【映画レビュー】落下音
“生きているのか、死んでいるのかはどこでわかるの?” 北ドイツの農場での1910年代、1940年代、1980年代、そして現代という4つの異なる時代に生きる4人の少女たちが体験する怪異とは……。「今年のカンヌで最も記憶に残る作品」、「映画言語を更新する新たな才能」、「次世代を担う重要な監督の登場」といった称賛が相次ぐ本作。過去のどんなホラー作にも分類できない、新たな恐怖を呼び起こす映像叙事詩。
1910年代、北ドイツ。アルマ(ハンナ・ヘクト)は同じ村で、自分と同じ名を持つ幼くして死んだ少女の存在を知る。1940年代、エリカ(レア・ドリンダ)は片足を失った叔父への欲望に気づく。1980年代、アンゲリカ(レーナ・ウルゼンドフスキー)は常に“何か”の視線に怯えている。そして現代、家族と共に移り住んだレンカ(レニ・ガイゼラー)は、得体の知れない孤独感に苛まれていく……。



本作は特異だ。他のホラー作とは特別に異なる作品だ。明らかに怪奇現象として描かれるシーンはわずか数回。他は淡々と、主人公とその家族の日常が描かれる。その日常は楽しいことが少しばかり、どちらでもないことや苦しいことが大半。まるで我々多くの庶民の日常を垣間見るかのようだ。そして決定的な不幸が、真綿で首を絞められるかのような抗うことのできない決定的な不幸が時おり訪れる。その不幸を受け入れながら、登場人物たちの日常が、人生が進んで行く。
何の変哲もないかのように見える、特筆すべきことのない平凡かのように見えるストーリー、そして映像世界。だが、だからこそそのわずか数回の怪奇現象が、過去のどんなホラー作よりもリアルに、まるで本当に起こっているかのように感じられ……そう、肝っ玉の小さい私なんぞには本作鑑賞後の深夜にそのシーンが思い出され、今までにない強烈な恐怖に襲われたのだ。本作がいわゆるハリウッド的なエンタメの様式を取っていないからこその恐怖が、創作だ、偽物だと笑い飛ばすことのできないリアルな恐怖が、私を襲ったのだ。
アカデミー賞・国際長編映画賞ノミネート。カンヌ国際映画祭・審査員賞、シカゴ国際映画祭・監督賞、ストックホルム国際映画祭・監督賞、バンコク国際映画祭・審査員特別賞、アテネ国際映画祭・最優秀作品賞、ハンプトンズ国際映画祭・審査員特別賞ほかを受賞するなど、世界中の映画祭から絶賛される静かなる怪作。
監督・脚本:マーシャ・シリンスキ
出演:ハンナ・ヘクト、レア・ドリンダ、レーナ・ウルツェンドフスキー、レーニ・ガイゼラー
配給:NOROSHI ギャガ
公開:4月3日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
公式サイト:https://gaga.ne.jp/rakkaon_NOROSHI/
© Fabian Gamper – Studio Zentral
記:林田久美子 2026 / 02 / 10





