
第386回 ロック映画編 シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング ―― She’s So Unusual !! 自分らしく生きることを恐れる必要なんてない
先日、シンディ・ローパーのドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』を観てきました! シンディ本人はもちろん、シンディの姉弟やソロデビュー前に組んでいたBLUE ANGELのメンバー、かつては婚約者でもあった元マネージャーなどの証言や、過去のライヴ映像、シンディが参加しているLGBTQ+の啓蒙活動の映像などで構成されていて、とても興味深い内容でした。同世代のアーティストとしてはCULTURE CLUBのボーイ・ジョージが出演していて、シンディのファンだけでなく、80年代の洋楽ファンなら当時の空気感を思い出したりしてきっと楽しめるはず。

シンディはニューヨークのブルックリン出身。両親の離婚も経験し、決して恵まれた生い立ちとは言えず、シンディと聞いてイメージするポジティヴで天真爛漫なキャラクターとは違う、荒んだ生活をしていたこともあったという。デビューしてすぐにスターになったようなイメージを持っている人も多いと思うけど、ソロアーティストとしてのデビューは30歳になってからだし、当時としてはかなり遅咲き。実は長い下積みを経験していて、ソロデビュー前のバンド、BLUE ANGELでは成功をつかむことが出来なかったんだよね。
今作では、そのBLUE ANGELや、それ以前にやっていたバンド(FLYERって名前だったと思う)のライヴ映像を観ることが出来る。ヒットしなかったとはいえ、BLUE ANGELはプロのバンドだったけど、その前のバンドなんてアマチュアのはずだし、よくそんな映像が残っていたと感心した。だって、70年代のアマチュアバンドだよ。そして、その古い映像のころからシンディはシンディだった……! 力強い歌声も、個性的なファッションも、よく知られているシンディそのもの。ただ、バンド全体で見ると(シンディも含めて)、良く言えば粗削り、率直に言えばアマチュアっぽさが残っていたし、ヒットしなかったのもわからないでもない……。でも、そのBLUE ANGEL時代の曲の中に、ソロになってからもやっている曲があるのに気付いてびっくり(『Maybe He’ll Know』と『I’m Gonna Be Strong』)。そういえばアルバムのライナーノーツにそんなことが書いてあったのを家に帰ってから思い出したけど、すっかり忘れてた。シンディ・ローパーほどのアーティストが、曲数が足りずに昔の曲をやるなんてことがあるはずもないし、名だたるソングライターが書いた曲よりも、その曲のほうが良かったから収録したんだよね、きっと。楽曲に自信や思い入れがあったからだと思うけど、BLUE ANGELのメンバーも誇らしかったんじゃないだろうか。
驚いたことは他にもあって、たとえばデビューシングルにしてシンディの代表曲でもある『Girls Just Want to Have Fun』がシンディのために書かれた楽曲ではなく、もとは作曲者であるロバート・ハザードのレパートリーだったとか。いやー、これは知りませんでした。ロバートが演奏している映像も流れて、それを観るとたしかに『Girls Just Want to Have Fun』らしき曲ではあるんだけど、ストレートなロックソングで、シンディのバージョンとは全然違う。大ヒットしたシンディのバージョンにしても、何度も何度もアレンジや歌詞の変更があって、あのバージョンになったようで、その複数のバージョンが、ミュージシャンとしてとても興味深かった。自分の曲をあんなふうに変えられたロバートの心境やいかに、とも思ったけど、時代を象徴するようなアンセムになったわけだし、満足しているのかな。
世界的な大ヒットを連発し、スーパースターになったシンディも、3枚目のアルバム『A Night to Remember』あたりから徐々に売れ行きに陰りが出始め、俳優として映画に出演するなど、はたから見れば迷走しているように見えた時期のこともしっかりと触れられている。日本でのシンディ人気は相変わらず高かったように記憶しているし、『A Night to Remember』は今でもよく聴く俺のフェイヴァリットアルバムで、ヒットしていなかったのかと驚いてしまったけど、たしかにあの時代は(1989年)HR/HMバンドがチャートを席巻していた時代でもあったし、その数年後にはグランジブームもやってくるわけだから、シンディのようなポップアーティストは苦戦した時代だったのかも。
そうそう、シンディがジャニス・ジョプリンに影響を受けていたということも、今作で初めて知りました。映画の中でも共演しているパティ・ラベルのような黒人シンガーや、いわゆるR&Bからの影響は知っていたけど、ジャニスの名前が出てきたのには驚いた。シンディはクリアーなハイトーンヴォイスで、ジャニスのようなしゃがれ声を絞り出すようなタイプではないし……。それでも、あの高音域でのシャウトや、フェイクの入れ方は、言われてみたらジャニスっぽい。あの力強さも。
長年のファンの俺でも、知らないことがいっぱいあったし、ここに書ききれないほどいろいろとあらたな発見がある映画でした。一週間限定の上映のようだけど、一部の劇場ではもう何日か上映されているみたいなので、間に合うようならぜひ! そしてこの原稿が公開される予定の22日、シンディ最後の日本ツアーを観に行ってきます。ほんとに最後なのかなあ……。
※ikkieのバンド、Antlionのシングルがリリースされました!
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