰く、新潟商業高校では商業高校ならではの特色を生かし、観光の授業も行われているという。校舎がロケ地になったということは、いわゆる聖地巡礼としての新潟観光ツアー、本作の劇場での鑑賞やロケ地の校舎巡りなどを組み込んでのツアーの内容を生徒たちに考えてもらうのも、授業の一環として面白い取り組みなのではないか……とのお話しだった。学食と舞台のシーンだけは同じく新潟第一高校が第二のロケ地だったそうだが、それ以外の学校のシーンはすべて新商とのこと。この“観光の授業”は商業高校ならではの強みだろう。是非、本作の聖地巡礼ツアーとして実現していただけたら……と、新商卒業生の1人である私も密かに願っている次第。
しかし、ん十年前に卒業した母校を、映画ライターとして取材のために訪れ、校長にインタビューさせていただける日が来ようとは、当時は夢にも思っていなかった。高校時代は、本作の登場人物たちよろしく、皆々様同様、例に洩れず思春期真っ只中で、些細なことを気にしながら日々をどうにかこうにか生きているような、随分悩み多き女子高生だったな~。ちょっとは私も出世したのかな~と思うと感慨深い。是非ぜひ、我が母校の新商が聖地として脚光を浴びることも願いつつ、本作の大ヒットを願っている次第だ。
そのことを抜きにしても、作品単体としても非常に深みのある人間ドラマなので、是非とも劇場でご覧いただきたい。

原作:住野よる『か「」く「」し「」ご「」と「』(新潮文庫刊)
監督・脚本:中川駿
出演:奥平大兼、出口夏希、佐野晶哉(Aぇ! group)、菊池日菜子、早瀬憩、ヒコロヒー
配給:松竹
公開:5月30日(金)、全国公開
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/eigakakushigoto
©2025『か「」く「」し「」ご「」と「』製作委員会、©2017住野よる/新潮社
記:林田久美子 2025 / 05 / 27