
第385回 ロック漫画編 ぼっち・ざ・ろっく! ―― とても幸せなメディアミックス成功例
このところ真冬に戻ったかのような寒さが続き、なんだか体調がいまいちでした。雪国出身ではあるものの、東京に住むようになってもう30年以上、すっかり寒さに弱くなっちゃった……。そろそろ暖かくなってほしいなあ。……さて、今回の音楽総研は久しぶりのロック漫画編! 漫画だけでなく、アニメや舞台も話題になった『ぼっち・ざ・ろっく!』をご紹介します。連載が始まったのも、アニメが放送されていたのも、もう数年前なんだけど、今頃になってハマっちゃって。

『ぼっち・ざ・ろっく!』は、2022年からまんがタイムきららMAXで連載している、はまじあき原作のギャグ漫画。「ギターヒーロー」の名前で動画配信サイトにて人気になるほどの実力を持ちながらも、極度のコミュ障のためにバンドを組むことが出来ない女子高生が、偶然の出会いから“結束バンド”なるバンドに加入し、バンド活動を始めていく、というストーリー。こんなふうにざっくりと書くと、よくある青春バンドもののように思えるかもしれないけど、4コマ漫画らしくテンポのいいギャグでストーリーが進んでいくことと、主人公の“ぼっち”こと、後藤ひとりのコミュ障っぷりがなかなかイカれていて、他の青春バンドものの漫画とはずいぶん印象が違う……まあ、そんなに他の青春バンドものを見たり読んだりしているわけではないので、あんまり偉そうなことは言えないんだけど。
文化祭のステージで1弦が切れたぼっちが、ワンカップのグラスで咄嗟にボトルネックを決める名シーン。こんなアニメ観たことないよね(笑)
『ぼっち・ざ・ろっく!』というタイトルは以前から知っていて……、たぶんアニメが話題になったころだったと思うんだけど、YouTubeに『劇中歌を弾いてみた!』という動画や、『ぼっちちゃんのエフェクターボードを完全再現!』といった動画がたくさんアップされていて、「へえ、またバンドもののアニメが流行っているのか」なんて思ってはいたものの、さほど興味もわかず……。まあ、おじさんだし、流行りのアニメを逐一チェックするようなタイプでもないし。そんな俺がなぜ今頃になってハマっているかというと、YouTubeで期間限定公開されていた、舞台化された『LIVE STAGEぼっち・ざ・ろっく!』を観て、衝撃を受けたからでした。
舞台版のダイジェスト。それぞれの演技はもちろん、生演奏も素晴らしい
今になって思い出してみても、なんでこの動画を観ようと思ったか覚えていないんだけど、漫画版をチラっと読んでいたからか、酔っていて尺の短い動画を何度も選ぶのがめんどくさくなっていたのか、おすすめに表示されていたこの長尺の動画を何気なくクリックしてみたんだよね。普段なら10分を超えるような動画はほとんど観ないのに、(観終わるまで知らなかったとはいえ)2時間超の動画をじっくりと最後まで観てしまった。最初は登場人物のいわゆるアニメ声にちょっと苦手意識を覚えたものの(あとでアニメを観たら声優と話し方がそっくりで感心した)、ぼっちをはじめとするキャラクターそれぞれが魅力的で観ていて飽きないし、生演奏だったこともあって、気が付いたら見入っていました。いや、するっと書いたけど、その生演奏が良かったんだよね。
作曲者の音羽-otoha-も参加したスペシャルメンバーによるスタジオライヴ。長谷川育美さん、ミュージシャンとしてもいけるのでは。音源よりもライヴのほうがいいんだもん
後で調べてみると、出演していた俳優さんたちは、実際にミュージシャンとして活動している人や、楽器経験のある人たちだったらしいんだけど、それにしたっていい演奏だった。結束バンドのギターヴォーカル、喜多郁代役の大森未来衣の力強い歌声で一気に舞台の世界に引き込まれたし、謎の酔いどれベーシスト、廣井きくり役の月川玲には、「この人、俳優なの? 上手い!」と、ほんとに驚いたもの(ミュージシャンが本業の方でした)。そして、結束バンドの楽曲がなんとも俺好みだったんだけど、作曲していたのが音羽-otoha-だったことを知って大感激。というのも、音羽-otoha-は以前「極私的オススメ女性ギタリスト」として紹介したFERN PLANETのSERINAと同一人物なんだよね。いやもう、自分の耳の確かさに鳥肌が立ったよ(笑)。
音羽-otoha-のペンによる楽曲をアニメ版の声優陣で生演奏。拙さはあったとしても、ちゃんとさまになっているし、未経験の担当楽器でここまで仕上げるのはほんとに凄い。そしてとてもエモーショナルな演奏! 素晴らしい。
バンドを辞めたSERINAが名前を変えてYouTuberグループに所属していたのは知っていたけど、そのグループを脱退して音楽活動を本格的に再開していたことは知らず……、ましてやこんなふうにアニメの楽曲を手掛けていたなんて全く知らずにいました。もっとチェックしておくべきだったなあ。これは嬉しい驚きです。そしてその音羽-otoha-経由で、音羽-otoha-自身が演奏している彼女が提供した結束バンドの楽曲や、アニメ版の声優さんが歌うバージョン(喜多ちゃん役の長谷川育美の歌声がとくに素晴らしい!)、アニメ版のぼっち役を担当した青山吉能がゼロからギターを習得するアニメ連動企画の『ギターヒーローへの道』を観たり、『ぼっち・ざ・らじお!』を聴いたり……。気が付けばアニメ版を全話視聴し、漫画原作も全巻購入するほどハマっていたのでした。
バンドものの漫画やアニメって、ストーリーがどれだけ面白くても、ミュージシャンからすると、バンドや楽器の描き方が適当だったり、作者の年齢や偏った趣味による登場人物の音楽性に違和感があったりすることが多かったんだけど、この作品にはそれがまったくない(レス・ポールのPUセレクターの位置が気になったりはする)。音楽や楽器についての監修をしている人もいるようだし、ギャグ漫画ではありつつも、リアリティも少なからずある。いやー、こんなに面白いバンドものの漫画やアニメが作られるようになったんだねえ……。そしてなにより、アニメも舞台も原作への愛情がしっかりと感じられるのがいい。メディアミックスのとても幸せな成功例じゃないでしょうか。ウィンウィンってこういうことだよね。
※文中敬称略
※ikkieのバンド、Antlionのシングルがリリースされました!
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