第253回 洋楽編 BILLIE EILISH ―― 2020年グラミー賞5冠! 恐るべき才能を持った新世代のポップアイコン、ビリー・アイリッシュ!
たまに、ただいまレコーディング中です、なんてことをここに書くことがありますが、実はそのほとんどを自宅で行っています。さすがに生のドラムなんかは録れないけど、パソコンが身近になったことや、機材の進化で、狭い部屋でもレコーディングが出来るようになったんだよね。しかも、低予算なうえに良い音で録れるという。すごい時代になったもんです! さて、今回は俺と同じようにベッドルームで録ったアルバムでグラミー賞5冠を達成してしまったビリー・アイリッシュをご紹介! 彼女は、時代を変える力を持ったアーティストかもしれないよ。
ビリー・アイリッシュは自主制作した音源を16年に音声ファイル共有サービス でリリースし、それがまたたくまに口コミで世界的に話題になり、17年にメジャーデビューしたアメリカ人アーティストです。なんとまだ18歳という若さですが、先日行われたグラミー賞で、年間最優秀レコード、年間最優秀アルバム、年間最優秀楽曲、最優秀新人賞、最優秀ポップ・アルバムを受賞。グラミー賞の主要4部門を独占したのは、39年ぶりかつ、史上2度目の快挙とのこと。女性としては初だし、さらに最年少でもありました。
俺がビリーのことを知ったのはBSの洋楽番組で。最近話題のアーティスト、なんて感じで特集されていたんじゃなかったかな。『bad guy』のPVを観てすぐに気に入った。ボソボソと囁くように歌うヴォーカルと、不穏な響きのバックトラック。そしてどこか心地よい悪夢のような世界観……、セクシーでもマッチョでもなくて、あまりアメリカ的じゃないと思ったなあ。最近の若いアメリカの女性アーティストは、セクシー成分過多か、前向きな強い女性像をアピールしているように見えるアーティストが多いと感じているんだけど、ビリーはそのどちらでもない。歌詞も暗いものが多いし、ちょっとサブカルな香りもする(ビリーは日本のアニメが好きらしい)。ビリーがもし東京にいたら、下北沢あたりに住んでいそうだ。
最初にこのMVを観た時、面白いじゃん、とすぐに気に入りました。この曲でグラミー賞の最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞を受賞!
でも、逆説的に今のアメリカっぽいのかもしれない。テイラー・スイフトやアリアナ・グランデのようなアーティストは大人気かもしれないけど、彼女たちに共感できないティーンエイジャーもたくさんいるはずだ。SNSでリア充をアピールするような子ばかりじゃない。最近はとくに、国籍問わず“陰キャ”を自認しているような子たちが増えていそうな気がするし……、現在のティーンエイジャーたちは、キラキラした夢のような生活よりも、自分たちと同じように、今がどれだけ最低な気分かを歌ってくれるアーティストを求めているんじゃないかな。90年代、「やあ、どれだけ最低だい?」と歌ったNIRVANAのように。ビリーは現代のカウンターカルチャーで、オルタナだ。
R&Bシンガー、カリードとのコラボ。実は『bad guy』より先にこの曲を聴いていて、誰だろ?いい曲だなと思っていたんだよね。
ただ、グラミー賞5冠というアメリカでの狂騒をよそに、日本ではそこまで盛り上がっていないような気もするね。グラミー賞に加えて9月の来日が決まって(ずいぶん先だ)、これからどんどん盛り上がっていくとは思うけど、やはり英語が母国語でない分、ビリーの歌詞やアティテュードが伝わりにくいのかなあ。まあでも、俺みたいなおじさんにも響いたわけだから、日本のティーンエイジャーに広がっていくのも時間の問題かな。
ビリーの曲は、ほぼ兄のフィネアス・オコネルとの共作だという(フィネアスはグラミー賞の最優秀プロデューサー賞を受賞!)。フィネアスもまだ22歳という若さで、それであの曲を書いているのかと思うと、どれだけ才能のある兄妹なんだと空恐ろしくなってくる。ビリーと完全共作でプロデュースや楽器演奏まで行っていることを思えば、二人のバンドとしてもよさそうなものだけど、フィネアスはあくまで裏方。ビリーはフィネアスのことを表に出そうとしているのに、いや俺はいいよ、なんて言ってそうな印象もあるんだよね(グラミー賞の授賞式もそんな感じだった)。そんなところもなんだか今どきの男子っぽいなあ。
現時点でのフェイヴァリットです。おじさんでも胸がギュってなる……。ちなみにビリーの隣りでギターを弾いているのがお兄さんのフィネアス。
サウンド面では、バックトラックの音数が少ないことに驚いた。ここ最近、ドラムとベースに鍵盤ぐらいしか入っていないトラックが増えてきていたりもしたけど、まだまだいろんな効果音や楽器を何重にも重ねた作品が多い。現時点での最新アルバムはごくごくシンプルなトラックばかりで、まさにベッドルームで作ったんだろうな、と感じる。しかも個人で、ね。余計なことを言う大人が関与していないであろうことも伝わってくるんだよね。これ、大音量のスピーカーで聴くよりも、ヘッドフォンで聴くほうが浸れそうだ。この辺りも今どきっぽい……、なんていう俺はやっぱりおじさんですね。
最後にフィネアスのグラミー賞でのスピーチを少し引用。
「僕らはベッドルームで一緒に音楽を作ってきました。これ(グラミー賞)を、ベッドルームで音楽を作っているすべてのキッズに捧げます。君たちはいつかこれを受賞することになるよ!」
……おじさん、なんだか嬉しくなって泣いちゃいました。俺だって、ベッドルームで音楽を作っているキッズだったんだもの。
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