第405回 俺らの音楽編 ―― 生成AI その恐るべき進化と、クリエイターとしての矜持のせめぎ合い
いつの間にかもう1月も半ばを過ぎてしまいましたが、まだ正月ボケが抜けていないのか、何をするにもペースが上がらず、少しまいっています。体調が悪いわけではないんだけど、良いわけでもなく。アラフィフになるとこんなものなんですかねえ。まあ、もともと寒いのが苦手だし、暖かくなるころにはきっと元気になっているはず……と期待して、寒いうちは無理せずゆるゆると頑張りましょう。さて、今回の音楽総研は、昨今話題になっている生成AIについてあれこれと。ミュージシャンとしては、ちょっと見過ごせないレベルで進化しているんですよね。
ちょっと前から、YouTubeのおすすめにメタル系アーティストの○○って曲をジャズ風に演奏してみたとか、ファンク風に演奏してみた、なんていう動画が頻繁に表示されるようになっていて、なんとなく再生してみると、凄く完成度が高くて驚いた、ということが何度もありまして。でもね、どんな人がやっているのかな、やるなあ、なんて感心して、アップしているアカウントのチャンネルを見てみてもプロフィールらしきものがないし、誰がアレンジして、誰が演奏しているのかがわからない。他にもね、まったく知らない女性ブルーズシンガーの凄くクオリティが高いオリジナル曲がアップされていたりもして、ライヴ映像が観てみたいとチャンネルを見に行ってみても、そのアカウントにも本人の写真やプロフィールがない……と、ここで、ようやくAIで作られたものだという可能性に思い当たり、英語で書かれた動画の概要欄をよーく読んでみると「AIで改変・生成されたコンテンツ」との記載があるじゃありませんか! それに気付いてからは、もうそういう類の動画は再生しなくなりました。技術的には凄いと思うけど、なんだか騙されたような気になってねえ。しかし、すぐに気付かなかったのはミュージシャンとしてどうなのよ。
音楽系人気YouTuberのみのさん。俺とは違ってAIだとわかった上で聴いていたみたいだけど、俺は知らずに聴いていたんだよねえ。この動画の段階ではどうやって作っているのかわからないとお話しされているけど、のちに判明したようです
ただ、言い訳させてもらうと、YouTubeには既存曲のアレンジを変えた生演奏の動画がたくさんアップされているし、AIだと謳ってあるものにしても、AIで生成された楽曲に合わせて生身の人間が歌ったり演奏したりというような動画が多かったから、まさかこんなにクオリティの高いものが、全部AIで作られたものだなんて想像もしていなかったんだよね。ドラムやシンセなんかは何十年も前から生演奏みたいなクオリティの打ち込み(自動演奏)が存在したけど、ギターや歌はまだまだその域には達してないと思っていたし……。初音ミクのようなボーカロイドも、そのソフト自体のクオリティはどんどん上がっていても、さすがに生歌のようには聴こえないもの。生成AIは、そもそもの仕組みがボーカロイドのようにMIDIの打ち込みで作るものとは違うんだろうから、比較するものでもないのかもしれないけどね。それにしても生成AIで作られた音楽の、このクオリティは驚異的だ。ファンクやソウル風に作られた曲にはばっちりとホーンセクションが入って、ソウルフルな黒人シンガーが歌っているように聴こえるし、ヘヴィメタル風の曲ではそれっぽいヴォーカルがシャウトして、イングヴェイ・マルムスティーンみたいな速弾きギターソロも入っている。
このシリーズ好き(笑)。これはきっとAIで曲も動画も作ったんだろうけど、概要欄にも書いてあるように、製作者の方の創意工夫があってこその、この完成度なんでしょう。AIは使い方次第だよね
他にもね、一から曲を作ったりアレンジしたりするものとは別に、自分で歌った歌声を別人の歌声に替える、なんてことができるAIもあるんだよね。なんと、いくつかボタンをクリックするだけであっという間に男性の歌声を女性の歌声に変えたりすることができるという。しかも、これがまた凄いクオリティでね。ほんとにSFの世界だよ。俺が今までボーカロイドを使ってこなかったのは、あの機械的な歌声があまり好きじゃなかったのと、俺のバンドには上手いシンガーがいて、自分でもそれなりに歌えるからだったんだけど、ここまで有機的な歌声が生成されるとなると、ちょっと使ってみたいとも思う。自分の曲を黒人女性が歌ったらどうなるだろう、というような興味もあるしね。ただまあ、それなりのお値段だし、今は別にいらないか、って感じです。しかし、これが無料だったり、もっと安かったりしたら……使っちゃうかもなあ。プロの作曲家でも、仮歌や、必ずしも生歌でなくてもよい、というシチュエーション(動画のちょっとしたBGMとか)ならば、使ってみようという人はいるだろうし、実際に使っている人もいるんじゃないかな。ほんと、仮歌のレコーディングなんかには凄く便利なツールだと思う。予算も抑えられるし、時間も短縮できる。上手く使いこなせれば、という前提ではあるけども。
レコーディングされたヴォーカルトラックを別の音声(楽器でもOK)に替えられるソフト。使えるヴォイスモデルがちょっとカッコいいんだよね……。凄い時代になったもんだ
作曲の知識がない人や、楽器の演奏ができない、歌が歌えない人でも、それなりのクオリティの楽曲を作ることができるというのは、画期的なことだよね。俺も演奏できない楽器は打ち込みで自動演奏させているし、今後もそうやって便利に使っていくつもり。それでも、演奏させるフレーズは自分で考えるし、AIに曲を作ってもらうなんてことはやりません。ミュージシャンたるもの、アイディアは自分で出さないとダメでしょ! ただ、AI自体を否定するようなつもりはまったくなくて、たとえばレコーディング時のノイズ処理だったり、ミックスやマスタリングにAIアシスタントを使ったりはしています(あくまで補助的に)。自分の本業ではないことをやらなくちゃならない時は、それもありかなと……。バンドのMVを自主制作するとなったら、AIを使うのもありかな。でもね、映像制作をする人たちは嫌だよね、きっと。この原稿だって、AIに書いてもらうこともできるのかもしれないけど、ライターの矜持として、それはやっちゃダメだと思っています。でも、職場のちょっとしたメールなんかをAIに書かせているサラリーマンの方とかはいそうだよね。謝罪文とかじゃなければ問題ないのでは。
最後に生身の人間の素晴らしい演奏をご紹介。以前、オマージュの回(第372回)でも紹介した中島雄士さんというミュージシャンの方がビートルズ風のアレンジでマライア・キャリーの名曲をカバー。AIよりも、こういうのをもっと聴きたいよね
生成AIは凄く便利だし、素晴らしいツールなんだろうけど、自分のオリジナリティやクリエイティビティが損なわれるようなら、使うべきではない、と思う(たとえ本業ではないことだったとしても)。聴いている側が気付かなかったとしても、自分は使ったところがわかるでしょ。俺なら、「実はあそこAIなんだよな……」と後悔が澱のように心に残ってしまいそう。それに、AIが作ったところだけ褒められたりしたら嫌じゃない? まあ、人によって使うか否かの境界線は変わるよね。難しい問題です……。
※ikkieのバンド、Antlionのシングルがリリースされました!
ストリーミング&ダウンロードはこちらから
https://linkco.re/vPZ00Quz?lang=ja
※ikkieのYouTubeチャンネルです!
https://www.youtube.com/channel/UC-WSajndNhq0tu7K7-MBEmQ?view_as=subscriber





